第12話 醜い心
夢を見た。
街に魔族と魔物が進行し、人々は逃げ惑い、蹂躙される。街は焼け、建物は壊れ、そこに生き残った人間は1人もいない。
スードはただ1人、その中心で立ち尽くしていた。
その顔は、泣いていたのか、凶悪に笑っていたのか、はたまたなにも感じ取れない無の表情だったのか。
最後までそれを知る事はなく、目覚めの時を迎える。
◇
「……ぁ」
ゆっくりと瞼を開き、久しぶりの明かるさにゆっくりと目を慣らしていく。喉が渇きを訴え、全身が痛む身体を起こそうとし、掠れた声が漏れた。
自分が今身体を預けているのはベッドだろうか。ゆっくりと手をつき、身体を起こした。
「あ!スード!スードが起きた!」
真横で可愛らしい声が聞こえ、ゾロゾロと周りに人が集まってくる。
「おはようスード。」
そして先にそう言ったのは茶髪の青年、ビルスだ。
「しばらく起きないから心配したよ。大丈夫?」
心配する声を聞き、「あぁ、大丈夫みたいだ。」と時計を確認すると、時刻は10時半。6時間ほど気を失ってたみたいだ。
「みんな、もしかして待っててくれたのか?」
部屋を見渡せば、同期のみんなが集まっていて。
「ドーラはまぁ、いないか。」
相変わらずのドーラはいなかったが、それでもみんな俺の目覚めを待ってくれていた。なんて優しい奴らだ。
「そうだよ。みんな心配してたんだよ!2人ともあんな威力でぶつかって、目を覚さないんだから!」
少し目に涙を浮かべながらレフィリカはそう言った。
「みんなありがとう。すげぇ嬉しい。あと、心配かけて本当にごめん。」
その謝罪には、心配をかけたことだけじゃない。自分は魔族で、皆を騙しているという事も含まれていた。
そんな自分に心配される価値はあるのかと、ものすごく申し訳ない気持ちになる。
「それで、試合の結果ってどうなったの?あとセルは大丈夫なのか?」
あれだけの火力がぶつかったのだ。セルは大丈夫なのだろうか?とスードは心配すると、
「試合は引き分けだ。悔しい事にな。この受け継がれた力を持ってしても、君には勝てなかった。」
ふと、声をする方を見ると、横には同じくベッドに座り、握った拳を見ながら悔しそうにそう答えたセルがいた。
「そう、か。それにしてもお前のあの魔法、反則だろ。」
あの火力を直に受けたスードは率直にそう思う。
「黙れ。あの力がありながら君に勝てなかった自分が情け無い。」
そう暗い表情をしながら、セルは続けた。
「君たちの事は、嫌いだ。だが、実力は本物だった。それは、認める。」
ここに来て、初めて面と向かってまともに喋ってくれたセルにレフィリカは「ふふっ」と笑い、
「さっ、お腹空いたしみんなでご飯早くたべよ!」
「え、もしかしてご飯も食べずにみんなずっとここにいてくれたのか!?」
あまりにびっくりして、声が大きくなってしまった。
「え、あ!お風呂はちゃんと入ったよ!?」
汚いと思われるのは乙女心的に嫌なのか、レフィリカは必死に風呂に入ったアピールをする。
そんなレフィリカを見ていると心が安らぐ。さっき見た夢のことはもう忘れていた。
「じゃあ行こ!2人とも!」
そう言い、ぞろぞろとみんな部屋を出ていき食堂に向かう。
スードはベッドから降り、暖かい仲間と共に食堂に行こうとするが、
「セル?どうした?行かないのか?」
ベッドから降りようとしないセルに問いかけた。
「私は行かない。1人で食べる。」
そう言ったセルの表情には少し寂しさを感じた。だが今はそっとしておくべきか、と思った矢先、
「何言ってるの!セルもいくよ!」
と、レフィリカはセルの手を握り強引に引っ張る。
「な、やめっ、やめろ!やめろと言って、力強くないか!?」
無理やり引っ張られたセルはベッドから降ろされる。
「分かった。俺も行く。だから手を離せ。」
セルは諦め、レフィリカは「あ、ごめんっ。」と慌てて手を離した。
「無理矢理でごめんね。でも、セルが寂しそうに見えたから…。あと、私セルとも話してみたかったの!だから一緒に行こ!」
納得がいかない、と言った表情のセルは、太陽のように明るく、優しいレフィリカに丸め込まれる。
そして3人で部屋を出る間際、「やっぱり、僕は君達が嫌いだ。」とセルは誰にも聞こえない小さな声で、少し嬉しそうな顔をして呟いたのだった。
◇
飯を食べ終わり、スードは1人で大浴場に向かった。
後ろから足音が聞こえ、振り返るとビルスが居て、「ちょっと話したい事があるから僕も一緒にいい?」と様子を伺うように顔を覗き込んだ。
「1人じゃ寂しかったし、いいぜ。」
そう言って2人は体を洗い、風呂に浸かった。
「あのね、話したいことっていうか、謝りたいことがあって…。」
「なんのことだ?」
目を伏せながら、緊張した様子でビルスは言葉を続けた。
「その…、僕が負けて、スードたちが励ましてくれたでしょ?その時僕、みんなに申し訳ない態度を取っちゃったなって。謝りたくて…。」
「え、うん…。え?それだけ?」
「それだけ!でも、励ましてくれたのにあんな態度取っちゃって、嫌われるんじゃないかって心配で。」
驚いた。あんな態度、と言っても、少し冷たく、こっちに目を合わせなかった程度でこんなにも悩んでいたなんて。
「ビルス…、お前めんどくさいやつだな。」
「えぇっ!そう?ごめん。」
攻めたつもりは言ったわけではないのだが、またしても目を伏せながら謝った。
「ビルス…、お前さ、人の目を気にしすぎなんだよ。お前は本当に優しくて、強いやつなんだから自信もてよ。」
スードは本心からそう思う。みんなを騙し、心配させ、いずれ人を裏切る事になるだろう俺なんかより。
「…スードはいつもそうやって言ってくれるよね。出会った時から、僕は助けてもらってばっかりだ…。」
悔しそうに唇を噛み、ビルスは小さく言葉を続けた。
「本当は僕なんか、そんな価値なんてないのに。」
その言葉を聞いて呆れと少しの苛立ちが生まれる。
「はぁ…。またそんなこと言いやがって、お前は家族想いで、友人を大事にできる。少なくとも俺なんかよりは価値はあるだろ。」
スードが自分を下げたのが失敗だったのか、それをきっかけにビルスは内に溜めていた思いを吐き出した。
「そ、そんな事ない!僕は…僕は、本当は嫌われるのが怖くて、自分に価値がないって言われるのが怖くて、だからこうしてるだけの最低な人間なんだ…!」
拳を握り、自分の醜さを糾弾するように言葉を続けた。
「本当の僕は何も優しくない!醜い性根の腐った奴なんだ…。演じてる、だけなんだよ…。」
気づけばビルスの頬には涙がつたっていた。
そしてその言葉を聞いた瞬間、スードの胸は痛み、自分を恨んだ。
自分に言われた気がしたのだ。演じてると。腐ったやつだと。そして、悲痛な声を出し、自分を糾弾するビルスに胸を痛めたのでは無く、自分に言葉を向けられたのだと錯覚し、胸が痛んだという事実に心底腹が立つ。
でもせめて、ビルスには自分を責めてほしくない。醜い部分を曝け出し、自分を攻めるビルスに、こう言った。
「ビルス、お前はやっぱり優しくて立派なやつだよ。」
「だから…!そんなもの、偽物なんだよ…。」
「いいや、違う。家族に楽をさせようって、そう頑張る気持ちは偽物なのか?」
「俺が今日しばらく目を覚まさなくて、心配してくれた気持ちは偽物なのか?」
「そ、それは…。でも…!」
「偽物じゃないよな。偽物じゃないんだ。最初は自分のためでも、今のお前はちゃんとそうやって思えてる。人を想えてるんだ。だから、自分を攻めるな。」
スードはビルスの全てを肯定した。自分の為に、というのが始まりでも、ビルスのそれは人の為になり、本物になっていくのだ。
「お前が自分を攻めたら、俺だけじゃ無くてレフィリカも、みんなも悲しむぜ?嫌だろ?だから、ビルスはそのままでいいんだ。」
「うっ…、ぐすっ。うん。ごめん。ありがとう。」
鼻を啜りながら、涙を流すビルスはどこか救われたような顔をしていた。
そんなビルスの顔を見て、スードは自分に失望する。
何故なら、全くもって同じ悩みとは言えないが、似たようなものを抱えたビルスの心が晴れたことに、スードは嫉妬のようなドス黒い感情を感じてしまったのだったから。




