第21話 反逆者
騎士たちに連れられ、普通とは違う大きく黒を基調とした扉を押し開け、ゆっくりと中に足を踏み入れた。
「え?レフィリカ?」
そこには何故か、自室にいるはずのレフィリカが1人でこの部屋の中央に立っている。
「あれ?スード!今来たんだね!」
何故かそこにいるレフィリカに近づこうと、足を踏み出した瞬間気づいた。―――なんだこの部屋。
部屋の周りを囲むように置かれている、脳と薄緑の水入った大きなカプセル。天井は吹き抜け、それが上の階へ続いて何階分も置かれていた。そしてその中央で平然と佇むレフィリカ。
「スード?早くこっちにおいで?」
―――おかしい。なんだ、なんだこの光景は。
「どうしたの?早くおいでよ。」
―――こんなの、ありえない。分かりたくもない。
「ああ、そっか。スードは初めてなんだね?大丈夫。痛くないように、一瞬で殺してあげるから。」
正気を失ったとしか思えない目で不気味な笑い、腰に掛けてあった剣をゆっくりと抜いた。
「ま、て。待て待て。どう言うことだ。なんの冗談だ?」
全く状況が理解できず、狼狽え後ろに後ずさった。
そして後ろから鋭い風を切る音が聞こえ、咄嗟に膝を屈めた。
「っぶねぇ!」
髪の毛を剣が少し掠め、ぱらぱらと斬られた髪の毛が宙を舞う。それをしたのは、後ろにいた騎士。
「なん、でだよ。やっぱり魔族は殺せってことか…。」
距離を取るために横へ跳び、騎士たちの方を見れば、案内でついてきた3人がこちらに剣を向けていた。
「でも、じゃあレフィリカはなんで!」
何かがおかしいと、せめてレフィリカと対話をしようと試みた。
「なんでって…。これが当たり前だから?かな。」
「は?どう言うことだよ!ちゃんと説明してくれ!」
妙にレフィリカと会話が噛み合わない。まるで、この異常な部屋と俺を殺す事が普通の事として認識しているような。
「説明って言われても難しいなぁー。う〜ん…。このカプセルに入るとさ、死ななくなるの。」
「……は?」
「死ななくなるって言うか、生き返れる?一度死んでも脳さえあれば身体が再構築されるって言うのかな。とにかく、騎士団の人はみんな入ってるよ!」
つまり、死んでも取り返しのつかない傷を負っても、このカプセルに入れば元通りだと。だからなんの悪気も、殺意も無く一度死ねと、そう言われているのか?何度でも生き返れるからと。
―――明らかにおかしい。そう思う理由はいくらでもある。戦地の騎士達はみんな死ぬことを良しとしていなかった。みんなセルが死んで悲しんでた。
それに、こんな死への価値観の違いに今まで気づかなかった筈がない。
まさかと思い、震える喉を抑えながら恐る恐るレフィリカにこう問いかけた。
「レフィリカ、お前はこれに入った事があるのか?」
そしてその答えは、無常にも明るく、当然のように返される。
「うん!あるよ!」
「……っ」
確信した。生き返っているだけじゃない。あのカプセルの中で、認識が書き換えられている。条件はわからないが、ある時だけ死とこの状況に違和感を持たないように。あるいはもっと悪質な可能性も。
じゃあ、どうする。どうしたらいい。
「レフィリカ、逃げよう。ここにいたらダメだ!」
一つだけ分かるとするなら、それはここにいてはいけないと言うこと。なんとかレフィリカを連れて逃げ出さないと。
「もう…スード!わがまま言わないの!どっちにしろ騎士団に入るにはこうしないといけないんだよ?」
冗談じゃない。レフィリカに殺されるなんて、死ぬところを見るなんて絶対に嫌だ。
「くそっ!お前がずっとそうやっておかしいこと言うなら無理矢理にでも連れてくぞ!」
「おかしいのはスードだよ。すぐに生き返れるから大丈夫だって。」
吐きそうだ。なんで俺を助けてくれた、好きなった人とこんな会話をしなくちゃならない。目に少し涙が浮かび視界がボヤけそうになるが、必死に我慢する。ここで折れたら、誰も助からない。
「お前を連れて、ビルスも説得して3人で逃げる。」
そう宣言し、レフィリカの元へ一直線に走る。
「きゃっ!スード!抵抗しない…」
言い切らせる前に、とてつもない速度でレフィリカの後ろに回り込み、右手の側面でレフィリカの首を叩く。ガクッと体が崩れ落ち、意識を失ったレフィリカを抱きかかえた。
「ごめん、今は大人しくしててくれ。後は、あの3人。」
おそらくこのカプセルは傷つけられないのだろう、魔法を使う素振りも見せず、入り口を塞ぐ形で3人とも剣を構えている。
しかし、それではスードは止められない。
「どいてください!」
右足で床をえぐり、剥がれた部分を3人に蹴り付けそれに対応できなかった1人は顔面に直撃し、戦闘不能になる。
「くっ。大人しくしろ!訓練生!それは立派な反逆行為だぞ!」
蹴り飛ばされた床の破片を防ぎ、声を荒くした騎士がそう告げる。おそらくこのまま逃げ切れたとしても、俺たちは反逆者として生涯追われ続けることになるだろう。それでも、レフィリカとビルスだけは守りたい。
「【再現】」
少しでも逃げられる確率を上げるため、目の前の騎士を再現しようとその力を使った。そして黒髪の少し整った顔をした青年の姿がみるみるうちに目の前の騎士へと姿を変え、ない。
「くそっ。やっぱりかよ!」
何故か分からないが、人間界に来て初日と、遠征直前の休みの日、2回とも騎士団の人間を再現することはできなかった。そしてそれは今回も例外ではない。
「騎士には変装できないし、他の2人を連れて逃げるなら他のストックに変装しても意味ねぇな。」
中々に厳しい状況だが、取り敢えずここを切り抜けることを最優先に動く。
「はぁー!」
床を蹴り、一気に敵との距離を詰め双方から繰り出される連撃を掻い潜りながら回転蹴りを2人に喰らわせ、部屋の端へ吹っ飛ばす。これで入り口は空いた。
勢いよく扉を開け、目の前の窓を割り外へと飛び出したその時、頭上から逃れることの出来ない『死』が迫ってきた。
「おら、待ってたぜぇ!」
建物の上から部隊長、レオニスが剣を振りかぶり飛び降りてきた。
「やばっ…!」
確実に死ぬ。予想していなかった強力すぎる不意打ちを逃れる術は、どれだけの経験がストックされているスードにもなかった。
出来た事と言えば、腕の中にいるレフィリカだけは守ろうと必死に強く抱きかかえた事くらいだ。
そしてその無限にも思えた一瞬は世界ごと斬るレオニスの剣によって終わりを迎える。
あぁ、ここで終わりか…。死んで、あのカプセルに入れられ、脳を書き換えられ何度でも再利用できる騎士へと作り替えられる。
それはもはや、人間のような反応を見せるだけの都合のいい動く死体だ。
「スードー!!」
逃れられない死に諦めたかけたその時、声がした。
瞬間、喉元へと到達しかけた死は世界の祝福を受けた剣によって弾き返され、強大な力の衝突により衝撃が辺りに分散する。
「なっ…!」
想定していなかった所からの互角の反撃にレオニスは衝撃を受けるが、流石。爆発の衝撃を本部の反対側に流し、建物が崩れることを阻止した。しかし、その反対側は人の住む町だ。衝撃波と瓦礫が飛び、近くにあった建物を崩壊させた。
「ビルス!今だ、逃げるぞ!」
「…っ!何が起こってるか後で説明してよ!」
砂埃が舞い、視界が悪くなったところに更に魔法で霧を出し辺りを見えなくする。正面を切って逃げられるならこちらに分がある。
奇跡的に来てくれたビルスと合流し、「大人しく捕まってろよ!」と、2人を抱え東邦の特殊な隠密術を使った。そうして街へと逃げた3人はとにかく騎士団に見つからないよう隠れられる場所を探す。
騎士団によりおかしくなってしまったレフィリカとおそらくまだ手がかかっていないビルス、そして自分が魔族であると言い、騎士団の秘密を知ってしまったスードの3人の逃亡、そして騎士団の謎を暴き、戦争を止める為の戦いが始まった。
◇
スードたちが騎士団から逃げ出してすぐ、至る所にある放送器から元帥の声が街中へと響き渡った。
『街中の騎士達、そして冒険者と住民へと告げる。騎士団の服を着た魔族1人と、その仲間と思わしき2人が街の中へ逃げた。』
『魔族の名はスード、黒髪の青年だが、見たものの姿に変身する能力を持っている。そして仲間の2人はビルスという青年とレフィリカという少女だ。』
『騎士たちは城壁の検問を強化し、捜索に当たれ。捕らえた冒険者には多額の報酬を与える。街の住民は見つけ次第その場から逃げ、その情報を騎士へ伝えよ。生死は問わん。王国へ楯突く反逆者共を即刻捕えよ!』
これで2章は終わりです!騎士団が隠していた真実を知ってしまい、逃げた3人は反逆者として追われ、これからどうなるのか!?
3章からももっと面白いもの書けるように頑張ります!




