紅い正義を撃て・其の十弐
あの日は、結局最後まで客の対応に追われており、彼女との事はすっかり忘れていた。
……フェンネルさんも、ぶつぶつ言ってたものの、クローブちゃんによる、
『田中は彼女との勝負に勝った。田中は私たちの組織の人間。つまり、田中の勝利は我々の勝利』
と言う言葉で納得し上機嫌で帰っていった。
この組織の人間は、やはりどこか抜けていると思う。
そうして、店の修理も終わり、いつも通りに仕込みをしていた時、彼女はやってきたのだった。
「……」
入り口に入ったまま、彼女は俯いて黙っている。
「……いらっしゃいませ、お好きな席へどうぞ」
「あ、う」
見かねて、ヒーローの少女に声をかける。そうすると、彼女は戸惑った声を小さく上げた。
「もう、ほらっ! 謝るにはこんな所じゃダメなんですから、さっさと、座りましょ、みかっち」
「ゆ、ゆきちゃん」
彼女の後ろからひょっこりと、もう一人女の子が顔を出す。
騒動のせいで忘れていたが、そういえば彼女は友達と来ていたんだったな。
友人に促され、彼女はおずおずと席に着く。
「……」
そして、やはり席についても黙って俯いてしまった。
「うーん……」
このままでは埒が明かない。そう考えた俺は一度キッチンに戻り、冷蔵庫に冷やしていた物を取り出す。
「はい、どうぞ」
そして、彼女たちの前に差し出した。
「? これは?」
「ラッシーという、ヨーグルトのジュースですよ。インドではカレーのお供としてよく飲まれています」
彼女との対決で使ったカレーをメニューは好評で、見事レギュラー化したわけだが、あのカレーはそれなりに辛い。
その為、水やお茶だと、口の中に余計に刺激が来ると言われたのだ。なので、カレーのお供として名高いラッシーを作る事にしたのである。
「あ、さっぱりしてておいしい!」
「うん、これなら確かにカレーとも合うかも……」
二人からの評価は、とてもよいようだ。ヒーローの少女、みかっちと呼ばれていた子も、おいしそうに飲んでくれている。
「褒めてもらって光栄ですよ、えーっと、みかっちさん?」
そういえば、彼女の名前を名前を知らなかった。確か、フェンネルさんが言っていた気もするのだが、思い出せない。
隣の少女が言ってた言い方を、そのまま真似ると、真似られた少女は、小さく噴き出した。同時にヒーローの少女は顔を赤らめる。
「……赤崎です。赤崎美加子です」
「あ、あぁ、ごめん、赤崎さんだね?」
少し不機嫌な声で訂正されてしまったので、謝りながら苗字で返す。
「私は、松島美雪です。気軽に雪ちゃんでいいですよー」
もう一人の女の子は調子よく自己紹介をしてくれた。ずいぶんノリの良い子の様だ。
そういうやり取りで、少し緊張がほぐれたのか赤崎さんはこちらを向いて、しっかりと頭を下げてきた。




