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少年は迷うことなく公園を飛び出し、細い路地裏へ駆け込んでいった。俺は少し距離を空けたまま後を追う。やがて見覚えのある診療所が見えてきた瞬間、俺は納得した。
「……やはり」
思わず苦笑が漏れる。
「あいつは古家の孫か」
少年は診療所の扉を開け、そのまま中へ飛び込んでいく。俺も遅れて中へ入ると、診察室の奥で古家が新聞を読んでいた。
少年は大事そうに抱えていたハムスターを古家へ差し出す。
「じいちゃん!早く治して!早くしないと死んじゃう!」
古家は新聞を畳み、ハムスターの傷を一目見ただけで状況を理解したようだった。
「わかった、わかった。わしに任せておけ」
慌てる様子もなく手術台へ白いシーツを敷き、その上へハムスターをそっと寝かせる。器具を並べる動きには一切の無駄がない。人間だろうが動物だろうが、この老人にとって命を救う手順は変わらないのだろう。
俺は腕を組みながら、その様子を眺めていた。
「治るのか?」
古家は振り返りもせず、小さく笑う。
「八雲か……わしの腕を甘く見るでない」
その一言だけで十分だった。
古家は手袋をはめると、すぐに小さな身体へメスを入れていく。年老いた手とは思えないほど指先は安定しており、まるで長年使い込まれた機械のように正確だった。
しばらくして古家が顔も上げずに口を開く。
「八雲。手術が終わるまで、その子を頼む」
少年は手術台の前から離れようとしない。
俺は小さくため息をついた。
面倒ごとに首を突っ込まないと決めていたはずなのに、今日はずっと調子が狂っている。
俺は少年の前まで歩いていき、その小さな手を軽くつかんだ。
「一緒に来い。遊んでやる」
少年は不安そうに何度も手術台を振り返る。
それでも古家が黙って頷くと、ようやく安心したのか、俺の手を握り返した。
俺は少年を連れ、古家の家を後にした。




