第14話 悪の最高傑作
キャンプを出発し、2週間が立った。
その間の成果はというと、驚くほど順調に、上手く事が運び、本格的な進行の為に、周囲の魔物を一掃することに成功していた。
「それにしても訓練生共!お前らなかなかやるなぁ!」
キャンプに一旦帰り、順調に行っていることの祝いと、これからの士気を上げるため、今日の晩飯は豪華に振る舞われ、皆集まって騒いでいる。
まるで前線にいるような感じがしなく、随分と余裕な雰囲気だ。
「ありがとうございます。先輩達も連携に隙がなくて、学ばせてもらってます。」
そう無難に返したスードだったが、騎士団の実力は見事なものであった。
大量に群れで襲ってくる魔物であっても、魔法部隊が後方の魔物を一掃し、騎士達が防御、攻撃を繰り返しながら確実に敵を削り、瞬く間に魔物は殲滅される。
少なからず傷を負うものもいるが、致命傷を負うものは1人も出ていなかった。
前にレフィリカと話した、騎士団に傷が付いているものはいない、というのはただの勘違いだったみたいだ。
「まぁ、いつも最初はこんなものだ。これからの進行はもっと奥に行くから別物だぞ。敵も強くなるし、疲労の溜まり方も桁違いだから戦いに少なからず影響も出る。」
覚悟しろよ。と先輩、キースはそう緊張感を持たせてくれた。
「お前たち3人の実力は本物だが、実践経験はまだまだだ。常にアクシデントが起こると思え。」
「おうキース、なに先輩風吹かせてんだ?」
何かと俺たちによくしてくれるキースに、横からレオニスが水を差してきた。
「言い方が悪いっすよレオニスさん!俺はこいつらに死んでほしく無いんすよ。」
「そうだな。俺もコイツらには期待してる。雑用くらいには使えるみたいだしな。」
騎士団員とレオニスの関係は良好みたいで、皆結構ラフに会話をしている。
そしてレオニスはぶっきらぼうにそう答え、さらに続けた。
「でも気をつけろ、お前ら。キースもだ。明日からの進行は何か起こりそうな予感がする。ただの勘だがな。」
そう言ったレオニスの顔は、勘だろ?と流すことが出来ないほど真面目な顔をしていた。
「レオニスさんの勘はよく当たりますもんね。お前ら、明日からは本気で気を引き締めろよ。」
「「はい!」」
レオニスのあの顔を見れば、嫌でも気が引き締まる。そして明日の進行へと心の準備をしながら、朝を迎えるのだった。
◇
再びキャンプを出発し、5日が過ぎた。
初回と同じく順調に進んでいたが、今から進むところは騎士団も進んだことのないらしい、未踏の地だ。
ちなみに、スードは魔王城から出たことは、人間界へ行く時の一回しかなく、殆ど魔界の地は知らない。
知っている情報と言えば、他の幹部と魔王様、部下のスーザンと城で飼われていたとんでもないデカさのキメラだけである。
「今からこの森を抜ける!初めての場所だ。お前ら気を引き締めて行くぞ!」
全員に聞こえるようにそう言い、騎士団は森へ入って行く。
その様子を、獲物を選別するように5つの目を光らせ、見ている生物がいることに気づくものはいなかった。
◇
森へ入ってから5時間ほどは立っただろうか。今騎士団は3時間ほどはぶっ通しで魔物と戦い続けている。
「いくらなんでも、魔物が多過ぎる!」
あまりの魔物の多さにキースはそう悪態をついた。もう何千と魔物を倒しているが、その勢いは止まることを知らない。
初めての場所に、どこから魔物が来るか分からない木に囲まれた森の中、騎士団員の疲労は確実に増えていた。
「それに…、なんだこの違和感は。」
そうこぼした直後、密集していた木々を抜け、周囲200メートルほどだろうか。周りを森の木に囲まれた草原のような場所に出た。
そして、それは突然。いや、ずっと気を伺っていたのだ。
長時間の戦闘をさせ、十分に疲弊させた所で命を貪ろうと、ドス、ドス、と地面を揺らし、木々を薙ぎ倒しながらその災厄は訪れる。
「チッ、誘導させられてたか…。」
ゆっくりと厄災はその姿を現す。その四足歩行のデカ過ぎる体に、まるで虎のような体毛、体格ほどの長さのある尻尾の先には蛇の頭がついており、そして顔には右と左と中央、そして頭の上と顎の下に目がついていた。
なんだ、あの生き物は、と全員が呆気に取られている中、レオニスとスードの2人はそれぞれ先に動く。
「はぁぁー!!!」
「みなさん!しゃがんで下さい!」
レオニスは1人、前に出るなり、縦に剣を振るう。
本気の一振りは世界の全てを断ち、目の前にある何もかもがその斬撃の前には無意味だ。
そして叫び、腰を低くしたスードにハッと気づき、全員その通りに動く。
そして振り下ろされた剣は、世界を終焉に導くような獣の尻尾と激突する。
誰もが体を掠めるだけで死ぬ、と直感する尻尾の攻撃。
しかし、横にムチのように音速をも超える速度で振り払われた尻尾は、レオニスの剣に一刀両断された。
「ギィヤャャャ!!!」と甲高く、聞くに耐えない苦痛の声を獣は上げる。
切られた尻尾は勢いのまま、しゃがんだ騎士団の頭上を飛び、後ろの木々を蹂躙した。
「ま、マジかよ…。」
スードはその規格外すぎるレオニスの剣撃に度肝を抜かれる。
目の前の獣、その正体は魔王城で飼われていたキメラだ。何故こんなとこにいるのかは分からないが、もっとわからないのは今の信じられない出来事。
あのキメラはスーザンから聞いた話、魔王様が作った最高傑作らしい。幹部でも手懐けるのに苦労したと聞いたが、それの不意打ちを防ぐどころか大きくダメージを与えるなんて。
「お前ら!あれの相手は俺がする!周りの雑魚を近づけるな!」
緊迫した声を上げ、キメラの相手を1人ですると宣言する。「「はい!」」と遅れて行動する騎士団は再び連携を取り戻し、周りの魔獣の対応に当たる。
「いけぇぇー!」「レオニスさんに魔獣を近づけるなぁー!」
声を上げ、疲れた体に鞭を入れ戦う。その中央にはこの世の生き物の戦いとは思えない、次元を超越した戦いが繰り広げられている。
しかし、じきにその戦いは終わりを告げた。
一際強い衝撃波が辺りに響いた瞬間、キメラは甲高い声をあげ地面に倒れた。息をしていないのを確認して、剣を掲げる。レオニスが勝ったのだ。
「あとは周りの魔獣だけだ!お前ら気合いを入れろ!」
とキメラに背を向け、騎士団に告げる。しかし、魔王の最高傑作。簡単に終わるはずがない。
地面に伏し、死んだかと思われたキメラは意思を持ってか、そう作られていたのかは定かではないが、でかい口を開け、魔力が瞬時に溜められていく。
ハッ、とそれにレオニスは気づいて振り返り、たまりゆく魔力をかき消そうと顔面を一刀両断、する直前、溜められた魔力は地面に咆哮し、爆発する。
瞬間、世界が揺れ、その衝撃を受けたスードの視界は空、地面、人と判別がつかないほどにシャッフルされ、どこか遠くへと吹き飛ばされるのだろう。直感でそれが分かった。そしてそれは周りにいた騎士達も同様。
ここで1人になってはいけない、してはいけないと、必死に横にいたセルの手を掴む。そして衝撃により脳の揺らされたスードの意識は途絶えた。
◇
「……ぇ」
目が覚め、慌てて体起こしたスードは声にならない声が出た。
何故なら、目覚めたそこは見渡す限りの砂の地。それ以外は何も無い。今まで一緒にいたキース、レオニス、騎士団達、魔獣すらも。
ただ横には、飛ばされる直前、手を握って離さなかった気を失っているセルがいただけだった。




