第3話 ただいま! 私の大好きな世界
「いやあぁぁぁぁぁ!! 私の肉汁あふれる肉まん! トキメキ☆イルミネーションデートがあぁぁぁぁ!!!!」
視界を埋め尽くす白い光の中で、私は必死に叫んでいた。
ついさっきまで、私はスクールカーストの頂点にいたはずだ。
暖房代わりに『プチ・ファイア』で温もりを供給すれば神と崇められ、冷えたお弁当を保温すれば大歓声を浴び、学校一のイケメンからおデートに誘われていた絶頂期!
それがどうして! なんで、このタイミングで強制送還なのよーっ!
(嫌だ嫌だ嫌だ!! 戻りたくない! 元の世界に戻ったら、また劣等生の落ちこぼれに逆戻りじゃないのよぉぉぉ!!!!)
バタバタとエア水泳のように暴れまわる私。
だが、容赦のない逆召喚の魔力が、私の魂を強力に引き戻していく。
吸い込まれる。ぐるぐると世界が回転する。
次第に意識が遠ざかり――
◇
「――う、……ん」
まぶたが、重い。
全身が、まるで鉄の重りをつけられたみたいにだるい。
ゆっくりと目を開けると、そこに見えたのは見慣れた木造の天井だった。
現代日本のLED灯でも、四角い教室でもない。
ここは……私の家、私の部屋だ。
「……アリア……? アリア……!?」
かすれた声が聞こえて横を向くと、そこには酷いクマをつくり、目も鼻も真っ赤にしたママの顔があった。
「ま、ママ……?」
「あなた……! アリアが、アリアが目を覚ましたわ!!」
ママの叫び声を聞いて、バタバタと激しい足音が階段を駆け上がってくる。
「アリア! アリアぁぁぁぁ!!」
ドアが勢いよく開くと、ボロボロと大粒の涙を流したパパが飛び込んできた。
さらにその背後から、息を切らせて駆け込んできたのは――
「アリア……っ! 本当……本当に目覚めたのか……!?」
髪はボサボサ、制服はシワだらけで、いつものクールな面影が欠片もないカイだった。
「カイ……? なんでそんなボロボロなの……?」
「なんでって……お前、あの爆発から二週間も意識不明だったんだぞ!? 心臓だって一度止まって……高位治癒魔法の先生たちが集まって、ずっと治療して……っ!」
カイはそう叫ぶと、私に駆け寄り、ガシッと強く抱きしめてきた。
「よかった……! よかったよアリア……! お前が死んじゃうかと……もう二度と口をきいてくれないかと……っ!」
普段は絶対に見せない、子どものような泣き顔。
私の肩にポロポロと温かい涙がこぼれ落ちていく。
「アリアぁぁ! よく戻ってくれた! パパとママは生きていてくれるだけでいいんだよぉぉ!」
「本当によかった……! 神様、ありがとうございます……!」
パパもママも、私に抱きついて涙と鼻水でぐしゃぐしゃになりながら、何度も何度も私の無事を神様に感謝していた。
「……っ」
胸の奥が、ぎゅっと熱くなった。
(……あぁ、そうだよね……)
あっちの世界は、確かに最高だった。
ザコ魔法でチヤホヤされて、暖房の神様扱いされて、毎日が夢みたいに楽しかった。
でも――
私のために、こんなにボロボロになるまで泣いてくれる人は、あっちにはいなかった。
二週間も付きっきりで私の手を握りしめ、無事を祈り続けてくれるのは、この人たちだけだ。
(モテ期とか、スクールカースト頂点とか……そんなの、どうでもいいや)
私は震える腕を伸ばし、カイと、パパとママの背中をギュッと抱き返した。
「みんな……ごめんなさい。心配かけて……。私、戻ってきたよ」
◇
それから数日後。
すっかり体力の戻った私は、久しぶりに王立セント・ルミナス魔法学園の門をくぐった。
「あ! アリア先輩! 無事復学されたのですね!」
登校早々、後輩のルチアが話しかけてきた。
「ルチア。心配かけてごめんね」
「べ、別に心配なんてしてませんわ! ――ただ、先輩が死んじゃったら、誰をイジればいいか分からなくなっちゃうじゃないですか……」
そっぽを向きながらも、ルチアの目には少しだけ涙が浮かんでいた。なんだ、生意気な後輩だと思ってたけど、案外可愛いところあるじゃない。
「ふふ、残念でした! 私はしぶといからね。これからも、細く長く生き残ってみせるわ! 『食卓のローソク』だけに!!」
「そっ、それ自分で言っちゃいますの!?」
呆れるルチアと笑い合いながら、私は自分の教室へと向かう。
もちろん、復活しても私の魔力レベルはスプーン一杯分だ。
相変わらず基礎魔法しか使えないし、落ちこぼれの劣等生だし、授業では先生に怒られてばかり。
だけど、何かが少しだけ変わった。
「ほらアリア、シャキッと歩け。病み上がりだからって甘えるなよ」
「えー! カイ冷たい! 二週間前はあんなに泣いて抱きついてくれたのに〜」
「な、なに言ってるんだ、バカ! あれは……えーい、もう忘れろっ!」
真っ赤になってプイッと顔をそむけるカイの横顔を見ながら、私はクスッと笑う。
現代日本の無双生活も楽しかったけれど。
やっぱり、私の本当の居場所はここだ。
「ねえカイ!」
「……なんだよ」
「今日の朝ごはんのトースト、私が『プチ・ファイア』で最高の焼き加減にしてあげたんだからね! 感謝してよね!」
「あぁ、はいはい。サンキューな。……実際、お前の火で焼いたパンが一番美味いよ」
「ふふん、でしょー!」
自分の指先を見る。
相変わらず、シュコッとしか点かない小さな、小さな火種。
でも、このちっぽけな魔法と、大好きな人たちがいるこの世界が、私はたまらなく愛おしい。
「よーし! 今日も元気に、魔法の練習だー!」
青空に向かって拳を突き上げる私の声を、爽やかな風が優しく吹き抜けていった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
三話完結の短編ではありますが、筆者にとって、初の女性主人公&ローファンタジー? ものでした。
逆異世界転生的なものでも書いてみるか――てな発想で、割と安直に作ってみたものですが、少しでもお楽しみいただけましたら幸いです。
次作も、こんな感じのサク読み短編を投稿する予定ですので、お楽しみに!
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