第3話 騎士団への一歩
こんにちは!近衛騎士団に入隊を希望するスードと申します!説明会場はこちらでよろしいでしょうか!?」
王城の近くにある近衛騎士団本部へ足を運んだスードは、気合い十分で勢いよく名乗りあげた。
「入団を希望ですね。畏まりました。では、こちらへどうぞ。」
そう言って案内されたのは騎士団本部の横にある、修練場のような所の会議室だった。ざっと100人は入りそうな広さで、もうすでに30人ほど人が座っている。
「半年に一度団員の募集があるって聞いたけど、思ったより人が少ないな。」
そう呟きながら席に座ると、前に座っていた同世代くらいの茶髪の青年が話しかけてきた。
「やぁ!僕の名前はビルス。君も近衛騎士団を目指してきたの?」
「あぁ、俺はスードって言うんだ。よろしく。そうだけど、違うやつもいるのか?」
「よろしく!スード!近衛騎士団だけじゃなくて魔王軍と前線で戦う王国騎士団もいるからね。僕には怖くてとてもそっちにはいけないけど。」
自分に自信がないのだろうか、ビルスは頬をポリポリと人差し指でかきながらそう言った。
「そっか。俺も前線で戦うよりかは王都で王様と街を守ってたほうがいいな。魔族怖ぇし。」
そんな上滑りするような嘘を平然と吐き、スードは続けた。
「もし入団できたら、一緒に頑張って王様を守ろうな!」
「うん!頑張ろうね!」
嘘とは言ったが、実際これが嘘でもないところもある。当然だろう、俺は魔族なんだからあまり同胞と殺し合うのは気が引ける。
だが、今の人間を知った俺なら、どんな嘘でもバレることはないと確信できるほどの自信があった。
そう話しているうちに時間になったようで、肌がひりつくような威圧感を放つ老騎士が部屋に入ってくるなり、こう告げた。
「皆のもの、ここに集まっていただき感謝する。私は王国騎士団教官のベルトールだ。皆にはこれから半年間文字どうり死ぬほどの訓練を行ってもらう。」
スキンヘッドの彼は鋭い目つきで集まった者達を睨め付ける。
ここまで張り詰めていた部屋の空気がさらに張り詰めたものになったことを確認したベルトールはこう続けた。
「毎回脱落者も半分以上はいる。訓練を終え、試験に受かったとしても魔族、魔物と戦う時は1番前で戦わないといけない。当然死者も少なくない。これを聞いた上で、最後のチャンスだ。1分待つ。少しでも無理だと思ったならすぐにここを去れ。」
これを聞いた志願者の反応は様々だった。本当に出ていくものもいれば、退屈そうにしている奴。覚悟が決まった顔をしているものもいれば、怖くて震えているのに出て行かない目の前のバカもいる。
こんな光景を見ると本当に人間がバカらしく思えてくる。内側に潜り込まれるとも知らず、数年後には人間は全滅だろう。そんな哀れな見下すべき存在。スードはそう思わずにはいられなかった。
……そう、思えればよかった。
◇
部屋に残った18名は2時間の説明会の後、訓練生専用の寮へと案内され、荷物を整理し今日は終わりとなった。
案内の際に、食事は決まった時間にみんなで食べるという事、入浴も同様、寮で何か大問題を起こせば即帰宅という旨を伝えられ、男子4人の相部屋が4つ、女子2人が1つの相部屋に振り分けられた。
スードの部屋にはビルス、赤い色の長髪の中性的な顔立ちをしているセル。
そして説明会の時、よほど腕に自信があるのか、ベルトールが部屋に入ってきてもピクリとも気おされていなかった黒い短髪のドーラが相部屋のメンバーだった。
「みんなこれからよろしくね!訓練でもみんなで助け合っていけたらいいなって思ってます。」
最初に口を開いたのはビルスだった。怖がりの割には初対面の人と接する時に躊躇いがない。おそらく悪意に晒されない優しい環境で育ったのだろう。
「チッ、ウルセェよ。仲良しごっこしにきたんじゃネェんだ。一人でやっとけ。」
「私もそこのゴリラに同意見だな。ついてこれないものは助けない。部屋で話すのも時間の無駄だ。」
「オイ、いまテメェ誰に向かってゴリラっつったよ。女みてぇなナリしやがって。殺すぞ。」
「やれるものならやってみればいいが、明日にしてくれないか?折角の休息時間にキミと関わるとその低脳具合に疲れそうで仕方がない。」
今にも殺し合いが始まりそうな雰囲気が部屋に充満する。チラとビルスを見てみると、自分の発言がきっかけで始まった喧嘩に完全にフリーズしていた。
このまま本当に手を出すまでに発展してしまうと同部屋の俺たちにも責任がかかり、騎士団への入団が危うくなるかもしれない。…やるしかないか。アレを。
「おいお前ら!俺をよく見ておけ!」
コレは今の俺の姿の元のヤツが兄妹喧嘩を止めるため使った奥義だ!
スードは勢いよく膝を90度曲げ、腰を折り、両手の人差し指を上に差したまま、まるで相撲のような形をとった。両手を地面につけたまま3人の視線が自分に向いたことを確認し、準備OKだ。
「ドンッ!ヒュ〜〜〜、あ、はなび。」
両の人差し指をドンっと同時に突き上げ、自分の両鼻に突き刺した。
「…」
「…」
「…オメェ、ナメてんのか?」
こうして自分の魔族としてのプライドを犠牲にし、ビルスには思いっきり引かれ、セルには軽蔑の目で見られ、ドーラには詰められはしたものの、騎士団への入団失敗は免れたのであった。




