第19話 最後の試験
「やっと訓練が終わったんだね。この6ヶ月間、人生で1番長く感じたよ。」
寮の部屋へと久しぶりに足を踏み入れ、ひと段落し、ふぅーと長い息を着いたビルスがそう言った。
「そうだな。色々なことがあったし…。この場にもセルがいたらな…。」
「スードだめだよ。自分のせいにしたら!」
セルが死んだことは俺のせいではないと、ビルスはそう励ましてくれる。でももう、直に俺が魔族だと発覚して恨まれるのは間違い無いだろう。
それとも、ビルスは許してくれるだろうか。
―――許されないだろうな。あぁ、嫌だ。でもせめて、自分勝手この上ないが、この時だけでも楽しい時間を過ごしたい。
「あぁ、そうだな、ありがとう。それでビルスはいつ呼ばれるか聞いたか?」
「うーん、いつなんだろうね。ドーラは最初に呼ばれちゃったし。教官が呼びに来てくれるみたいだけど…。」
現在、訓練生は寮での待機命令が出されている。
なんでも、最終試験は面接のようなものらしく、1人ずつ騎士団本部に呼ばれていくらしい。
「2人でここにいても暇だな、レフィリカのとこにでも遊びに行くか!」
俺が呼び出されれば、俺が魔族だという真実を言わないといけない。もう、まともに皆んなと居られる可能性は限りなく低いだろう。そう思ったら、ものすごくレフィリカに会いたくなった。
―――多分、俺はレフィリカのことが好きだ。
会いたい、喋りたい、触れたい。考えれば考えるほどに胸が締め付けられる。
「そうだね、行ってみよっか。まだ呼ばれてないといいけど…。」
そう言って、2人でレフィリカの部屋の前まで到着する。
「どうしたのスード?入らないの?」
「ちょ、ちょっと待って、深呼吸。」
スー、ハー、と体を使い大きく息を吸って吐いた。何故かすごく緊張する。第一声はなんて喋ればいいのだろう。顔おかしくないかな。爪切っておけばよかった。
「な、なぁ、やっぱ戻ろ…」
「レフィリカー、いるー?」
部屋の前で狼狽え、いくじなく自室に退散しようとしたが、ビルスが先に部屋をノックしやがった。くそっ!はめられた!
すると、部屋の中から「はーい!」と可愛い声が聞こえ、軽やかな足音が聞こえてくる。その足音すら愛おしい。ガチャっとドアが開き、レフィリカがひょこっと顔を出した。
「どうしたの?2人して。」
「スードがレフィリカと話したいってさ!」
「なっ!ビルス、お前!」
ニヤっと悪い顔をしたビルスがそう言った。
こいつ、やりやがった。なんて事しやがる。まさか、魔族だともう知られていて、これは嫌がらせか?
「そうなの?スード?」
「い、いや!?べ別にそんなことねぇよ!?」
前にこんな反応をコルトがしていて、バカにした記憶がある。まさか自分も同じ道を行くとは。
「ふふっ、冗談だよっ。ニーナもいるの?」
「ニーナなら、ちょっと前に呼び出されたよ。」
「そっか。なら、3人で話そうよ。」
ビルスがそう言って3人で話す流れに持って行ってくれた。初めからそれをしてくれ。
「いいよ!私も1人だったからちょっと寂しかったの!入って入って。」
可愛く手招きして、俺たちを部屋に入れてくれる。俺、レフィリカの部屋に今から入るのか?これ、犯罪とかじゃないよな?
自分が臭くないかバレないように匂いを確かめ、緊張した足取りで部屋に入った。
「お菓子はないけど、楽しくお話ししましょー!」
2回目の、3人のこの部屋での集合。懐かしい気分だ。ここでレフィリカに正体がバレかけたのも、ビルスの事を一生懸命考えたのも。騎士団の都市伝説のような話を聞いたことも。
3人は同じベットの上に座り、呼び出しがかかるまで、2ヶ月間会うことができなかった分を取り返すように、たくさん話した。
―――この時間が、ずっと続いて欲しい。
そう胸に秘めながら、ついに呼び出しがかかる。
「訓練生スード、本部へ呼び出しだ。」
最後の試験へと呼び出されたのは、3人の中で俺が最初だった。
「じゃあ、行ってくるよ。」
ビルスは「頑張ってね!」と応援してくれるが、レフィリカは当然心配が尽きない顔をしている。
「スード、私、何があっても絶対助けるから。」
「ありがとう、2人とも。バイバイ。」
なんの話だろうと、ビルスは不思議な顔をするが、それを横目に部屋を出る。振り返ることは絶対にしない。ここで振り返ってしまえば、また同じ事を繰り返してしまうだろうから。
―――もう俺は逃げない。例え処刑だと言われても、逃げて、逃げて人間を救ってやる。そして魔族も。俺が、戦争を止めるんだ。
そう決意を固め、俺は本部へと足を運んだ。
◇
前にレフィリカから聞いた、騎士団の都市伝説は間違いではなかった。いや、正確には間違いだ。
だって、聞いていた話と比べ物にならないほどに、闇が深い。
「スード?早くこっちにおいで?」
―――おかしい。なんだ、なんだこの光景は。
「どうしたの?早くおいでよ。」
―――こんなの、ありえない。分かりたくもない。
「ああ、そっか。スードは初めてなんだね?大丈夫。」
―――だって、こんなこと、現実であって言い訳がない。
何階分も中央の天井が吹き抜けている広い部屋、そこには現実とは思えない異様な空間が広がっていた。
頭と胴が切り離され、取り出された脳みそだけが、人1人分の透明なカプセルのような機械に薄緑の水と一緒に入れられている。それが、数えきれないほどに。
その中には、今さっきまで喋っていた仲間たちも。
そして、そのカプセルに囲まれた部屋の中心で、薄暗い明かりに照らされ、不気味に光る栗色の髪と目をした小柄な女の子がこう言った。
「大丈夫だよ。痛くないように、一瞬で殺してあげるから。」
―――正気とは思えない目をしたレフィリカが、不気味に笑みを浮かべ、抜き身の剣を右手に持ち、そう言った。
あえてラストの引きを前話と同じものにしました。(一文足しましたが)
どうこのシーンに繋がるのか、何故レフィリカがこうなっているのか、是非次回お楽しみに。




