第18話 王国への帰還
「すまねぇ、遅れた。あとは任せろ。」
金髪で赤眼をもち、異次元の存在感を放つ青年が、いずれ押し切られる2人の間に入り、そう言った。
「チッ、流石にこの状況は分が悪いですねぇ。一旦引くとしましょぉう。」
そう言って背中から異様に黒光りする羽を生やし、ゼルファは飛び去ろうとする。だが、簡単には逃げさせない。
「ここまでやってくれた責任、取ってもらうぜ。」
「俺が止めます!」
レオニスが剣を構え、猛烈な一撃を叩き込もうとする。それをサポートするよう、スードは魔法を放った。
その魔法は重力を自在に操る、使える者の限られた魔法だ。羽だけにそれを集中させる。
「小賢しいことをぉ!」
それを力で無理矢理突破するが、王国最強は一瞬の隙を見逃さない。
ただ一振り、ゼルファめがけて振り下ろし、世界が半分に割れる。
「がぁぁぁ!!」
右半身に直撃し、不細工な形で体が2つに割れる。
そのまま地に落ちトドメを刺そうと動いたその時。
「そこまでだ。」
その場にいる全員の動きが止まる。否、動きだけではない、呼吸すら制限される。心臓を直で握られているような錯覚すらその声から感じた。しかし、その声の主は姿を見せる事はない。
異空間のような黒いモヤが出現し、ゼルファを吸い込んでいく。体が二つに分かれてしまったゼルファは、それでもこちらを向き、こう言った。
「必ず人間どもは殺しますからねぇ。楽しみに、ねぇ。」
「チッ、待て!」
思い切り地面を蹴り、トドメを刺しに行くが、吸い込まれ空間が閉じる方が早い。ゼルファに、逃げられてしまった。
「くそっ!またかよ!」
レオニスは自分への情け無さを滲ませ、地面を蹴る。
そうして、この遠征で魔王軍幹部、ゼルファを倒す事はできなかったが、痛手を追わせ、当初の目的、魔王城発見は果たされたのだった。
◇
「みんな!無事だったのか!」
セルの遺体を運び、キャンプ場まで戻れば、そこに他の部隊の同期達も集まっていた。
「スード!よかった…。無事だったんだね。」
「ごめん、でもセルが…っ」
ビルス達が心配そうに駆け寄ってくるが、スードの帰還に喜ぶ前に、セルの死を伝えた。
俺のせいでセルが死んだのに、生きて帰れたことを喜ばれるのが耐えられなかったから。
その気持ちを察したのか、レフィリカは心配そうにひんやりした温かい手で俺の手を握ってくれた。
「…ッ、セル…。そっか、でも…ありがとうスード。セルを連れ帰ってくれて。それと、生きててくれてありがとう。」
相当ショックなはずなのに、ビルスは気丈に振る舞い、俺を気遣ってくれた。他のみんなも、俺を気遣ってくれる。
「ね?スード。あなたにはこうやってみんなから心配されて、想われていいんだよ?」
「…っ、うん。ごめん、ありがとう…っ。」
溢れる涙が止まらない。胸が痛い。でもこの胸の痛みが、晒した醜態がもう誰も殺させないと何度も思わせてくれるだろう。
それから魔界での行方不明者捜索部隊がキャンプに帰ってくるまで、2週間経った。
皆が散り散りにはぐれたあと、レオニスは即座に状況を把握し、キャンプに戻るでもなく、とても人間とは思えない体力とスピードで団員の捜索をしたのが功を奏し、ほぼ壊滅かに思われた部隊は部隊員数52名中、死者8名、行方不明者5名という最小限の犠牲で抑えた。
ちなみにあの時、最後に発見されたのが魔族と交戦中のスード達であった。
◇
「皆の者、よくここまで戦い抜いた。今回は多くの犠牲者が出たが、目的は果たされた。犠牲を無駄にせぬよう、彼らを心に刻み、これからは魔王討伐に向けて準備をする。」
参加したものが全員集められ、騎士団長アルダープの言葉で今回の遠征の終わりとなり、王国へと帰還する。
「スード、これからどうする?このまま人間として生きるよね?」
王国に入る直前、レフィリカと2人きりになってそう問いかけられた。
「私はそうして欲しい。でも、スードはどうしたい?」
その答えはもう決めてある。
「帰って、俺が魔族だって事、騎士団長に言いに行く。俺たち訓練生は寮に帰って、1人ずつ順番に本部に行くことになってるだろ?」
「その時に伝えるよ。もう覚悟は決めてる。魔王軍の情報も伝えて、その後はどうなっても戦争を辞めてもらうように動く。処刑と言われても…。」
それを聞いたレフィリカは、「そっか…それが、スードの覚悟なんだね。」と少し遠い目をして言った。
「私…は、絶対にスードの味方だから、ね?」
心配そうに下から見つめてそう言ってくれた。そんな可愛い顔で、そんな嬉しいことを言われるとドキドキする。
でも何故か、そんなレフィリカの表情には、それだけではないなにか大きいものが渦巻いているように見えた。
◇
「スード?早くこっちにおいで?」
―――おかしい。なんだ、なんだこの光景は。
「どうしたの?早くおいでよ。」
―――こんなの、ありえない。分かりたくもない。
「ああ、そっか。スードは初めてなんだね?大丈夫。」
―――だって、こんなこと、現実であって言い訳がない。
何階分も中央の天井が吹き抜けている広い部屋、そこには現実とは思えない異様な空間が広がっていた。
頭と胴が切り離され、取り出された脳みそだけが、人1人分の透明なカプセルのような機械に薄緑の水と一緒に入れられている。それが、数えきれないほどに。
その中には、今さっきまで喋っていた仲間たちも。
そして、そのカプセルに囲まれた部屋の中心で、薄暗い明かりに照らされ、不気味に光る栗色の髪と目をした小柄な女の子がこう言った。
「大丈夫だよ。痛くないように、一瞬で殺してあげるから。」
―――正気とは思えない目をしたレフィリカが、不気味に笑みを浮かべ、抜き身の剣を右手に持ち、そう言った。




