第13話 前線基地
あのトーナメントから2ヶ月が立ち、長かった対人訓練は終わりを迎えようとしていた。
その間したことと言えば、型の訓練や1対1、多人数での乱戦やチーム戦なども行った。
本気で高め合った皆は初日より大きく成長を遂げていた。
「今日の訓練は終了だ!集まれ!」
いつも通りの怒号が聞こえ、一斉にベルトール教官の元は集まる。
「お前たち、よくやった。今日で対人訓練は終わりだ。そこで、1日お前たちに休みをやろう。」
その言葉を聞き、皆が「おぉ!」と沸き立つ。訓練生になって初めての休みだ。コルトなんかは「よっしゃー!きたぜぇー!」と泣きながら喜んでいる。
その浮かれている訓練生達に、教官は釘を刺した。
「この休みは2日後からの訓練に向けての休みだ。先に言っておくが、今までとは比にならないほど危険だ。死人が出てもおかしくはない。」
ドスの聞いた威圧的な声で浮かれていた皆に怖い事をいうものだから、一瞬で場が静まり返る。
「あの、それで一体何をするのでしょうか?」
ビルスは恐る恐る教官に尋ね、皆が息を呑む中、こう答えた。
「2日後から、お前たちには2ヶ月間、今現在も争いが起こっている戦地の前線に行き、王国騎士達と共に行動し、魔物と戦ってもらう。」
◇
「遺書でも書いておこうかなぁー。」
頭の後ろで手を組みながら、冗談ぽく言ったコルトだったが、どこか遠い目をしている。
「ちょっと辞めてよー!そんなこと言うの。」
縁起でもない事を軽はずみに言ったコルトに怒ったレフィリカに、「あ、あぁ、ごめん。」とたどたどしく謝る。
「でもよ!俺もお前らも近衛騎士団志望だろ?前線には行かなくてもいいじゃんかよ!」
訓練生たちの所属希望は、ドーラとセルは王国騎士団、メルトも前線の魔法騎士団で、それ以外は近衛騎士団志望だ。
「教官も言っていたでしょう。どちらにせよ、王国が危機に陥れば最後の砦は近衛騎士団です。魔物との戦いに慣れておかないと…。」
ハリスは生真面目にコルトにそう説明した。
「分かってんだよ、でもよ、やっぱこえぇんだよな〜。」
テーブルにうなだれ、珍しく元気のないコルトを見て、周りも少し暗い空気をしている。そしてそれは、スードも同様。
―――魔族は殺せない。
実際、この世界の魔族の数自体は少ない。だから基本戦う相手は魔物で、ここ一年魔族とは前線で戦っていないと言うのがベルトールの言葉だ。
だが、もしも、もしも魔族と鉢合わせてしまえば、戦うことは避けられないだろう。そうなればどうなる。
仮にも同胞だ。魔族は殺せない。なら、人間を裏切り魔族と一緒に騎士団員を殺すか?
おそらく、今いくら考えても答えは出ないだろう。スードはそう直感していた。
でも、もし騎士団に敵対しても、魔族と戦うことになっても死なないようにしないといけない。
「ストック、増やさないとな。」
そう周りには聞こえない声でスードは呟くのだった。
◇
「「2ヶ月間、よろしくお願いします!」」
声を合わせ、目の前の圧倒的な存在感を放つ20代半ばほどの青年とその後ろに並ぶ騎士団員達に頭を下げた。
前線に到着し、今ここにいる訓練生はスード、セル、そしてハリスの3人だ。
前線には部隊の数が4つあり、それぞれに訓練生が振り分けられた形である。
「おう、俺は訓練生だからって甘えは許さねぇぞ?ビシバシ働けや。」
「「はい!」」
高圧的にそう言った目の前の青年は、王国最強と謳われる騎士、レオニスだ。
「まぁ戦いが始まんのはまだ後だ。それまで適当にクソでもして暇でも潰してろ。」
赤い瞳を光らせ、金色の髪を持ち、とんでもなく鋭い目付きでこちらの目を見ながら話すレオニスには、相対しただけで生物としての格の違いを感じさせるほどのオーラがある。
その後、集合していた騎士達は解散し、スード達は1人1人また挨拶をしていかなければいけない。上下関係が絶対の騎士団には必要なことだ。
全員に挨拶が完了し、少し話す時間が出来た。
「それにしても、魔界っていうのは以外と人間界と変わらないのですね。」
ハリスは挨拶が1段落し、そう溢した。
魔界と人間界、言葉の響きは全く違うものだが、実のところ違うところは一つだけだ。
それは魔王城以外、建物がないと言うところである。
魔族には家を建て、周りと協力し生活を営むという概念がないので、家などの建物は必要がないのだ。
それに加え、自然は人間界と同じく、川が流れ、草木が生え、砂漠もあれば、森もある。
人間界で言う、辺境の地と見た目はあまり大差がないものであった。
魔界と人間界との境界線は、意識はできるものの、通る事になんら影響はないので、騎士団は境界線の目の前にキャンプ地を作り、そこで戦いの準備をする。
そして、キャンプ地に集合の合図の鐘が鳴り響く。
「よし、お前ら集合したな。これから俺たちは魔界に進行する。まずは2週間、周囲の魔物を蹴散す。その後、ここに一度戻り、再度魔界に進行する。」
「今回の進行の目的は、未だ見つかっていない魔王城を見つけることだ!憎き魔族を滅ぼすため、まず俺たちは魔王への足掛かりを探す!」
「そして城を見つけた暁には、もう人類の勝利は目前だ!お前ら!人類の誇りを胸に、いざ、ゆくぞ!」
整いながらも、野生味のある顔つきをしたレオニスは、その自身が持つ強大なカリスマ性を見せつけ、剣を突き上げ、皆を鼓舞する。
おぉぉー!!!と地鳴りのような歓声が湧き上がり、騎士団は進行を始めた。
そうして戦地に赴いた騎士団の犠牲者は、魔物と魔族により過去類を見ない数を更新することになる。
そしてその牙が、訓練生にも及ぶことも、誰もまだ知らない。




