第24話 作戦会議2
朝日が昇り、まだ寝起きのボヤけた視界に暖かい日差しが窓から差し込んでくる。
この部屋に入った時は余裕がない上に暗くてよく見えなかったが、大きめの本棚が数個あり、床には落ちた本が散らばっている。
書斎のような部屋なのだろうか、光が差し込んでくる窓の前には1つ高価そうな机と椅子が置いてあった。
「ふあぁーー。」
今現在も王国から追われているにも関わらず、口に手を当て気の抜けた欠伸をしてしまった。そしてようやく少し脳が回り始め、他の2人を確認する。
「2人とも…どこだ?」
いない。昨日の夜、3人この部屋で眠りこけてしまったはずなのに、2人ともいなくなっている。―――これは、まずい!
俺が呑気に寝てる間に追手がせまり、それと交戦したのか?2人でここから逃げ出したのか?それなら全然ましだ。
だが、もしあの2人が危険に晒されてたら…。
最悪の事態を想定し、飛び起きてこの部屋を出ようと足を踏み出す直前、ガチャッと扉が開いた。
「あ、スード!おはよー!」
「おはよう…。」
昨日の事なんて忘れたかのように可愛く元気に右手をあげ挨拶をするレフィリカと、まだキッパリと前の態度に戻ることが出来ず目を逸らしながら気まずそうにするビルスが何かを持って入ってきた。
「お、おはよう。」
2人がいなくなったと勘違いしていたのであっけにとられ、少し恥ずかしい。でも良かった。
「あっさご飯だよー!」
何故こんなにテンションが高いんだ。と、思ったがこれがレフィリカの通常運転だ。この状況でいつも通りに振る舞えるのはすごく肝が座っているのだが。
そうやって明るく部屋に入ってきた彼女が持っているのは非常食のような物なのだろうか。
「家の中探させてもらっちゃった。3人で分けたら3日分くらいかなー。」
トコトコと目の前まで歩いてきて、座った彼女は「はいっ、どうぞ!」と乾パンのような物を渡してくれた。
「じゃっ、取り敢えず食べよ!いただきまーす!」
ニコニコしながら明るく振る舞ってくれるレフィリカのお陰であまり悲観的にならずに済む。
手のひら大ほどの硬いパンをひと口噛みちぎったが全く味がしない。これは状況に味覚が左右されているのではなく、ただ単に美味しくない。
ひと口ちぎったパンを呑み込み、これからの事を話す。
「まずはこれからどうするかだな。俺は2人には安全な所まで逃げてほしい。戦争が終わるまで。」
2人の意見を聞く前に先に自分の意見を述べた。先に言わないと、2人とも一緒に戦うだとかとんでもないことを言うだろうと思ったから。特にレフィリカ。
しかし、その懸念は先に意見を言ったとて的中する。
「嫌だ。私はスードと一緒に戦う。味方だって約束したもん。」
固い決意を目に宿し、フンッと両手を前に組みながらそう言った。
「でも、お前王国に楯突く魔族の味方だって思われたらどうなるか分かるだろ?」
「はぁ…」とため息をつきながら説得しようとするが、その意見が自分でも無理があることは分かっている。
「スード。僕たちはもう王国から追われてるんだ。今更違うと言ったところでもう遅いよ。」
「でも、一緒に戦うなんて危険すぎる。だからせめて安全なところに…」
「安全な所って、どこ?もうここにはそんな所ないよ。検問も強化されて、外には出られない。」
無理のある説得なのは分かっていたが、やはりビルスに正論をぶつけられ返す言葉がなくなる。そして口ごもるスードに更にビルスがパンを食べるのをやめ、こう言った。
「あのね、スード。何か勘違いしてるかも知れないから言っておくけど、僕も例え安全な所があったとしても君についていくよ。」
「…え?なんで。」
「はぁ、やっぱり。君を1人にさせる訳ないじゃないか。君が魔族でも、僕の友達な事には変わりない。なのに、置いて行けるわけないでしょ?まぁ怒ってはいるけどね。」
呆れたようにため息をつき、怒りも見せながらも優しさを隠しきれないビルスを見て、レフィリカは少し笑った。
「ふふっ。ビルスはスードが心配で堪らないってさ!だから3人一緒だよ。」
「何笑ってるのレフィリカ!僕がこう言ってるのは君がテコでもついて行くって言うと思っての事もあるんだからね!」
「はーい。ごめんなさーい。」
レフィリカにも少し怒りを見せるビルスに、おどけた態度で謝る彼女は何故か嬉しそうだ。
王国に楯突いた反逆者だと謂れのないことを広められ、追われると言うのにこの2人はこんなにも温かく、優しい。涙が出そうになったが心配させたくない気持ちが勝り気合いで止めた。
「そう、か。ありがとう2人とも。じゃあ絶対に負けられないな。俺の考えはまずは騎士団の黒幕を探して倒す。戦争を止めるのはそれからだ。」
まずは目先の到底目を背けることの出来ない悪行を暴き、徹底的に潰す。それが出来れば少なくともこの2人の誤解は晴れるだろう。
それが叶えば、いよいよ戦争を止めるために動く。
「僕もそれに賛成だけど、具体的にどうやって悪い人を探すの?」
「それについてだけど…」
2人に作戦を説明しようとするが、「あっ」とレフィリカが思い出したかのように声を出した。
「あ、ごめん。続けて?」
「いや、気になるだろ。なんだよ。」
「いや、この家を探索してる時に見つけたんだけどね、地下に隠し扉があって、そこが下水道と繋がってたんだ。ごめんね、言おうと思ってた事今思い出して。」
この家の元の持ち主が何者かは知らないが、何故か隠し通路のようなものがあるらしい。だが、その情報はとてもありがたい。
「なんでそんなんあるんだ。まぁでも、今の状況だとめちゃくちゃありがたいな。」
「だよねだよね!」
話を遮ってしまった事に少し負い目を感じていたのか、それが良い方向に繋がって子犬のようにぴょんぴょんと嬉しがっている。
「じゃあ後でそれがどれくらい逃走経路に使えるか確かめるか。」
そうして、改めて作戦の説明をしようとした時、割れた窓の隙間から何やら焦げ臭い匂いを感じ、窓の外を確認した。
パチパチと音を立て、庭に生い茂った手入れされていない草たちが音を立てて燃えている。
―――バレたのか!?まずい!でも、何でこんなやり方なんだ!?
その回りくどいやり方に理解が出来ないが、とにかく逃げないといけないことだけは分かる。
「まずい!家の周りが燃やされてる!逃げるぞ!」
「えっ!」
「…なっ!」
しかし驚いている暇はない。荷物を持ち急いで部屋を出て、レフィリカの言っていた地下の隠し扉へ向かう。
急いで廊下を走り階段を降りて地下についたその時、玄関の扉が派手に壊される音が聞こえた。
「魔族ども!ここにいるのは分かってる!俺たちがぶっ殺してやるから出てこぉい!」
騎士団とは思えないやりようと口調で玄関をぶち壊し、大人数が屋敷に入ってくる。
「早く逃げるぞ!」
レフィリカの案内で隠し扉を見つけ、そこから下水道へと3人で逃げる。ここが見つかるのはよく屋敷を探されたら時間の問題だろう。その前に出来るだけ遠くへ。
そうして、少しの休息は終わりを告げ、またしても追ってからの逃走劇が始まった。




