新たな訓練
張り裂けそうな心臓の鼓動を感じ、今朝食べた物を吐き出しそうな気持ち悪さを耐えながら、出来るだけ呼吸を整え、走り続ける。
「ハァ…ハァ…ハァッ。」
「チッ。どけザコ。」
ドーラは相変わらず周りを威嚇しながら周りを寄せ付けないスピードで走っている。
「くそっ…ハァハァ。まだまだぁ!」
折れそうになる心と体に無理やり活をいれ、速度を上げる。整えた呼吸が台無しだが、関係ない。ただひたすらに差をつけられないようみんなについていく。
第一回作戦会議から1ヶ月、訓練生になってからちょうど2ヶ月の月日が過ぎ、季節は夏に差し掛かっていた。
あれからビルスはというと、あの時自分の事情を話し、さらに覚悟が決まったのか、毎日気迫を感じるようになった。周りとの差を縮めることは出来ずにいるが、差が広まっていくことも無くなった。
ものすごい成長だ。
「ランニングは終わりだ!集まれ。」
教官のベルトールは今日も威圧感満載で、少しでも逆らえば命の危険を感じるほどである。
「早く来い!」と、全速力で集合しているのにも関わらず一喝した後、集まった訓練生たちにこう告げた。
「まず、今日この時まで残ったお前達、よくやった。今日から2ヶ月間、対人訓練を主にしていく。昼食を取った後、グラウンドに再度集合するように。」
「「はい!!」」
まさかの教官からお褒めの言葉をいただき、訓練生10名は過去1の返事を返し、昼食に向かうのだった。
◇
「いやぁ、それにしてもあの教官が「よくやった。」だってよ!これは今日世界が終わってもおかしくねぇぜ!」
「辞めなさいコルト。もし教官に聞かれでもしたら殺されますよ?」
丁寧な口調で黒縁メガネをクイっと指で上げ、コルトに注意するのは、いかにも堅物そうなハリスという黒髪の男だ。
何故か分からないが絶対にコイツはムッツリだろう。というのがスードから見たハリスの第一印象である。
「でもよ!俺たちあの地獄の2ヶ月を生き残ったんだぜ!もう8人もやめちまったけどよ。ちょっとくらい浮かれてもいいだろぉ。」
坊主頭をポリポリとかきながら、褒められて完全に浮かれているコルトはお調子者のムードメーカーだ。
「確かにそうだね。僕も今までの頑張りが少し報われた気がして嬉しいよ。」
最近はコルトにハリス、それにビルスと4人で飯を食べることが多い。
「それでよ、スード。例のあれ、聞いてくれたか?」
なにやらコルトがワクワクした顔で小柄な体を前に突き出し、例のあれ、を俺に聞いてきた。
「あぁ、レフィリカに好きな人がいるのかどうかか?聞いてないな。」
「おぉい!声がでけぇよ!聞こえたらどうすんだ!てか、聞いてないのかよ!まぁ多分俺のことが好きなのは間違い無いと思うんだけどな。」
レフィリカの何を見てそう思ったのか甚だ疑問だが、おそらく誰とでも楽しく話せるレフィリカは勘違いされやすいタイプなのだろう。
「妄想は大概にしてくださいコルト。レフィリカちゃんがお前なんかに惹かれる訳がないでしょう。」
「……お前、ちゃんずけで呼んでるのか。きもちわる。」
「べ、別にいいでしょう!呼び方くらいなんでも!」
小競り合いをしながら騒がしく飯を食べているところ、後ろから明るい声が聞こえた。
「なんか私の名前が聞こえた気がしたんだけど、なーんの話してたの?」
その声についさっきまで騒いでいた2人が子犬のように縮こまる。情けないことこの上ない。
「ぃぃや別に?なんでもねぇし?れ、レフィ~~の話なんかしてねぇし?」
本人を目の前にすると名前すらまともに言えないのかこいつは。
「……。」
ハリスにいたっては、一言も発せず俯いたままフリーズしていた。
「あぁ、すまん。確かにお前の話はしてたな。レフィリカって好きな人とかいるのか?」
「えぇ!何急に。そんな人いないよ。まだ私にはそんな余裕がないから。」
レフィリカは顔を赤らめた後、少し何か思うところがあるような暗い顔をしてそう言った。
「だってさ。お前ら。」
「べ別に聞いてねぇし!」
「……。」
中学生のような面白い反応をする。今度から暇になったらこれで遊んでみるか。
「もぉ。そんなくだらないこと話してないで、そろそろ集合だよ?私はもう行くね。」
「そうだな。俺も先に行ってるぞ。」
「僕も先に行くよ。また後でね。コルト。ハリス。」
そうして束の間の休息は終わりの時を迎える。
そして遂に、訓練で本格的な対人戦が始まるのだった。




