紅い正義を撃て・其の七
かくして、三週間の試行錯誤を経て、カレー屋は無事開業した。
基本の味付けをしたチキンカレーを一つと、日替わりで作るカレーを一つ。
メニューは二種類と少ないが、これはまぁ実質店員二人と仕方がない。むしろ少ないからこそ、味も納得の出来る物に仕上げられている。
開店から二週間でもう常連になってくれた人もいるのだから、味の仕上がりはとりあえず大丈夫だろう。
「クローブちゃん! 今日も食べに来たよー!」
「……どうも」
「よぉクローブちゃん! これうちの畑で採れた人参! 採れたてだよ!」
「……ありがとう」
大丈夫だと、信じたい。女性客もそれなりに来るし。
そんな風に一喜一憂しながらカレーを作っていると、新しい客が入ってきた。
「ほ、ほんとにカレー屋さんだ!」
「でしょー、この見た目でカレー屋ってすごいよねー」
「いらっしゃいませー」
高校生と思しき少女が二人、入り口で初のお客様が必ずやるやり取りをしている。やはり、店の見た目のせいで驚く人が多いな。最初の頃は、とても上品なおばあさんがお茶屋さんと間違えて入ってきたし。
「……」
「どうしたの? クローブちゃん、接客接客」
「う、うん……」
なんだろう? 心なしかクローブちゃんの動きがぎこちない様な。
「私、日替わりカレー」
「うーん、私は……相かけ! そういうのもあるのか……じゃぁこれで!」
「……かしこまりました」
小さくお辞儀をしてクローブちゃんが戻ってくる。
「日替わりと、相かけ一つずつ」
「はいよ……どうしたの?」
「……右の子」
クローブちゃんがぼそりと呟く。
「ヒーロー」
「え」
「敵対組織のヒーロー」
そう、あくまで俺たちは悪の組織。敵対する存在があるのだ。
「え、ちょ、せめてきたのか!?」
「違う、ここが我々所有とはバレていない。普通に客としてきただけ」
なるほど、焦ってしまった……ヒーロー側にバレていないという事は、ヒーローが日常の中で訪れる事もあるだろう。
「私は基本、戦闘には出ていない。だから、相手も気づいていない」
確かに、彼女は科学者だ。そう前線には出ないだろう。あの首領もそこら辺を考えて彼女を補佐に付けてくれたのだろうか。
「このまま、大人しくしてれば、ばれない」
「そうだな、このまま大人しくしていよう」
「……間違っても、フェンネルが来ない限りは大丈夫」
「待って、その言い方はフラグだよ!?」
その瞬間、引き戸が生きよい良く開けられる。笑顔で入ってくる、フェンネルさんの姿が、そこにあった。
「確認に来たわよ! しっかりやってる!?」
「ですよねー!!」
フェンネルさんの声はそれなりの大きさだったが、狭い店内に響き渡るには十分だった。
当然、件の少女もフェンネルさんの方を見る。
「あ」
「ん?」
二人の目があった瞬間、すうっと、フェンネルさん顔から笑顔が消え、険しい顔になる。
それと同時に、少女がゆらりと立ち上がる。
「お前は……フェンネル!!」
「赤崎美加子……正義協会の犬め!!」
少女の周りに風が集まる。徐々にその風が紅に染まっていき、次々と少女の体に金属質の装甲を纏わせていく。
あっと言う間に、少女は完全武装の戦士に変わっていた。




