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第1話 ポンコツ魔法使いの自爆

「――はい、次。アリア・ルシール」

「はいっ!」


 王立セント・ルミナス魔法学園の実技訓練場。

 担当教師の気のない呼びだしに、私は元気よく一歩前に踏み出した。


 胸の前で手を組み、深く息を吸い込む。

 毎朝ニワトリより早起きして、血の滲むような魔力循環トレーニングを繰り返してきたのだ。今日こそは……今日こそは中級魔法を成功させてみせる!!


「いでよ、燃え盛る火炎! フレイム・ストライク!」


 気合一発。ビシッと差し出した私の指先から、シュコッ……という情けない音とともに発動したのは――


 ちんまりとした、小指の先ほどの小さな灯火だった。


「…………」


 訓練場を支配する、あまりにも静かな沈黙。

 その小さな火種は、私が「なんで~!?」と漏らした落胆の吐息によって、あえなく鎮火した。


「……はい、アリア。いつもどおりの『プチ・ファイア』でしたね。……次、ルチアさん」

「先生! 私、もうちょっとで大きな火になりそうだったんです! タイミングが少しずれただけで――」

「不合格。次」


 容赦のない切り捨て! 生徒の成長を願うなら、もう少し優しい励ましがあってもいいんじゃない?

 肩を落としてトボトボと列の後ろへ戻る私の横を、一学年後輩のルチアがすれ違いざまに声を掛けてきた。


「あ〜あ、アリア先輩、今日も『食卓のローソク』レベルの火を出されたんですね〜? 二年生にもなって基礎魔法しか使えないなんて、逆に凄いですわ!」

「むぐぐ……! 食卓のローソクだって、ディナーをロマンチックに彩る大切な役割があるんだから!」

「なっ、なんですの、そのピントのずれた返し!? ……まぁ、なんとかとハサミは使いようと言いますものね。よく見ていてくださいな。これが『中級魔法』ですわ!」


 ルチアが短詠唱を唱えると、目の前に直径50センチメートルはある火球がドンと出現した。その直撃を受けた訓練場のターゲットは一瞬で蒸発し、周囲の生徒たちからワーッと歓声が巻き起こる。


「流石ルチアちゃん!」

「一年生の首席は伊達じゃないな!」


 拍手喝采の中でドヤ顔を決めるルチア。

 対して、壁に額を預けて気配を無にする私。


 ……うぅ、分かってる。分かってるのよ。

 この世界は魔力がすべて。

 高位の魔法が使える人間が尊敬され、私のように基礎中の基礎――「ちょっと火を点ける(種火レベル)」「ちょっと風を起こす(そよ風レベル)」「ちょっと水を出す(湧き水レベル)」しか使えない人間は、容赦なく「落ちこぼれ」のレッテルを貼られるのだ。


 努力なら誰よりもしているのに、私の魔力容量は生まれた時からスプーン一杯分しかないらしい。神様のイジワル!


 ◇


「ハァ……」


 昼休み、重い足取りで校舎を歩いていると、購買スタンドの前に並んでいる見慣れた後ろ姿を見つけた。


「なに盛大なため息ついてんだよ、アリア」


 呆れたように振り返ったのは、幼馴染のカイだった。

 整った顔立ちに、学園でもトップクラスの魔力を持つ期待の星。なのになぜか、落ちこぼれの私にいつも付き合ってくれる奇特なイケメンである。


「カイ……聞いてよ〜。今日の実技試験も不合格だった〜。また『プチ・ファイア』止まりだよ〜」

「知ってる。お前の『シュコッ』って音、隣の訓練場まで聞こえてたからな」

「ウソッ!? 音だけ上級魔法かよっ……!」


 がっくりと頭(こうべ)を垂れる私のおでこに、カイがポンと冷たいポーションの瓶を当ててきた。


「ほら、飲むだろ。お前、また朝飯抜いて練習してたろ。顔色悪いぞ」

「……カイ、優しい。好き。結婚して」

「バッ、バカ言え! か、仮にも年頃の娘が軽々しくそんなこと口にするな!」


 カイは口ではジジくさい説教をしながらも、いつも私を気遣ってくれる。


 家に帰れば帰ったで、


「お帰りアリア! 今日も頑張ったわね! アリアが『プチ・ファイア』で炙ってくれたトースト、すっごく香ばしくて世界一美味しいわ!」

「そうだぞ、アリア! お前は学園一の努力家だ、父さんは誇りに思っているぞ!」


 と、大絶賛してくれるパパとママがいる。


 みんな、本当に優しい。

 だからこそ、私は悔しいのだ。

 こんなに温かく見守ってくれる家族やカイに、もっとカッコいいところを見せたいのに。「落ちこぼれ」って笑われる私じゃなくて、立派な魔法使いになった姿を見せて安心させたいのに!


 ◇


「絶対……絶対に、中級魔法を成功させてやるんだから……!」


 その日の放課後。

 私は誰もいなくなった地下の「魔導具実験室」に忍び込んでいた。


 ここには、魔力を集積・増幅するための古代魔導具『マナ・クリスタル』が設置されている。立ち入り禁止区域だが、ここなら微弱な私の魔力でも増幅されて、中級魔法が発動できるかもしれない!


「禁じ手だけど……背に腹は代えられないわ! これで、成功すればコツが掴めるかも。女には勝負時ってもんがあるのよ!」


 自分勝手な決意に一人頷くと、私は大きな青い結晶の前に立ち、両手をかざした。


「集中……集中よ、アリア・ルシール! 全身の魔力を、指先に集めて……!」


 体中の全魔力を限界まで絞り出す。

 スプーン一杯分の魔力が、必死に指先へと駆け巡る。


「いでよ、燃え盛る火炎! フレイム・ストライク!! 出てこいやぁぁぁ!!!!」


 カッ……!


 その時、奇跡が起きた。

 私の指先から出た小さな火花が、『マナ・クリスタル』に触れた瞬間――


『――警告。許容値を超える謎魔力を検知。魔力暴走が始まります――』


「え?」


 無機質なアナウンスが響き渡る。

 青かったクリスタルが、一瞬で禍々しい真っ赤に染まった。


「あ、あれ……!? なんか……めちゃくちゃバチバチいってない!?」


 ヤバい。ヤバいヤバいヤバい!

 クリスタルが、私のいびつな魔力に拒絶反応を起こして暴走を始めてる!?


「きゃあああ!? 止まって! プチ・ウィンド! プチ・ウォーター! 何でもいいから止まってぇぇぇぇ!」


 焦って基礎魔法を連発するも、火に油を注ぐ結果にしかならない。

 クリスタルが太陽のような眩しい光を放ち、実験室全体を飲み込んでいく。


 ドカアァァァァン!!


 響き渡る大爆発の音。

 吹き荒れる衝撃波の中で、私の身体は宙を舞った。


(あ……これ、死ぬやつだ……)


 全身を襲う激痛と、急速に遠のいていく意識。

 視界が真っ白に染まっていく中で、大好きな人たちの顔が浮かんだ。


(パパ……ママ……カイ……。勝手なことして、ごめんなさい……。私、立派な魔法使いになれなかったよ……)


『アリアーーッ!?』


 遠くで、私を探すカイの叫び声が聞こえた気がした。


 だけど、私の意識はその記憶を最後に、深い闇の底へと沈んでいった。

次回、目覚めたアリアを待っていたのは?


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