紅い正義を撃て・其の十
「お待たせしました」
少しボロボロになった机に純白の皿を置く。もちろん中には輝かんばかりのカレーが並々盛られている。
暴れていた彼女達は、大人しく席に座って待っていた。フェンネルさんまで少し落ち込んだ顔をしている。
……先ほど怒鳴ったのが余程効いたのだろうか? 少し申し訳ない気持ちがじわじわと湧いてくる。
ヒーローの少女は、机に置かれたカレーをしばらくじっくりとみていたが、こちらを向いて、俺に恐々と訪ねてきた。
「これ……毒なんて入ってないわよね?」
「ないよ。入れる理由もない」
「……あんた悪の組織じゃない」
「その前に料理人だ」
確かに俺は悪の組織に属している。
だが、それ以前に俺は料理人として誇りを持っている。しかも、俺は今彼女に料理で挑んでいるのだ。
「誇りに掛けて、俺は料理で君に参ったと言わせるよ」
「……」
彼女はこちらをまっすぐ見つめた後、カレーを見る。
今回、用意したのは店の定番メニュー、チキンカレーだ。
ただし、定番と同じでは熱い正義の血が通う彼女へぶつけるのには少々役不足だろう。
そこで、少しスタイルと味付けを変えた。
カレーの味は、定番の物よりかなり辛目に作っている。定番のカレーに炒った唐辛子を粗く刻んだ物を入れている。これによってカレーの辛さは一層増し、体を熱く燃やしてくれる。
だが、これだけでは能がない。
なにより、空さ一辺倒の単調な味になってしまう。
そこで、カレーとライスの間に秘密があるのだ。
「辛い物、大丈夫ですよね? どうぞ召し上がれ……」
「好きよ、辛い物は……」
そう言う物の手は出ない。だが、それも時間の問題だろう。
カレーの必殺の武器は味だけではないのだから。
「……いい匂い」
こう呟いたのは、俺の隣にいるクローブちゃんである。
君が言うのか、と言う突っ込みは心に隠しつつ、ヒーローの少女の方を見るとやはり喉を鳴らしている。
当然だ、俺のカレーはスパイスを入れるタイミングを三回に分けている。
野菜を炒める前、炒めた後、そして煮込む直前だ。
スパイスは熱弱い物がある。入れるタイミングを分けるのは、それらの香りを壊さない為の処置だ。
面倒だが、この工程を使う事によって――
「……いただきます」
熱い正義の心すら、揺れ動かす、香りのハーモニーが生まれるのだ。
ゆっくりと銀色のスプーンでカレーとライスを掬い、口へと運び、食べた。
「っあ……」
噛み締め飲み込んだ瞬間、艶っぽい声を小さく上げる。顔はみるみる赤くなり、そして一言。
「おいしい!」
言ったっっっ!
だが駄目だ……まだ笑うな……。
まだ。
まだ彼女は。
秘密兵器に手を付けていないっ!
「あ、カレーの中に何か……」
内心で盛大に喜んでる内に、彼女は秘密兵器に気が付いたようだ。
一度味わっているからか、その黄金を纏い、金色の爆弾となった秘密兵器は吸い込まれるように少女の口へと入っていった。




