インドから来た暴れん坊・其の四
「それで、赤崎に残ってもらった理由なんだけど」
ストローを咥えたまま、赤崎さんはこちらを見る。喉が渇いていたのか、白濁色の飲み物はみるみるうちに減っていく。おかわりの用意をしておくべきか。
「実は、今度幹部がこの店に、視察に来ます」
「まぁ、それはさっきの話で聞いたけど」
「で、ここには赤崎さんのおかげで、英雄協会の方が良く来てくれます」
「うん、そうね」
「大変感謝してるんですが、その日だけは来ないように手配して貰えないでしょうか?」
言葉と共に、カウンターに付ける勢いで頭を下げる。
そのまま、上目でちらりと彼女を見る。
そこには、きょとんとした赤崎さんの顔があり、一拍おいてその顔が優しい笑みに変わる。
その笑顔は、まさしく天使のようであり。後光が差してるようにも見えた。
喜びのあまり、頭をあげてガッツポーズしようとした俺に届いた天使の囁きは。
「ごめん、無理」
一気に絶望へと叩き落としてくれた。
「つーかアンタ! ヒーローごときに媚び売ってるんじゃないわよ!」
ついで、激昂したフェンネルさんの鞭により、物理的にも叩かれる。焼けるように痛い。
「な、何故なんだ! 赤崎さん!」
「あのねぇ……あたしは別に偉いわじゃないし、基本周りは先輩ばっかよ」
呆れたように、彼女は首をすくめた。
「大体、皆食べ物にうるさすぎるのよねぇ。その日の昼食に何食べるか決めるだけで必殺技放つのは勘弁してほしいっての」
「え、何それ怖い」
それでいいのか、正義の組織。まぁ、本部も限定メニューの取り合いが良くあったが。
「その、ウイキョウってヤツはそんなにすごい奴なの? うちの先輩らにケンカ売れるような奴はそう居ないと思うんだけど」
その言葉にフェンネルさんが少しむっとした顔になり、鞭を持つ手に力が入るのが見えた。
それを、クローブちゃんが制す。
「今月も修理代を経費に入れていい?」
その一言で、フェンネルさんの殺気が小さくなる。
確かに前の乱闘騒ぎの修理代、凄かったからなぁ。
フェンネルさんは赤崎を一度睨みつけた後、不貞腐れたように席に座って、イラついた声で俺にラッシーを要求した。
俺は大人しくラッシーを差し出す。もう叩かれるのは勘弁である。
「ブルーマン。ルナティクスイエロー」
出されたラッシーをストローでかき混ぜながら、フェンネルさんは唐突に単語を上げる。
いったい何の呪文だ?
「……協会にいた上級ヒーローじゃない。今引退したはずだけど」
なんだ、ヒーローの名前か。若干ブルーマンは凶悪そうだな、具体的には敵を串刺しにしそうな紅いやつが仲間にいそうだ。
「そいつら引退に追いやったのが、ウイキョウよ」
「え」
引退、つまり前線に出れなくなったという事か……どれだけの怪我を負わせたのだろう。
「じゃあ、ブルーマンさんの腰痛が酷くなったのも、ルナティクスイエローが先端恐怖症になったのも、そいつのせいだって言うの?」
「おい」
ずいぶんと前後の引退理由の差が酷い気がするのだが。というより、先端恐怖症になるなんていったい何やったんだ。
「そ、そんな理由で引退するのか?」
思わず、聞き返してしまうの仕方ないだろう。なんせ、正義と悪をかけて戦うのだから、いくらなんでもそれで引退は。
「あんたね、命掛ってるんだからそれでも十分な理由でしょ!」
「……ハイ、ソウデスネ」
思わず棒読みになってしまった。なんだろう、何か腑に落ちない。




