第14話 「"カミ"」
宿の離れ。
力也は、顔と上半身に大量の切り傷を負って、客間に横たわっていた。
「力也!! ねぇ!! 力也!!」
反応がない。
「あーっ!ダメですよ!揺らしちゃ!」
ひかりは無意識に力也の体を揺すっていた。医者が慌てて止めに入る。
「ここにこの男性を運び込んだと通報を受けましてね。私どもが来た時には既に気を失っておりました。傷口は包帯やらなんやらで応急的に止血しまして、傷が深いところは緊急手術という名目で縫い合わせました」
医者の言う通り、力也の体には包帯が巻かれた箇所と、傷口を縫い合わせた箇所がいくつもあった。見ているだけで、胸が痛くなる。
「幸い、心臓付近に傷はなく、内側に傷がつけられた形跡もなさそうなので、あとは彼の生命力にかかっています」
「先生、容態は安定してきました」
看護師は、ひかりたちが来る前からたびたび力也の脈を測っていた。応急措置の前は不規則だった脈が、今は安定した動きになっている。
「まだ一度も目を覚ましておりませんので、くれぐれも体を揺すらないように。傷口が開いてしまいます」
「……はい」
「それではわたくしはこれで。また何かありましたら呼んでください」
「はい、ありがとうございます」
医者は立ち去った。看護師が一人残り、他は医者についていった。
「一体何があったんだ?」
蓬生が力也の顔を見ながら言った。
「田力がここまでやられるってことは、犯人は……」
「"カミ"か"魔"か、どっちかしかないね」
ひかりが静かに言った。神でもない者が、力也にここまでの傷をつけられるはずがない。
そこへ、長と草野姫もやってきた。
「あら、大丈夫なのかしら?措置は済んだの?」
「えぇ、先ほど終わりました。今は経過観察中です」
「これは手酷い……」
長も草野姫も、息を飲んだ。一体誰が、こんなことを。
その時だった。
「いや~っ!! やめてくれ~~~っ!!!」
どさっ。
外から悲鳴が聞こえた。ひかりが駆け出そうとすると、長に止められた。
「おぬしはここにいてあげなさい。ここはおれが見てくる」
「あたしも行くわ」
「かやひめもここに……」
「え?なんだって?あたしが弱いとでも?」
「いえ、そんなことございません。ぜひ、ついてきてください……」
長の声が段々小さくなっていく。これは普段から尻に敷かれているタイプだ。ひかりたちはそう確信した。そして同時に思った。草野姫、実は武道派だったのか、と。
長と草野姫が外へ出ると、男性が一人倒れていた。その近くに人影があり、こちらに気づくなり逃走する。
「おい!待て!」
長が追いかける。草野姫は倒れている男性のそばにしゃがんだ。
「大丈夫!?」
男性を確認すると、草野姫は迷わずその体を担ぎ上げ、宿の離れへと走った。男性を預けると、すぐに踵を返す。
「あなた~!待って~!」
まさかの追いかけ。しかも、ものすごく速い。
長と草野姫は懸命に追ったが、人影は路地の奥へ奥へと消えていき、とうとう撒かれてしまった。
「どこへ行った?……ハァ、ハァ……」
「ふぅ」
草野姫が息を整えながら言った。
「これはしばらく滞在だね」
―――路地裏。怪しげな建物の中。
「親分、裏切った男をシバき倒しました」
「そうか、ご苦労。それで?」
「もうじき死ぬかと」
「その場で仕留めんか!!!!」
バゴンっ。
鈍い音が響いた。
「……」
「おい!お前ら!こいつみたいになりたくなかったら、その場でちゃんと"絞めて"こい……!」
「は、はい!親分!」
―――宿の離れ。
ひかりは力也をずっと呼んでいた。
蓬生と森樹もその場にいた。看護師は、草野姫が担いできた男性の元へ行っていた。
どれくらい時間が経っただろうか―――
(……きや……力也……力也!!)
はっ!
「力也!!!! 起きて!!! ねぇ!!!」
「……っん……あ……」
「! みんな! 力也が目ぇ覚ました!」
「「!!」」
「力也ぁ~~~」
ひかりは号泣した。声を上げて、涙をぼろぼろこぼしながら。
「良かった、田力さん」
森樹が静かに言った。
「人の気を纏っていなかったら、人の医者には助けられなかった」
「あぁ、そうだな……」
力也は何かを思い出しそうな顔をした。が——
「うわぁ~~~~~ん力也ぁ~~~~~良かったぁ~~~~~~!!」
「おいっ、あ痛たたた……!」
「! ごめん!傷まだ治ってなかった?」
「「いや!治るわけないでしょ!!」」
ひかりのド天然発言に、蓬生と森樹が声を揃えてつっこんだ。
「力也、大丈夫なの?」
蓬生が聞く。
「あぁ」
体勢を立て直した力也が、ゆっくりと口を開いた。
「………そうだ。あいつ、自分のことをこう言ってた——」
路地裏で、怪しい人影に首元を掴まれたあの時。
『俺は、富を分け与える"カミ"だぁ!』
「神だぁ!? お前、一体誰だ!」
『俺の名は——"香香背男"だぁ』
「!!」
―――第15話へ続く。




