表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/16

9

部屋へ戻ると、俺は段ボールをリビングの床へ静かに置いた。

それを真似するように拓真がケージを床に置く。

見慣れた殺風景な部屋の中で、小さなハムスター用のケージだけが妙に浮いて見える。


拓真はケージの前へ座り、心配そうに中を覗き込んだ。


「ハムタ……生きてる?」


丸くなったまま眠る小さな身体は、ぴくりとも動かない。

それでも呼吸だけは落ち着いている。


古家が失敗するはずはない。

俺はそれを分かっていたが、拓真は不安で仕方ないらしい。


しばらくすると、ハムタの小さな鼻がひくりと動いた。

続いて耳がぴくりと震え、ゆっくりと目が開く。

ハムタはぼんやりと辺りを見回したあと、よろよろと立ち上がった。


「動いた!」


拓真は飛び上がるほど喜び、段ボール箱を慌てて開けると、中から餌を取り出した。


「ほら、ハムタ!」

ケージの中へ餌を入れる。

しかし、ハムタは匂いを嗅ぐだけで口をつけようとはしなかった。


「あれ?」

拓真は首を傾げる。


「どうして?」


「手術を終えたばかりだ」


俺はケージを見つめたまま答える。


「明日には食べるだろ」


「……うん」


拓真は不安そうに頷いた。

それから二人でしばらくハムタの様子を眺めていた。

部屋にはテレビもついていない。

聞こえるのは、回し車がわずかに揺れる音と、ハムタの小さな息遣いだけだった。

気づけば、窓の外はすっかり夕焼けから夜へと変わっていた。


「拓真、帰るぞ」


俺が声をかけると、拓真は名残惜しそうに立ち上がる。


「また明日、来るからね」

拓真はケージに向かってそう言い残し、俺と一緒に部屋を出た。




拓真を古家の診療所まで送り届けると、拓真は玄関先で大きく手を振った。


「八雲おじちゃん、またね!」


「ああ」


短く返事をして背を向ける。


マンションへ戻り、自分の部屋の扉を開けると、昼間とは違う静けさがあった。

リビングでは、ハムタがケージの隅で丸くなって眠っている。


俺はその小さな姿を一度だけ見つめると、静かに床に腰を下ろした。

依頼のない一日は終わった。


明日はどうなるのか、俺には全く予想ができなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ