第8話 対人訓練2 / 祝福
向き合い、数メートル先から剣先をこちらに向けられているだけで、喉元に剣を突き付けられているのではという錯覚を覚える。
訓練であるにも関わらず、自分の命が狙われているのでは、というほどの、飢えた肉食獣のような目つきを向けられていた。
―――怖い、怖い、怖い。でも、戦うと決めたのだ。だから、逃げない。
「第2試合、始め!」
試合開始の号令がかかり、間髪を入れずにドーラから襲いかかってくるだろうと。そう予想を立てていたが、
「……。」
本当に肉食獣のような、相手の様子を伺い、ジリジリと距離を保っている。
試合を見ている周りにも当人達の緊迫感が伝わってくるような状況。
その状況を先に動かしたのは意外や意外、ビルスの方であった。
「なら、こっちから行く!」
ドッと加速し、振り抜いた剣はドーラの剣と衝突、勢いを失い、そのまま鍔迫り合いのような形に移行する。
「くっ…はぁぁぁ!」
「…。」
一旦後ろに跳びながら距離をとり、ドーラの元へと今度は右側から再度攻撃をしかける。
「はぁ!…ふっ!…せやぁ!」
「…。」
カン!カン!と木刀がぶつかり合う音が鳴り響き、ひたすらビルスの猛攻がドーラを襲う。
10数発は打ち込んだだろう。そこで変化が起きた。
様子を見ていたのか、防戦一方だったドーラは目の色を変える。
「…!」
それに気づいたビルスは危険を感じ、先と同じように後ろに大きく跳び距離をとった。――同じように。
ドンっ!とドーラの足元が爆発。したかのような加速をし、大きく後ろに飛んだビルスの着地に合わせるように懐へと入り込む。
一振り、剣を持ったことない素人でも見ればわかるほどの重く、決定的な一撃がビルスを横に一閃した。
かろうじで剣を体の前に入り込ませたが、10数メートルは吹っ飛んだだろうか。「ぐはっ」と肺の空気が外に漏れ、それに付随するかのように吐血する。
「ッヒュッ…!ヒューッ…ヒューッ。」
体全体の骨が軋み、肋の骨は折れている感覚すらある。出過ぎた空気を肺に取り込もうと必死に喘ぎ、しかし、呼吸を忘れたように上手く取り込めない。
視界がぼやけ、意識が徐々に遠のいていく感覚がある。
――こんなあっさり終わるのか?僕は。見下され、友達には情けをかけられ、家族を助けることすらできない。
このまま負け、ズルズルと訓練を頑張ったところで何になる?どこかで限界は来て騎士団に入ることすら叶わないだろ。叶ったとして、こんな雑魚、すぐ魔物に食われて死ぬだけだ。
それならもう、ここで殺してくれ。
これは訓練で、殺される事まではない。それは頭では分かってはいるが、それでも、こう願ってしまうほど、ビルスは自分の弱さに絶望していた。
「……ヒュー…ッ、ヒュー…」
そのまま意識が泥の中に落ちていき、途切れるようとする。誰かが僕の名前を読んでる気がするけど、もういい。疲れたんだ。
―――お兄ちゃん、負けないで!
妹の声がした。
―――負けるな!兄貴!
弟達の声がした。
―――ビルス。頑張って。
母の声がした。
―――ビルス。お前は強い子だ。だから、父さんの代わりに、みんなを頼む。
父の、声が。
「……ヒューッ、ぼく、が、やらないと。ヒュッ…やらないと、いけないんだ。」
大事な家族の声を思い出し、顔を思い出し、ヨロヨロと立ち上がる。
「負けたくない。負けたくない。負けられない。」
当然そこに家族はいない。だが、いたのだ。声がするその先には。こんな弱い自分の為に必死になってくれる友人達が。
ビルスー! 頑張れぇー! 起きろー! まだ終わってないぞ!
そう泣きながら叫ぶ女の子。必死に応援してくれる僕の友人達。みんながいるから。
「僕はもう負けない。膝を折らない。」
家族に想われ、友人に想われ、その自分の受けている愛情を感じながら、それを何倍、何十倍にもして返そうと決意し、それは形を変える。
「反響」
なぜその言葉が出たのか、自分でも分からないが、口に出してものすごくしっくりきた。
瞬間、綺麗な茶髪だった髪は色を変え、黄金に輝き、体にはバチバチと電気のようなものが纏った。
それをみたものは生涯この人物を忘れることは愚か、見下すことなんて出来るはずがないだろう。
それほどまでの圧倒的存在感。
それと目の前で対峙するドーラは、恐るでも圧倒されるでもなく、凶悪に笑った。
「オメェ、やればできるじゃねぇか。こいよ。ぶっ殺してやる。」
「うん。待たせてごめんね。……いくよ。」
世界に祝福された者と、唯我独尊の道をゆく猛々しい猛獣は剣を構え、向き合う。
合図も何もないが、この瞬間の2人の間には、それすら邪魔で、入る余地はない。
そして、その時間は当然終わりを告げる。それは一瞬だった。
お互い同時に踏み出し、地面が爆ぜる。一振りで決着はついた。
爆音と衝撃波が遅れて他のものを襲い、2人の木刀が粉々に崩れ落ちる。そして••••
「クソッ……。次は、俺が勝つ……。」
悔しそうな、そしてどこか嬉しそうな顔をしたドーラは意識を失い、地面に倒れ伏せる。
「勝者!ビルス!」
そこにいた全員が圧倒され、息を呑み、ベクトール教官ですら勝敗を宣言するのに一拍遅れる。
「す、すげぇー!!」「まじかビルス!やっぱりお前はすごいやつじゃねぇか!」「すごい、すごいよ。ビルス。」「あれを前にして、一歩も引かなかったドーラも賞賛に値しますね。」
息をすることすら忘れそうな光景を目にし、そして現実に戻された皆はビルスに、そして圧倒的な存在に立ち向かったドーラに大歓声を送った。
そうして、最初見ることすら躊躇われた第2試合は、見るものに勇気を与え、消えない余韻を残し、終わりを告げるのだった。




