第15話 「作戦会議」
香香背男―――
それは、長のもとに届いた文の中に書かれていた"天津甕星"の人の世での名だ。もし本当に同一神物であるなら、各地の神々の衰えに加担しているのは間違いない。今ここで押さえなければ、さらに被害は広がるだろう。
しかし、ひかりの中に違和感が残った。
(今ここに天津甕星がいる?なぜ?他の地域はもう壊滅したってこと?こんなラスボスみたいな神は大体最後に登場するはずなのに)
現実問題、香香背男を名乗る者がいる以上、そいつをどうにかしなければならない。
「そういえば」
力也がゆっくりと口を開いた。
「気を失う直前、どっからか人が来た。"親分"って呼んでた気がしたんだが……」
まだ痛みが引いていないのか、力也の声にはわずかに力がない。
「無理しないで!」
「親分ってことは、子分がいるってことか」
蓬生が眉をひそめた。
「じゃあ向こうは結構な人数いるってことじゃん」
「子分がいれば、この村の規模なら一瞬で成金にして人を貪り化できるしな」
「じゃあ、潜伏してる場所を特定しないと制圧は難しいね」
四柱が話し合っていると、障子が開いた。
「お~、目覚めたか。良かった」
長と草野姫が戻ってきた。
「まぁ~!さっきは暗くて分からなかったけど、よく見ると"イケメン"じゃな~い♡ あっそうそう。うちの夫を助けてくれてありがとうねぇ!」
「!!」
どばっ!
「力也ぁ~~~~!!!!」
力也が大量出血した。鼻から。
「あ~あ。もう心配しなくてもいいかな」
「私も正直思った」
力也の好きなタイプはどうやら草野姫みたいな女神らしい。神妻だけど。
「どうしてそんなに出血したかは分からないけれど、気を失ってないから大丈夫ね」
確かに力也は意識を保っていた。ギリ。
「そうだ!草野姫さま!」
ひかりが声を上げた。
「力也がさっき"親分"と呼んでる人がいたって言ってました」
「! それは興味深いねぇ。もう少し正気が戻ってきたら聞こうかねぇ、その話」
それから半刻ほど経ち、力也の顔色もだいぶ戻ってきた。
全員が力也の周りに集まり、草野姫が口を開いた。
「さて、聞かせてもらえるかい?"親分"の話を」
「あぁ」
力也は体勢を整えた。
「気を失う直前だったから、はっきりはしないが……遠くで声がした。その声が"親分"と呼びかけていた。方角は……確か、北の方からだ」
「北ね」
草野姫が静かに繰り返した。
「ちょうどあたしと夫が追いかけた方向と同じね」
草野姫が言った。
「逃げた人影も、北の路地裏の方へ消えていった」
長がうなずいた。
「あの辺りに、入れそうな建物なんてあったか」
「なんにせよ」
草野姫がすっと立ち上がった。
「潜伏場所のある方向は目星がついた。問題はどう動くか、ね」
ひかりは少し考えてから言った。
「正面からぶつかるのは得策じゃない。子分がいる以上、数で押し込まれたら厄介だよ。それに、力也はまだ動ける状態じゃないし」
「おれは動ける」
「動けない!」
ひかりが即座に言い返した。力也は何か言いかけたが、ひかりの目を見て口をつぐんだ。
「そうだよ力也、うずめさんの言う通りだ」
蓬生が続けた。
「そうだ。あなた、"変装"得意よね?」
「ん?あ、うん、まぁ」
草野姫が言う変装というのは、現代で言う"コスプレ"に限りなく近いものだ。
「あなた、ちょっとばかし変装して向こうの潜伏場所へ行ってきなさいよ♡」
草野姫はノリノリだった。長は乗り気ではなかったが、支払いのこともあるのでやるしかない。
「分かった。明日潜伏先を見つけよう」
長はどうにかやる気を起こして声をあげた。
明日、と言ってももう日付は変わっていた。
朝、潜伏先を見つけ、制圧しよう。
村を"もとに戻す"のはそれからだ。
―――第16話へ続く。




