第16話 「"依り代"」
朝、ひかりたち一行は力也のいる客間に集合した。
昨日たまたま居合わせた草野姫が一夜をともにしてくれたおかげで、ひかりは安全に朝を迎えることができた。力也の傷もひと晩で少し落ち着いてきている。
そして、長の姿を見た瞬間——
全員が固まった。
「……どうしたんですか?その格好」
「なんか……その……趣味の悪い着物に趣味の悪い帯に趣味の悪い手拭い。そんなもの持ってたんですね」
「……長の"変装"シリーズの内の一つ、"ヤクザ"と言うもの……らしいです……」
「ほんっと趣味わるいわよねぇ〜。でも、これのおかげで作戦を実行できるから今日は我慢してねぇ」
草野姫は相変わらずの反応だった。ひかりと蓬生と森樹は引いていた。
一応説明しておくと、この格好は昨日長と草野姫が追いかけた人影と、力也をボコボコにした香香背男を名乗る者の特徴を掛け合わせた衣装だ。仕方ない。
「これで今日外を歩くのか」
長が自分の格好を見下ろした。
「でも昼間にこの格好は逆に見つけられないんじゃないか?目立つし。真っ昼間からこんな格好する裏稼業のやついないと思うけどな」
「そこを突くんじゃない、あなた」
草野姫が考えながら言った。
「自分の組の仲間が昼間からこんな格好してたら焦るでしょ?そしたら連れてかれてぇ、"親分"に消されるかもしれないけどぉ、あたしたちは潜伏先が分かるからぁ、木っ端微塵にできるわよ?」
長の冷や汗が止まらなかった。
現代の刻で朝8時過ぎ。いよいよ作戦を決行する時が来た。
作戦名は——
"大山津見神が変装したら敵に心配されてそのまま潜伏先へ連れてかれた件"大作戦。
ちなみにひかりが考えた。
絶妙にダサいと力也は思った。蓬生は目を輝かせていた。
午前9時。昨日ひかりが誘いを受けた商店の近くで、一行は買い物客を装って散らばった。長はというと、周りから変な目で見られていた。とても冷たい視線で。しかし、ここで引いては敵の潜伏先を見つけられない。踏ん張るしかなかった。
一刻が経った。敵は中々来ない。そもそもこんな格好の人(神)に話しかけようという物好きはいないだろう。
昼になった。ひかりたち一行は食堂に入った。腹が空いては戦はできない。
もちろん長は——
一柱で寂しくおむすびを頬張っていた。さすがにこんな格好の人(神)と一緒にいると、村人から怪しまれる。
一応言っておくが、この神は大山津見神。この村の山の長だ。
午後2時。昼ご飯も食べ終わり、みんなが少し気を抜いていた時だった。
「おい!お前!そんなとこで何してる!」
長が小声で話しかけられた。
「えっ?おれ?」
「しーーっ!小声で話せよ!俺らみたいに他の村人と同じ格好をしろよ!」
「あっ、あぁそうだな。すまない。少し前に入ったばっかでよく分かってなかった」
「とりあえず戻るぞ」
草野姫の予想が的中した。
長が三人の子分と思われる人物たちに連れていかれる。まさか本当に連れてかれるとは、正直誰も思っていなかった。
ひかりたち一行は手分けして追跡した。長は三人とともに村の北の裏路地へ向かっていく。ひかりたちもそちらへ向かう。今のところ順調だ。
ところが——
「おい、お嬢さん、どこへ向かう?」
「!」
背後から声がした。振り返ると、屈強な男が二人、ひかりの肩をがっしりと掴んでいた。
ひかりは一瞬で分かった。こいつら、ただの人ではない。この男たちは親分の"眷属"だ。
「何よ」
「何って、"口封じ"だ」
「やれるもんならやってみろ!」
ひかりは笑った。
そうだ。みんな忘れていると思うが、彼女は"神"だ。相手が"カミ"を名乗る者、そしてその"眷属"なら、正々堂々戦える。
森樹サイド―――
「おいおいあんちゃん。何してる?」
「? 何って、"追跡"だよ。青年」
気がつくと、森樹の周りを三人の子分が囲んでいた。
さすがに忘れていないと思うが、彼もまた"神"だ。相手が人であろうと、カミを名乗る者の子分なら容赦しない。
蓬生・草野姫サイド―――
二柱はなんとか潜伏先にたどり着いていた。建物の外からそっと中を覗く。
長が、親分と思われる者と話し込んでいた。
―――内部。
「お〜い、まさか山の神が直々に来るたぁ〜驚いたぁ〜。しおれたはずだったんだが」
「お前さんとは違って、こちらは頼れる"神々"がいるんでね」
「あっはっはっは〜!おもしれぇ〜!だがな、そんな神々さんは今頃どうなってるんだろうなぁ〜」
「相手が"悪神"、あるいはその"眷属"なら容赦はしないだろう」
「へぇ〜。じゃあ本気かぁ〜」
長が静かに目を細めた。
「お前さん、さっきから気になるんだが、何故そんなに余裕なんだ?」
「なぜ? そりゃ〜そうだろぉ〜」
香香背男がニヤリと笑った。
「"今俺はここにいない"からなぁ〜」
「!?」
「この体は"俺の依り代"になってくれたんだよぉ〜! 俺が離れればこの体は"ただの人間"だぁ。それでもアンタは"俺"を消せるのかぁ?」
長の中で言葉が詰まった。
(くそっ……)
「じゃあ、依り代から出せばいいねぇ」
静かな声が、部屋に響いた。
「あぁん?」
「その人が重傷を負っても、僕なら治せます。荒治療でもなんでも」
香香背男がゆっくりと声のした方を向いた。そこには二柱の神が立っていた。
「アンタらは……少名毘古那神と草祖草野姫神かぁ。こりゃヤベぇ〜やつらも釣れちゃったなぁ〜」
香香背男がまた笑う。
「まとめて"封印"するかぁ〜!」
「やれるもんならやってみろ!」
蓬生と草野姫の声が、重なった。
―――第17話へ続く。




