第11話 風の一族
お互いに剣先を向け合い、ヒリついた空気が場を支配する。
決勝戦の始まる合図が響き、10数秒が立ったが、2人とも様子を見合い、その場から動かずにいる。
緊張感が漂い、風の音だけが聞こえる中、セルは口を動かした。
「俺は君が、君達3人が嫌いだ。」
「は?」
なぜこの場でそれを言うのか。言うにしても他のタイミングがあるだろと反論したくなったが、セルにとっては戦う前に必要なことなのだろう。
「君達はいつも他人の目を気にし、優しいふりを演じている。お互いのそれが偽物であると知らずに。何故だ?」
「……は?」
思わずさっきと同じ言葉が出てしまった。だが、心境はさっきとは別物だ。
確かに、俺は最初人間を見下しながらも、魔族だと悟られないよう優しい自分を演じてきた。
今まで感じてきた感情も、【再現】したものの経験による錯覚なのかも知れない。
だが、ビルスとレフィリカの優しさを偽物だと言われ、ものすごく腹が立った。
例え俺の全てが偽物だったとしても、この怒りだけは本物だ。
「絶対お前を泣かして、2人に謝らせる。」
そう宣言し、絶対に負けないと決意を固めたスードは先に攻撃を仕掛ける。
疲労の溜まり方は段違いに多いが、少し冷静さを欠いたスードは闘気を全身に纏い、スピードを上げる。
「はあぁぁ!」
型に嵌まらない、実戦に特化した剣撃をセルに見舞う。しかしそれを全て見切り、斜め上からの振り下ろされた剣を防ぎ、刺突を防ぎ、フェイントを入れ蹴り上げた右足をも防ぐ。
「マジで強いな、お前。隙がねぇ。」
「当然だ。底の知れないお前にも負けるつもりはない。」
一言だけ交わした後、再度攻撃を仕掛ける。
今度は攻め方を変え、剣を右手だけで持ち、左手で小規模な炎魔法を放ちながら突撃する。
「小細工を。そんなものは通用しない。」
言い切ったセルは、敢えて自ら前に踏み出し、先に魔法を切りにかかり、スードの対処に動く。だが、
「もう一段上の小細工だ!」
切られ、消滅するはずだった炎は寸前、小規模な爆発を起こし、セルに少しのダメージと隙を作ることに成功する。
「せやぁ!」
「くっ!」
その隙に、右手の木刀を体の回転を使って大きく振り、横腹に直撃。するかと思われたが、当たる直前セルは真横に飛び、剣を差し込む隙間を作った。
だがスードの猛攻はそれで終わらない。横に飛び、最大限ダメージを殺したセルに息をつく暇を与えないよう即座に攻撃を仕掛ける。
着地をする間際のセルに勢いよく剣を投げつけた。それを辛うじて防ぎ、剣は宙を舞う。
だがその隙にスードは既に懐に入り込んでいる。飛ばされた剣の方に誘導するように左の拳で腹を突き、右手で顔面を殴り、回転を入れながら蹴りを喰らわせる。
「ぐっ、がっ、ぐはっ!」
絶え間なく、全く種類の違う多彩な猛攻に対応が遅れ、セルはもろにダメージを喰らった。
気づけば足元には防がれた木刀が落ちてある。スードはそれを拾い上げ、トドメを刺そうとしたその時、フッと風が吹いた。
瞬間、突風がまるでセルを守るかのように囲む形で吹き荒れた。
「うわ!なんだこれ!?」
これ以上近づけないと感じ、スードは一旦距離を取る。
眼前、その光景をみたスードは直感的にマズい、と感じた。突風と砂埃で見えなくなっていたセルは、風の鎧を纏った姿で現れる。
「赤い髪に、風を纏ったその姿、お前『風の一族』だったのか!?でも、『風の一族』ってのは…。」
滅ぼされたはずだ。『風の一族』というのは、昔魔族から国を救った赤い髪が特徴の英雄の一族であった。しかし、その強すぎる力と圧倒的な風魔法を持っていた英雄の一族は国から危険視され、追放され、挙句には滅ぼされたとスーザンから聞いている。
「あぁ、そうだ。だが生き残った方達もいた…。謂れのない事で国を追い出されっ、辺境の地で細々と生きていたのだ!」
そう声を荒げ、目を吊り上げて激昂した。風で揺れるセルの髪の毛の赤が、その時はまるで一族の怒りを怒りを表している様にも見えて。
「だから、だから俺はここに来た!一族の謂れのない汚名を晴らし、皆に知らしめるために!その為には騎士団に入り、トップにならないといけない。負けられないのだ…!」
その覚悟を聞いたスードは先の怒りを忘れ、ただセルを尊敬した。国を救った結果、追い出され、滅ぼされかけ、誇りを踏み躙られた。
だがセルは、『風の一族』は復讐では無く、もう一度国の力になる事を選んだ。自分達の誇りを保ち、示すために。
「そうか…。お前はすごいやつだな、セル。でも、俺も負けられない。」
「黙れ!お前に褒められたところで何も変わらない!絶対に、倒す…!」
セルの纏う風は一層力を増し、触れるものを全て破壊しつくすような勢いをしている。
それに真っ向から向かわなくてはと、覚悟のようなものが芽生えた。
最大限闘気を手に集め、魔力を手に纏わせ一撃に賭ける。
「せやぁぁー!!」
「はあぁぁー!!」
お互いに咆哮し、力と力がぶつかり合う。
世界は色と音を無くし、一点に凝縮された力は瞬間、爆発する。
「「うわぁー!」」
見ていた者にはその衝撃により吹き飛ばされる者もいた。周りの建物のガラスが軒並み割れ、世界が悲鳴をあげる。
そして視界が晴れ、その先には。
バタリと倒れ、辛うじて息はあるが、気を失った2人の姿がそこにはあった。
「勝負あり!両者戦闘不能で引き分け!」
終了の宣言と共に、教官とみんなが2人に駆け寄る。
そうして気を失った2人は医務室に運ばれ、トーナメントは終わりを告げるのであった。




