第9話 対人訓練3
「それにしても、ビルスー。お前あんなすげー能力持ってんのなんで隠してんだよぉ〜。」
チョイチョイと指で横腹をつつき、何故かすごく嬉しそうにコルトはビルスに話しかけた。
「それが、僕もこんな力があるなんて初めて知ったんだ。でも、次あれが出来るかって言われたら出来る気がしないよ。」
「そっかー。じゃあこれからその力について知っていかないとだな!」
「でもほんとに凄かったよ!私見てて涙出てきちゃった。」
レフィリカは照れくさそうに笑い、ビルスの勝ちを祝った。
俺もビルスが勝ってくれて嬉しい。努力が報われたことが嬉しい。でも…。
―――あの力は危険だ。
明らかに人間の理を超えた力だった。それこそ世界を1人で変えうる、魔王を倒しうる可能性の塊だ。
でも、これを魔王に報告するのか?報告して、どうなる。この力に対応する時間を与え、ビルスを殺させるのか?
嫌だ。絶対に。
スードはあの夜、レフィリカとのあの夜から答えを見つけ出せずにいる。自分はどうすべきで、何を守るべきなのかを。
だが今はそんなこと考えている時じゃない。
「第3試合を始める!レフィリカとケイン。準備をしろ」
透過の能力と、華奢な体つきの割に、強いフィジカルを持ったレフィリカと、この2ヶ月間、暑苦しいポジティブな脳筋という印象しかない、細マッチョのケインの戦いが始まった。
◇
試合は一瞬で決着が着いた。透過で後ろに回り込み、首に剣を突きつけたレフィリカの勝利。
ケインは「なんでだー!まだ俺は何もしてないし、傷ついてもいないぞー!」と喚いていたが、ベクトール教官に「本当の命の取り合いならお前はもう死んでいる。すぐに対応出来なかったお前の負けだ。」
と説明されて、「確かに!」と納得して帰ってきた。
「やったー!勝ったよー!」
太陽のような笑顔で、ピースをしながら戻ってくるレフィリカは、戦争になれば一番厄介なのではないか、と感じるほどの強さだった。
そして4試合目、遂に俺の試合が始まる。
「第4試合目!スード対メルト。準備をしろ。」
◇
試合が始まった途端、スードは、いや、それを見たものは驚愕した。メルトは水色の髪をなびかせ、小柄な体を魔法で高く宙に浮かせたのだ。
本来、空を飛ぶというのは魔法で実現することはできる。だが、繊細な魔力の操作を常に強いられるその魔法は、そもそもが超高難度な上に魔力消費が多すぎて使うものがほとんどいない残念魔法なのだ。
だが一概にデメリットだけとは言えない。単純な話、魔力が人の何倍もあり、自由に飛べるほど繊細な魔力操作ができるなら、一方的に上から魔法を撃ち込む兵器と化す。だがそんな飛び抜けた魔法使い、世界を見渡しても片手の指ほどもいないだろう。
まさか、メルトはそれができるというのだろうか。
「やばいな。それをされたら流石に何もできねぇ。」
どうしようかと頭を悩ませ、記憶を探るが、対策が見つからない。
「それじゃーいくのですよー!」
何か来る、と身構え、まずは撃ち落とされる魔法を避けることに専念する。
「極大まほーう!プロミネンスインパくとぉぉーーぉ??」
頭上にありえないくらい巨大な魔法陣が出現し、辺り一帯を脅かすほどの魔力の奔流が起こる。
そしてそこから地上すべてのものを焼き尽くす魔法が発動される。
寸前、メルトは空を飛ぶ魔法は制御を失い、「あ〜れ〜」と地上に落ちてくる。
いつのまにか極大魔法の発動は中断され、皆の命は奪われずに済んだ。
地上に落ちたメルトはピクリとも動かない。
「まさか、魔力切れか?」
そんなバカなやついるかと、恐る恐る近づき、スードは声を掛けた。
「おーい。大丈夫かー?」
メルトの方を覗き込みながら様子を確認する。
「……。」
ただの屍のようだ。
「だ、第4試合、勝者スード!」
流石にベルトール教官もメルトの魔術の類稀なる才能とバカさ加減に度肝を抜かれたのか、明らかに動揺していた。
「なんだったんだこいつ。まぁ、勝ちは勝ちだ。よっしゃー!」
ビルスの感動的な勝利を見た後だと、3試合目、4試合目とあまりに試合とは言えない試合だったが、よしとしよう。何故なら、この後の5試合目はさらに酷い試合だったのだから。
◇
5試合目は本当に見るに耐えない試合だった。
「あっは〜ん。ハリスあなたいい男ね〜ん。」
体をくねらせ、豊満な胸と尻を強調しながら色っぽく言葉を投げかけたのはニーナだ。
黒く、艶やかな長い髪を持つ彼女は、何故か甘い匂いを周りに放っているのが目に見えて分かる。
「わ、私はそんな色仕掛けには屈しませんよ!」
そう顔をそらし、しかし横目で彼女を見るハリスは完全に鼻の下が伸びていた。
「ハリスぅ。あなたが負けてくれるならぁ、私のこのム•ネ。好きにしていいのよぉーん。」
「な、なななにを言うか!女性がそんな事を言うもんじゃない!」
顔が真っ赤になり、敬語を使うことも忘れ今にも鼻血を垂らしそうなハリスであったが、流石に真面目、即座に切り替える。
「ふぅ…。一旦落ち着こう。私は貴方には惑わされませんよ。」
そう言って、カチャッと付けていた黒縁メガネを外した。
「視界は確かに悪くなってよく見えませんが、それでも私には勝てるだけの実力はあります。」
姿勢を少し低くし、剣を構える。ぼやけてはいるが、どこにいるかが分かれば問題はない。
ニーナの言葉はハリスには効果抜群なので、早急に試合を終わらせようと考えたのだろう。
それが失敗だった。
「せやぁ!」
姿勢を低くし、一直線に切りかかるハリスだったが、なにかとても柔らかいものに顔面から衝突し、足を止めた。
「いやぁん!」
「な、なんだっ!これは!」
何が起こったか分からず、後ろへ飛んで距離を取ろうとするが、頭をがっしりと抱き抱えられ、柔らかいものを顔に押し当てられる。これは、まさかッ。
「もぉう。ハリスったらぁ。ダ•イ•タ•ンッ。」
「……。」
あぁ、神よ。感謝します。これが生まれてこの方18年、触ることは愚か、見ることすら許されなかった神域に、今。
お母さん、お父さん、今まで僕を育ててくれてありがとう。僕は今、最高に幸せです。
こうして、幸せの絶頂のまま気を失ったハリスが敗北、と言った結果で、訓練生全員の一回戦全てが終了したのであった。




