第27話 200年前の魔女
「それじゃあ、みんな揃った事だし話さなきゃいけない事を話すわね」
4人でテーブルと温かい紅茶を囲んで座り、椅子に座ったことで地面に長く綺麗な黒髪を地面に落としているアンネがそう言った。
「それは…騎士団と、王国の事でしょうか?」
小さく右手を挙げたビルスはそう質問する。
「そうね。それに加えて私の昔話もね」
その質問に彼女は微笑み返し、昔の事を思い出すかのように語った。
「私が200年前処刑されかけた理由、それはみんなに伝わっているものとは違うの。本当の理由はあなた達が知っているように、騎士団の悍ましい正体に気づいたからよ。」
◇
―――200年前
腹に大きな穴が空き、今はかろうじて止めているが、すでに流れ出過ぎた血と魔力で気を失ってしまいそうだ。
激しく上下に揺らされ、目の前から荒い息遣いが聞こえている。そんなに揺らされると落ち着けやしない。
「あ…まり、揺らさないで…くれるか?」
ぐったりともたれかかった身体に汗と体温を感じ、痛みを感じなくなった身体が分かるのはもうそれだけだった。
「うるっさい!本当に死ぬよアンネ!」
私をおぶって必死に走ってくれているのはアンというお節介焼きの18歳の少女だ。可愛い顔にそばかすがよく似合う彼女の翡翠色をした三つ編みが顔に触れて少しこそばゆい。
「おい!しっかりしろ!お前はまだ死んじゃだめだ!」
「お願い!死なないでアンネ!」
左右そして後ろからもみんなの声が聞こえる。私を心配してくれているのだろうか。散々お前達は弱いと、私には及ばないと馬鹿にしてきたというのに…
もし生きながらえる事ができたなら、彼女達に謝ろう。そう思った時、揺れが止まった。
「……っ」
それだけじゃない。周りにいたみんなの時間も一瞬、止まった気がした。
「あぁ、そっか。もう大丈夫だ」
振り向けないが、後ろの誰かがそう言った。
「なーんだ。別に焦らなくても大丈夫だったじゃん」
目の前の三つ編みの少女がそう言い、重たい扉が開く音がした。そして重たい瞼を開き、何がどうなっているのかを確認する。
「……ぇ」
広い部屋に吹き抜けた天井、囲むようにして置かれたカプセルには人の脳が入っている物もある。
「……な、に。これ」
気味の悪すぎる光景を目の前にして呆気に取られたアンネは掠れた声を絞り出してそう問いかけた。
そして、その返答は今までの声色と全く違う、とても落ち着いたものだった。
「私達は何回死んでも生き返られるの!だってこのカプセルがあるからね!」
この悍ましい光景が、そんな良いものの筈がない。だって、それならとっくに騎士団はそれを公表してこの子達の認識を変える必要もない。なにかとんでも無い秘密があるはず…
「まぁ、最初は怖いよね。じゃあ私を見てなよ!」
「……っ」
そう言って意気揚々とおぶっていた私をドンっと地面に落とし、薄緑の水だけが入ったカプセルへと走っていく。
行かせてはダメだ。既にもう手遅れかもしれないが、それでも行かせたくない。見たくない。こんな私を仲間と言ってくれる人を……
「……ぁあ、まっ、で」
残った魔力で止めていた血が再び動き出し、おびただしい量の吐血をしてしまう。
「ははっ!そんなに怖いのかアンネ。少しは可愛いとこあるじゃねぇか。しょうがねぇ、お前ら!俺たちも見本を見せてやろーぜ!」
先程まで涙声で、しかし力強く声を掛けてくれていた彼は人が変わったように、いや実際に変えられているのだろう。皆んなを扇動し各々のカプセルへと向かう。
「……ぉね、が、い。やめ……で…ごほっ!」
もう殆ど身体が動かない。地面に寝そべり大量の血の海に浸かりながら、しかしそれでも現実を受け入れまいと手を伸ばす。
しかし、それらは彼女を嘲笑うかのように現実を突きつける。
「それじゃ、アンネも早くこいよ!」
彼はそう言い残し、カプセルへとその身を入れる。彼だけじゃない、他のみんなも。
そしてその身体は瞬く間にドロドロと水に溶け、次第に溶けた頭蓋骨の隙間から綺麗なピンク色の脳が姿を見せる。
「…………」
もう声は出ない。どんどんと視界も暗くなっていっている。ただ、シュワシュワと彼女らが水に溶けて亡くなっていく音だけが最後まで耳に残る。
そしてそれすらも聞こえなくなる直前、後ろから下卑た男の声と幾度か聞いた事のある男の声がはっきりと聞こえた。
「ついに完成したぞ…!私の夢が!認識の変換も完璧だ。これで無限の屍軍隊が完成し、念願の私と王、2人の命は永遠のものになりました!」
「あぁ……よくやった騎士団元帥、ヴァルガスよ!」
果てしない欲の塊のような2人の声を後ろから感じ取り、そしてそれを最後に私は死んだのだ。




