インドから来た暴れん坊・其の七
今日の為の準備は完璧だった。
夏の強い日差し、うだるような暑さ。そんな中を歩いてきた人の為の冷たいおしぼりと、キンキンに冷やしたお冷。
空調も強すぎず、弱すぎず、カレーを食べて気持ちのいい汗をかくには最高の感興と言えるだろう。
そう、今日のこの田中、おもてなし的不足による接客ミスは決してない!
そう思った瞬間、ひしゃげたドアが俺の目の前を通り過ぎ、壁に激しくぶつかった。
「ん? ずいぶん脆いドアだ……これではヒーローが襲ってきたらすぐに入られてしまうじゃないか」
カレー屋に攻めてくるヒーローがいる訳ないじゃないか……たぶん。
そう思いながらドアの方を視ると、ゆっくりとドアを潜るように男が一人入ってきた。
「モダルカン幹部。鬼のウイキョウ。視察として参ったぞ」
二メートルはあろう身長、それに見合う、ボディビルダーのように隆起した筋肉。
体の至る所にのる傷跡。そして、視線だけ虎が殺せそうな鋭い眼光。肩にしょっている煤けたずた袋。
まだ二十代後半だろうか、若干顔立ちに若さが感じられる。
だが、どう見てもどこかの世紀末バトル漫画とでてくる場所を間違えているかのような出で立ちをしている。
そんな巨体が、こちらにゆっくり向ってくる。重心のずれが感じられないし、足音がない。
ものすごく怖い。
カウンターの前まで来ると、もはや子供用の椅子にしか見えない椅子に座る。
座ってもなお俺は彼を見上げなければならない。
「さて、ここのカレーを食べさせてもらう訳だがその前に……」
何やらずた袋の中から何かを取り出した。
「こちら、インド土産の紅茶の詰め合わせです」
「あ、これはご丁寧に」
……なんでそこは礼儀正しいんだ。
「……久しぶり、ウイキョウ」
お土産を手にお礼を言っていると、ひょっこりと厨房からクローブちゃんが顔をだす。
「あぁ、クローブ姉さん。久しぶりだな」
「うん」
元々の知り合い同士、やはり懐かしい物があるのだろうか。クローブちゃんも心なしか嬉しそうに見える。
「……うん? 姉さん?」
今のは、聞き間違えだろうか。目の前の世紀末覇者のような彼は、とても小柄なグローブちゃんの事を姉さんと呼んだ気がするのだが。
「……クローブ、姉さん?」
「ん? そうだぞ。俺とクローブ姉さんは子供の頃から一緒だからな」
「クローブちゃん、ぶしつけに悪いけど何歳だっけ?」
「来月で十八」
Vサインで答えてくれた。うん、誕生日は何か考えておこう。
「……ウイキョウさん、今何歳ですか?」
「なんだ突然。十六だが……」
「なん……だと……」




