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切望のスード  作者: あち
第1章 空っぽの入れ物
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第2話 【再現】


「スード様、ここからはお一人での行動となります。」


そう言ってスーザンは慎ましくお辞儀をした。

ここは魔界と人間界の境目である、いわば国境のような所だ。

辺りに建物はなく、これといった目印はない広い荒野だが、この場所に来るものはここが境目だと分かるようになっているらしい。そういう魔法がかけられているのだろう。


「あぁ、ここまでありがとう助かった。これからスーザンとしばらく会えないのは寂しいぜっ!ぐすっ。」


オーバーリアクション気味に泣き真似をして見せたが、彼女には不評だったみたいで呆れた、とため息をついた。


「はぁ…思ってもない事をよくサラッと言えますね。前から言っていますが、別に私には演技をしなくていいのですよ。」


突き放された。それに上手く返す事が出来ず、「おぉう、ごめんなさい。」とたじろいでしまった。


「あなたはこれから【再現】を使って人間の心をちゃんと知ることになるでしょう。無いとは思いますが、くれぐれも人間に絆される事のないように気をつけてくださいね。」


俺のことを心配してくれてるのか、または魔界の未来を思っての心配なのかは分からないが、スーザンは何か心配そうに俺の目を見て話した。


「でも、ちゃんとスーザンの事は大事に思えてるよ。多分。それに大丈夫。人がどんな事を思って、感じるのかは大体予想がついてるから。勉強もしたしね!」


そう言ってちからこぶを作り、元気に振る舞って見せた。

だが、スーザンが心配する理屈も分かる。何故なら、スードには生まれてから今まで、感情すらも忘れたまま思い出せずにいるのだから。

だから今までの戯けた態度はただの演技にしか過ぎない。そしてこれからも。


それに加えてこの5年間、会った人物といえば、魔王様にスーザン、そして他の幹部ら3人、合わせて5人だけなのだ。その内魔王様、幹部ともあまり話したこともない。

何故だか魔王様からそういう命令がくだされていた。


その代わり、スーザンはこのただ空っぽの器に知識や感情を教えてくれた。

遂に感情を本当の意味で理解することは叶わなかったが、人間の真似をすることくらいなら出来るようにはなっただろう。


「じゃあ、行ってくる。向こうに行って落ち着けたら連絡を飛ばすよ。」


「はい、気をつけてくださいね。無事を祈っています。」


そうして新しい世界に1人で行く不安とワクワクを感じさせるような表情と声色をしながら、アルマリア王国に向かうのだった。



「これが人間界、アルマリア王国か。」


高い石の城壁に囲まれた街、綺麗に並んだ建物、舗装された石畳の道、行き交う人々を見てスードは息を呑んだ。


「スーザンに教えてもらった通りだな。綺麗すぎて居心地が悪いや。」


並んだ店の前に置かれている果物が夕日に照らされて綺麗に輝き、食欲をそそる匂いを感じる。


スーザンに渡された周りからの認識を人間へと変換できるローブを羽織りながら、街へ入るための検問を抜けたスードはそう呟いた。


「確か1回着てから1時間しか効果が出ないって言ってたな。早めに動かないと。」


少し街を歩いた後、1番高い建物を探した。


「あそこなら街を見渡せそうだな。」


街の中には一本高くそびえ立つ時計台があり、そこに向かうことに決めた。ひょいひょいと軽く建物の上を飛び、あっという間に塔までたどり着く。


「すみませーん、この塔入ってもいいですか?」


時計台は中から上に登ることが出来るらしく、入り口には警備員が立っていた。


「上ってもいいが、銅貨10枚もらうぞ。」


「マジ!?」


時計台を上るだけで銅貨10枚とは、こんなにも人間はカネにがめついのか。

一瞬警備員を殺して入ろうかと考えたが、騎士団に潜入する前に捕まってしまっては意味がないのですぐに考えを改めた。


「もしかして持ってきたカネ足りないんじゃないか?」


そうぼやきながらスードは金を払い、長い螺旋階段が続く時計台の中を登る。


「おぉ!ここなら街全体を見渡せる!」


頂上に着き、上から見る夕日に照らされた圧巻の街並みに心を踊らせる事もなくスードはすぐに行動した。


「【再現】」


瞬間、スードの体にモヤがかかり、ふくよかな女、ゴツゴツした男、まだ小さな男の子と、形を瞬く間に変えながら【再現】を行使した。


実は【再現】の能力を持ったのは世界でスードが初めてではない。

この【再現】という能力はスーザンの考察によると、対象の文字どうり全てを再現するため、見た目だけでなく、脳、記憶、人格、そして固有能力までもを再現してしまうのだ。


当然そうなれば能力者の何もかもが上書きされ、全く同じ人間が2人誕生することになり、元の使用者は消えてなくなる。それが理由で【再現】を持つ者がこれまで見つかってこなかったのだ。


では何故そんな危険すぎる能力をスードは使えるのだろうか。自分で疑問に思ったことは何回もある。


「でも、そんなことはどうでもいいだろ。考えても分かんねぇよ。」


そう言いながら、スードは見渡せる限りの街の住民の人生、記憶、感情を再現し、咀嚼する。


「なんだこれ、すっげぇ、やべぇ!これが感情か!面白い!楽しい!悲しい!!ははっ、やっと知れたよ。」


なだれ込む感情を意識的に抑え、一度冷静になる。


「ふぅ、いつまでも感情に浸っていたいけど、まず形を整えないとな。誰でもいいしコイツにするかぁ。」


そう呟くと、一度体にモヤがかかり、黒髪の顔立ちが少し整った青年の姿が出現する。年齢は18歳らしい。


「あとは元のアイツをどうするかだな。いや、マジでどうしよ。仮にも自分の姿をした奴を殺すのもなんかやだなぁ。まぁほっておいてもこんなに人がいっぱいいるんだ。バレることもないだろ。」


この油断が後に、大きく関わってくる事をスードはまだ知らない。


「今日は取り敢えずこの後騎士団に入団申請だな。でも訓練期間が半年もあるらしいからなぁ。そのあと試験をしてやっと入団かぁ。先が長ぇ。」


ぐちぐち言いつつ、人間の体と知識を手にしたスードはこの規格外の力【再現】を使い、人間界を内側から壊すために、騎士団に潜り込もうとするのだった。








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