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切望のスード  作者: あち
第2章 偽りの真実
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第12話 醜い心


夢を見た。


街に魔族と魔物が進行し、人々は逃げ惑い、蹂躙される。街は焼け、建物は壊れ、そこに生き残った人間は1人もいない。


スードはただ1人、その中心で立ち尽くしていた。


その顔は、泣いていたのか、凶悪に笑っていたのか、はたまたなにも感じ取れない無の表情だったのか。


最後までそれを知る事はなく、目覚めの時を迎える。



「……ぁ」


ゆっくりと瞼を開き、久しぶりの明かるさにゆっくりと目を慣らしていく。喉が渇きを訴え、全身が痛む身体を起こそうとし、掠れた声が漏れた。


自分が今身体を預けているのはベッドだろうか。ゆっくりと手をつき、身体を起こした。


「あ!スード!スードが起きた!」


真横で可愛らしい声が聞こえ、ゾロゾロと周りに人が集まってくる。


「おはようスード。」


そして先にそう言ったのは茶髪の青年、ビルスだ。


「しばらく起きないから心配したよ。大丈夫?」


心配する声を聞き、「あぁ、大丈夫みたいだ。」と時計を確認すると、時刻は10時半。6時間ほど気を失ってたみたいだ。


「みんな、もしかして待っててくれたのか?」


部屋を見渡せば、同期のみんなが集まっていて。


「ドーラはまぁ、いないか。」


相変わらずのドーラはいなかったが、それでもみんな俺の目覚めを待ってくれていた。なんて優しい奴らだ。


「そうだよ。みんな心配してたんだよ!2人ともあんな威力でぶつかって、目を覚さないんだから!」


少し目に涙を浮かべながらレフィリカはそう言った。


「みんなありがとう。すげぇ嬉しい。あと、心配かけて本当にごめん。」


その謝罪には、心配をかけたことだけじゃない。自分は魔族で、皆を騙しているという事も含まれていた。

そんな自分に心配される価値はあるのかと、ものすごく申し訳ない気持ちになる。


「それで、試合の結果ってどうなったの?あとセルは大丈夫なのか?」


あれだけの火力がぶつかったのだ。セルは大丈夫なのだろうか?とスードは心配すると、


「試合は引き分けだ。悔しい事にな。この受け継がれた力を持ってしても、君には勝てなかった。」


ふと、声をする方を見ると、横には同じくベッドに座り、握った拳を見ながら悔しそうにそう答えたセルがいた。


「そう、か。それにしてもお前のあの魔法、反則だろ。」


あの火力を直に受けたスードは率直にそう思う。


「黙れ。あの力がありながら君に勝てなかった自分が情け無い。」


そう暗い表情をしながら、セルは続けた。


「君たちの事は、嫌いだ。だが、実力は本物だった。それは、認める。」


ここに来て、初めて面と向かってまともに喋ってくれたセルにレフィリカは「ふふっ」と笑い、


「さっ、お腹空いたしみんなでご飯早くたべよ!」


「え、もしかしてご飯も食べずにみんなずっとここにいてくれたのか!?」


あまりにびっくりして、声が大きくなってしまった。


「え、あ!お風呂はちゃんと入ったよ!?」


汚いと思われるのは乙女心的に嫌なのか、レフィリカは必死に風呂に入ったアピールをする。

そんなレフィリカを見ていると心が安らぐ。さっき見た夢のことはもう忘れていた。


「じゃあ行こ!2人とも!」


そう言い、ぞろぞろとみんな部屋を出ていき食堂に向かう。


スードはベッドから降り、暖かい仲間と共に食堂に行こうとするが、


「セル?どうした?行かないのか?」


ベッドから降りようとしないセルに問いかけた。


「私は行かない。1人で食べる。」


そう言ったセルの表情には少し寂しさを感じた。だが今はそっとしておくべきか、と思った矢先、


「何言ってるの!セルもいくよ!」


と、レフィリカはセルの手を握り強引に引っ張る。


「な、やめっ、やめろ!やめろと言って、力強くないか!?」


無理やり引っ張られたセルはベッドから降ろされる。


「分かった。俺も行く。だから手を離せ。」


セルは諦め、レフィリカは「あ、ごめんっ。」と慌てて手を離した。


「無理矢理でごめんね。でも、セルが寂しそうに見えたから…。あと、私セルとも話してみたかったの!だから一緒に行こ!」


納得がいかない、と言った表情のセルは、太陽のように明るく、優しいレフィリカに丸め込まれる。


そして3人で部屋を出る間際、「やっぱり、僕は君達が嫌いだ。」とセルは誰にも聞こえない小さな声で、少し嬉しそうな顔をして呟いたのだった。



飯を食べ終わり、スードは1人で大浴場に向かった。


後ろから足音が聞こえ、振り返るとビルスが居て、「ちょっと話したい事があるから僕も一緒にいい?」と様子を伺うように顔を覗き込んだ。


「1人じゃ寂しかったし、いいぜ。」


そう言って2人は体を洗い、風呂に浸かった。


「あのね、話したいことっていうか、謝りたいことがあって…。」


「なんのことだ?」


目を伏せながら、緊張した様子でビルスは言葉を続けた。


「その…、僕が負けて、スードたちが励ましてくれたでしょ?その時僕、みんなに申し訳ない態度を取っちゃったなって。謝りたくて…。」


「え、うん…。え?それだけ?」


「それだけ!でも、励ましてくれたのにあんな態度取っちゃって、嫌われるんじゃないかって心配で。」


驚いた。あんな態度、と言っても、少し冷たく、こっちに目を合わせなかった程度でこんなにも悩んでいたなんて。


「ビルス…、お前めんどくさいやつだな。」


「えぇっ!そう?ごめん。」


攻めたつもりは言ったわけではないのだが、またしても目を伏せながら謝った。


「ビルス…、お前さ、人の目を気にしすぎなんだよ。お前は本当に優しくて、強いやつなんだから自信もてよ。」


スードは本心からそう思う。みんなを騙し、心配させ、いずれ人を裏切る事になるだろう俺なんかより。


「…スードはいつもそうやって言ってくれるよね。出会った時から、僕は助けてもらってばっかりだ…。」


悔しそうに唇を噛み、ビルスは小さく言葉を続けた。


「本当は僕なんか、そんな価値なんてないのに。」


その言葉を聞いて呆れと少しの苛立ちが生まれる。


「はぁ…。またそんなこと言いやがって、お前は家族想いで、友人を大事にできる。少なくとも俺なんかよりは価値はあるだろ。」


スードが自分を下げたのが失敗だったのか、それをきっかけにビルスは内に溜めていた思いを吐き出した。


「そ、そんな事ない!僕は…僕は、本当は嫌われるのが怖くて、自分に価値がないって言われるのが怖くて、だからこうしてるだけの最低な人間なんだ…!」


拳を握り、自分の醜さを糾弾するように言葉を続けた。


「本当の僕は何も優しくない!醜い性根の腐った奴なんだ…。演じてる、だけなんだよ…。」


気づけばビルスの頬には涙がつたっていた。


そしてその言葉を聞いた瞬間、スードの胸は痛み、自分を恨んだ。


自分に言われた気がしたのだ。演じてると。腐ったやつだと。そして、悲痛な声を出し、自分を糾弾するビルスに胸を痛めたのでは無く、自分に言葉を向けられたのだと錯覚し、胸が痛んだという事実に心底腹が立つ。


でもせめて、ビルスには自分を責めてほしくない。醜い部分を曝け出し、自分を攻めるビルスに、こう言った。


「ビルス、お前はやっぱり優しくて立派なやつだよ。」


「だから…!そんなもの、偽物なんだよ…。」


「いいや、違う。家族に楽をさせようって、そう頑張る気持ちは偽物なのか?」


「俺が今日しばらく目を覚まさなくて、心配してくれた気持ちは偽物なのか?」


「そ、それは…。でも…!」


「偽物じゃないよな。偽物じゃないんだ。最初は自分のためでも、今のお前はちゃんとそうやって思えてる。人を想えてるんだ。だから、自分を攻めるな。」


スードはビルスの全てを肯定した。自分の為に、というのが始まりでも、ビルスのそれは人の為になり、本物になっていくのだ。


「お前が自分を攻めたら、俺だけじゃ無くてレフィリカも、みんなも悲しむぜ?嫌だろ?だから、ビルスはそのままでいいんだ。」


「うっ…、ぐすっ。うん。ごめん。ありがとう。」


鼻を啜りながら、涙を流すビルスはどこか救われたような顔をしていた。


そんなビルスの顔を見て、スードは自分に失望する。


何故なら、全くもって同じ悩みとは言えないが、似たようなものを抱えたビルスの心が晴れたことに、スードは嫉妬のようなドス黒い感情を感じてしまったのだったから。









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