第20話 魂のありか
「失礼します!訓練生スード、参りました!」
勢い良く声をあげ、騎士団の最も上の立場である元帥の執務室へと入った。
「貴様がスードか、先の遠征、よくやってくれた。」
その威厳のある声を発した元帥の姿を見て、とても驚いた。なぜなら、とても騎士団のトップとは思えない体つき、つまりだらしなく太っていたのだ。
明らかに贅沢を尽くし、毎日部屋に引きこもっているかのような体に、悪人のような下衆な顔。
「はっ!ありがとうございます。」
しかしそれを表情に出すわけにもいかず、頭を下げた。そして、覚悟を決める。
「よろしい、では早速最終試験だが…」
「少しお待ちいただいてよろしいですか?元帥様。」
とんでもなく失礼だが、タイミングはここしかないと思い、言葉を遮った。それをされた元帥は当然目つきを鋭くし、不快な表情を見せる。
「貴様、我の言葉を遮るとは…まぁよい。我は寛大なのだ。言うてみろ。」
「はい…ありがとうございます。私の事なのですが…。」
魔王軍幹部として生まれた事、人間界へスパイとして来た事、そして自分の能力の全てを話そう。これが大事な仲間達を救う、第一歩なのだと信じて。
◇
剣を構えた手練れであろう騎士達が最大限の緊張感を放ちながら俺を囲んでいる。指一本でも動かせば、即座に切り捨てられる。そう思ってしまうほどの面持ちをみんなしていた。
「つまり、貴様は魔族だが、今は魔族に与することなく人間の味方になり、戦争を止めたいと?」
「はい…そうです。」
少しの静寂が場を支配し、しかしそれは目の前の男の笑い声によって色を変えた。
「ハーッハッハッハッ!貴様、本気で戦争を止めるつもりなのか!?いや、そうなのだろうな!この場で自分の身を明かすのだから!」
何がおかしいのか、顔に手を当て、大口を開けて笑い出す。
「そうかそうか…。よし、貴様に1つ、教えてやろう。戦争はどちらかが滅びるまで、もしくは負けを見とめ、頭を地につけ奴隷となるまで終わらない。そして、人間が負けることも、ありえない。」
それは、もう犠牲者を出したくないと、そんな願いを一蹴する言葉だった。
「それが何故か、愚かな貴様に教えてやろう。よし、最終試験だ。」
「最終、試験?」
「ああ、そうだ。特別だ、貴様にはスパイ行為を不問とし、騎士団へ入団してもらう。」
―――は?許されたのか?何でだ?
死刑を言い渡されると、そう思っていたのに予想外すぎる言葉が言い渡された。
「貴様の魔王軍の情報、そしてその能力は有用だ。魔族であることを差し引いてもな。」
言っていることは分かるが、いくらなんでもリスクが大きすぎないか?と困惑するが、しかしこれからも騎士団としてやっていけるのだ。ここは、喜ぼう。
「あ、ありがとうございます。是非、試験に受かった暁には、騎士団に尽くさせてもらいます。ですが、まだ私は戦争を止めることを諦めません。」
「ああ、それでよい。」
戦争を止めると、覚悟を伝えたがそれを意に返さない飄々とした態度で受け流された。
「お前たち、最終試験に案内しろ。」
試験は面接だと聞いていたが、他の場所に移るのか、と試験のことを考えられるほど、落ち着くことができた。
まだ、レフィリカと、みんなと一緒にいられる。
だが、安心はしてはいけない。騎士団に入って、みんなを死なせないようにしながら戦争を止める策を探しだす。立ち止まってなど、いられないのだ。
そうして、騎士の案内で最終試験会場へと向かう。その後ろで、元帥は不敵に笑みを浮かべていた。
◇
スードが試験に呼ばれて元帥の部屋へ向かった時。
「ねぇ、レフィリカ。なんかスードの様子おかしくなかった?」
ビルスはスードの様子の異変を感じていた。ただ、レフィリカに好意を寄せているだけではないことを。
「……。」
その疑問にレフィリカはどう答えればいいかがわからない。ただ、スードの事が心配だった。助けると言ったのに、もう2度と、会う事が出来ないような気がして。
「…っ、ごめんっ。私行ってくる!」
そう言って剣を持ち、ドアを押し開けて部屋を走り去る。片目を手で覆い、透明化の能力を使いながら。
「…スード、待ってて。絶対1人にはさせないから。」
ただ、友達を想う気持ちに従って走る。このままでは、スードは魔族と人間両方の敵になり、1人孤独になってしまう。それだけは、させてはいけない。
詳しい場所は分からないが、騎士団本部に行っている事だけは知ってる。ただ、スードのいる部屋を見つけるために走った。そして本部の中、長い廊下の途中にある大きな扉を見つけて立ち止まる。
「はぁ…はぁ…あれ?…ここ、私来たことがある?」
騎士団本部の中だ。来たことあるはずがない。ないのだが、何故か体が、脳みそがそう訴えていた。
そしてその瞬間だけスードを探していたことを忘れ、おもむろに一際大きい扉の前に立った。
「……」
そして直感に従い、小さな手で大きな扉を両手で押し開け、中に入った。数歩前に進みドンッと扉が閉まる。
「……ぁ」
その部屋の光景を見て、声が漏れた。
薄暗い部屋には囲むようにして脳が入れられた人1人入る大きさのカプセルが無数に置いてあり、天井は縦に何階分も吹き抜けている。普通ならむせかえるような悪臭がするのだろうが、不思議と、この部屋は無臭だ。
だが、中にはまだ脳みそだけでない、溶けかけの体や頭が入っているカプセルもあった。
「これ、ニーナ?」
長い髪に豊満な体つき、何よりカプセルの下に『ニーナ』という文字が書かれている。
「あぁ、そっか。思い出した。」
パンっと手を合わせ、忘れていた記憶を思い出せて嬉しい。
「私、訓練の初日、ここに来たんだ。それから…」
部屋の中央にトコトコと走り、辺りを見渡した。
「あ、あった!」
探していた物が見つかり、歓喜の声をあげた。その探していた物は。
「私のカプセル!」
『レフィリカ』と書かれたまだ薄緑の水しか入っていないカプセルが部屋の隅に置いてある。
そしてそこに行こうとした時、ギィィッと後ろのドアが重たく開いた。
「え?レフィリカ?」
私がここにいるのがそんなにおかしい事なのか、すごく間抜けな声を出した私の友達、スードがそこにいた。




