第2話 現代日本で私の「ザコ魔法」が大活躍!?
「――おい、起きてるか? 有栖川」
「はひっ!?」
突然の声がけに、私は跳ね起きるように目を覚ました。
白い天井、格子状の窓、そして四角い机と椅子が整然と並ぶ室内。
私の机には、真ん中にでかでかと赤字で「12点」と書かれた紙――通称「テスト」なるものが転がっていた。
「有栖川、お前また赤点だぞ。運動もダメ、勉強もダメ……もうちょっと集中して授業を聞きなさい」
「ううぅ……すみません、先生……」
教壇に立つスーツ姿の男性に説教され、私は頭を下げた。
……そう。あの魔導具の暴走事故から、どれくらいの時間が経ったのだろう。
目を覚ました時、私は魔法世界のアリア・ルシールではなく、現代日本の女子高生「有栖川アリア」になっていたのだ!
最初は「これが噂の転生!? イーヤッホー! 第二の人生はざまぁで無双だぁぁー!!」と興奮したものの、現実は甘くなかった。
こちらの世界の私は、体育では跳び箱4段にド派手に激突、テストでは全教科壊滅。クラスでも地味で目立たない、いわゆる「スクールカースト最底辺」に位置していたのである。
(トホホ……。結局、世界が変わっても私はポンコツの落ちこぼれなのね……)
◇
「ハックション! はぁ~、今日の体育の授業、地獄だったね……」
「それなー。最強寒波がきてるのに、屋外で走らせるって、なんのガマン大会だよ。うちのモンペ召喚して先生締め上げるか……」
暦の上ではまだ秋なのに、大寒波が襲来したその日。やっと戻って来た教室は、エアコンが故障し、クラスメイトたちはガタガタと身を震わせながら、かじかんだ手に息を吹きかけていた。
窓の外の空は、今にも雪がちらつきそうな鉛色。みんな寒さで顔を真っ青にしている。
(うー、確かに寒い! こんな時、『プチ・ファイア』でも唱えられたら、気分だけでも温かく……って、あれ?)
私はそっと胸に手を当ててみた。
前世で爆発に巻き込まれて死んだはずの私だが、なぜか今、体の中に、あの「スプーン一杯分の魔力」がしっかりと残っている感覚があった。
(食卓のローソクレベルの火でも……気持ちだけでも温かくなるかしら?)
私は机の上で、そっと人差し指を立てた。
(プチ・ファイア!)
シュコッ。
指先から、小さな灯火が生まれた。
本来ならローソクの炎程度の情けない火種。……のはずだった。
ぽかぁぁぁぁぁ……!
「えっ!?」
次の瞬間、教室中にまるで薪ストーブを焚いたかのような、心地よいポカポカの温もりが広がり始めた。
寒さで凍り付いたように俯いていたクラスメイトたちが、一斉にハッと顔を上げる。
「な、なにこの温かさ!? すっごく温かい!!」
「誰か、ストーブでも出してきたのか?」
「いやー春がきたねぇ、春が!!」
「え?」
びっくりして指先を見ると、いつもは小指サイズの種火が、私の顔くらいの大きさの火球になって浮いている。その火球から小春日和の太陽のような、暖かな熱気が溢れ出ていた。
あ、あれ……!? ひょっとして、この世界の大気は『マナ』が全く存在しないから、私の魔法を押さえつける圧力が無くなって、威力マシマシになってる!?
「あっ……有栖川さんの人差し指から……火が出てる……!?」
「嘘でしょ!? 手から炎が!? マジック!? 超能力!?」
近くの席のクラスメイトたちが私の火球に気付き、教室中が大騒ぎになった。
「ち、ちがうの! これはただの『プチ・ファイア』っていうザコ魔法で――」
「いやいやいや!! ヤバイ、ヤバいって! これぞ、まさに至高の温もり! 科学の力は終わりを告げ、魔法の時代がやってキターーー!!!!」
気が付けば、クラス全員が大熱狂して、バンザイ三唱の上、ウェーブを始めていた。
◇
そんなわけで、その日を境に私の高校生活は一変した。
「有栖川さん! 私にもその温もり頂戴! 手先が冷えて文字が書けないの!」
「有栖川くん! 職員室も激寒なんだ! 冷え切った缶コーヒーと一緒に温めてもらえないか!? (……内申色つけるから!)」
「任せてください先生! 『プチ・ファイア』連発します!!」
さらに、私の「プチ・ファイア」の出番は暖房だけに留まらない。
西にキンキンに冷えた購買のパンやお弁当を抱えた人がいれば――
「あっ、温めるなら任せて! 『プチ・ファイア』!」
シュコッと火種をかざせば、まるで出来立てホカホカの状態に早変わり。「レンチンより美味いんじゃね!?」と大好評。
東にかじかんだ手足を洗いたいと言う人がいれば――
「ぬるま湯が良い? はい『プチ・ファイア』!」
流れる水道水に炎をあてがい、適温にしてみんなに感謝される。
元の世界では「役立たず」「食卓のローソク」と馬鹿にされていた私の基礎魔法が、厳寒の現代日本においては【とっても便利なあったか機能】として崇め奉られたのだ!
◇
「有栖川さん、これあげる! 出来立てホカホカの肉まんとホットミルク!」
「アリアちゃん、今日のノート見せてあげるね!」
「アリア様ぁ~! 膝掛けおかけしま~す!」
『プチ・ファイア』大活躍が一巡したある日の放課後。
私はクラスの特等席で、クラスメイトたちにチヤホヤされながら、ホカホカの肉まんを頬張っていた。
運動も勉強もダメ? そんなの関係ない!
「魔法が使える」というだけで、私は学園最高のアイドル、いや「暖房の神」として君臨することになったのだ! しかも、明日には「天才☆暖房超能力美少女」として、テレビの取材を受けることになっている。
(ふ、ふはははは……! 見たかルチア! 私を笑った同級生ども! 今の私はスクールカーストの頂点……いや、この世界のトップアイドルとなることも夢じゃない!)
有頂天になった私は、心の中で高笑いをあげる。
そこへ、学校一のイケメンと名高いサッカー部主将のレンくんが、息を吐いて赤面しながら歩み寄ってきた。
「あ、あの……有栖川さん。もしよかったら、今度の週末……イルミネーション、俺と見に行きませんか?」
(き、きたぁぁぁぁぁ!?)
モテ期! 人生最大のモテ期到来!!
元の世界では男子と口をきくことすらあまりなかった私が、学校一のイケメンから冬デートのお誘いっ! イヤッホーー!!!!
「は、はい~っ! 喜んで――」
私が甘ったるい猫なで声でお返事をしようと口を開いた、まさにその瞬間だった。
『――高位治癒魔法の成功、および対象者の座標を確認。異次元からの引き戻しを開始します――』
脳内に、聞き覚えのある無機質な音声が響き渡る。
「え?」
突然、視界がぐにゃりと歪み始めた。
体が、まるで強力な掃除機に吸い込まれるように後ろへと引っ張られる。
「あ、あれ!? 体が……透けてる……!?」
「えっ!? 有栖川さん!? 身体が光って――消えていく!?」
「嘘でしょ有栖川様ぁぁぁ! せめて、春まで行かないでぇぇぇ!」
クラスメイトたちの悲鳴。レンくんの差し伸ばした手。
そして、食べかけのホカホカ肉まん。
(やだあぁぁぁぁ! 私のモテ期!! 私のバラ色の学園生活があぁぁぁぁ!!!!)
絶叫も虚しく、私の意識は眩い光の中に呑み込まれていった。
というわけで、束の間の転生から強制送還されるアリアの運命は!?
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