紅い正義を撃て・其の八
「す、すごい! ヒーローが変身する所なんて初めて見た! ……って、店がぁぁぁぁ!?」
何という事でしょう。
今朝綺麗に磨いたテーブルは、衝撃で足が折れ、匠の手によって見事に使えない木材と成り果てました。
そして、グラス。そう、グラス。
ただの、量産グラスを使っていると思いましたか?
残念、俺秘蔵のトルコチャイグラスでした!
「うわぁぁぁぁぁ!! こつこつ買い集めたチャイグラスがぁぁぁぁ」
「うるさい! 悪の組織の備品の事なんて知るか!」
紅いスーツの少女は、こちらに力強く指を差し向けて怒鳴る。怒鳴りたいのはこっちだ。
「ふ、ふざけんな! これは俺が給料からコツコツと貯めて少しずつ輸入して、いつか店を持った時使おうと思ってたお気に入りのグラスなんだぞ!」
次の瞬間、両方のほほに何かが掠る。左は、聞きなれた鞭の音、右からは何かちりちりと焦げる音、後ろからは爆発音。
「「ちょっと黙れ(りなさい)」」
「はい、すいません」
目の前に居る二人の女性から、圧倒的なプレッシャー。もはや俺には黙る以外の選択肢はなかった。
もう何十分経過したのだろうか、ドキッ!女幹部とヒーロー一騎打ちin店の中は、白熱の一途を辿っていた。
当然、白熱すればするほど店への被害は甚大なわけで。
すでに、店内の荒れっぷりは、酷いことになっていた。
幸い、厨房のほうはクローブちゃん作のバリアが貼られた為被害はないのだが、これでは明日の営業は無理だろう。
「うわぁ……どうすんだこれ」
「……そう思うなら、カレーを作ってないで、止めればいい」
ははっ、こやつめ。無茶言うな。
「非戦闘員の俺がどうやって止めろと」
「愛と勇気があれば何でも出来る……らしい」
「それコッチじゃないよね? 正義側のセリフだよね?」
そんな話をしているうちに、今度は皿が大量に割れる音がした。
「あぁ、もう、ほんとどうするんだこれ」
あきらめつつも店内を見ると、破壊者である二人は、満身創痍となって睨み合っていた。




