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八百万ライフ*わたしたちの日常* 第1巻「里山の巻」  作者: 天鈿ひかり(うずめひかり)


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第13話 「"かみさん"」

 夕方、ひかりたち一行は村の宿に泊まることになった。


「中々いい感じのお宿だねぇ」


「確かに、広い」


「一体どこからこれを建てるだけのお金が出てきたんだ……」


 この宿も成金の例外ではなかった。つい昨日完成したばかりの高級旅館だ。玄関の土間は大理石。ホールの天井高はいくつやら——この時代には珍しく、吹き抜けとなっていた。


「金銭をかけた分、とても豪華になっておるな。これは客間や料理も期待できる」

長が支配人に向き直った。

「ところで、こちらは四はし……じゃなくて四人でいくらだ?」


「はい!こちら四名で"金四両"でございます!……グヘヘ」


「……!!!???」


 長は、自分の目が飛び出たかと思うくらい驚いた。声も出なかった。金一両は現代換算でおよそ10万円。つまり四両は40万円...。


「……おぬしたち、他へ行こうか……」


 長はやつれた顔でひかりたちを振り返った。が、彼女たちはすでに豪勢な接客を受けていた。


「見てくださいこれ!めちゃくちゃおいしい!」


「大山さーん!このお茶、すっっっごく美味!」


「長、この酒、めちゃくちゃ旨いっす!」


「あっ……終わった……」


「ね……!お連れの方々はもうおくつろぎなされていますし、泊まりますよね?……ちなみにあちらは"別料金"でございます!……グヘ」


「あーもうはい。泊まります泊まります」


 やけくそだった。


「あぁ、今月のお小遣いすっからかんだ……。なんなら"かみさん"から借銭だ……終わった……」


 長から色が抜けていた。神気ではない何かが干からびていた。


―――客間。


 ひかりは当然別室にしたい…ところだったが、昼間の商店での出来事があったので一柱にするのは心配だ。結局、ひかりの客間に全員集まって今日の成果と明日の予定を話し合うことになった。


「今日あったことだけど、まずは僕から」

蓬生が口を開いた。

「大山さんと井戸端まで同行したんだけど、大山さんは主婦の集まりで村人の様子がおかしい原因を聞いてた。主婦たちによれば、"かがせお"という男が何かを吹き込んでたみたい。で、僕の方は生えてた雑草を調べてみた。この村に生えてるのは"オオバコ"っていう種類の草で、生のままとか、煎じたものを生薬にできる草だった」


「その生薬は、山と森の復活に使えそう?」


「まだ分からないけど、生命力が高いから植えれば比較的早く増えると思う」


「じゃあその草を山に植えてみるか?」


「でも木じゃないから、復活に直接繋がるわけじゃない」


「そうか……」


 森樹が少し間を置いてから続けた。


「私たちは、よく行く商店に行ってきた。仲のいい主人がいるんだが、今日は様子が変だった」


「どんな感じ?」


「下心丸出しのくそじじいになってた。うずめさんに夜の誘い出しをしてたから慌てて離れたよ」


「まじか」


「いやー、純金の招き猫くれるって言うから……」


「あーそれすぐついてっちゃうやつだ。すぐ離れたのはいい判断だよ、森樹」


「だよな」


「ところで……」


 蓬生が長の方を見た。長は客間の隅で、色が抜けたような顔をしていた。


「大山さん、どうしたんですか?」


「……あ……いや……すっからかん……」


「すっからかん?」


「手持ちが……すっからかん」


 そりゃそうだ。長はさっきの支払いで金四両を払い、しかもひかりたちが受けたサービスは別払いだ。すっからかんで色が抜ける気持ちは、よく分かる。


「おぬしたち……接待……受けたね……?」


「はい!しっかり受けました!」


 長が倒れ込んだ。蓬生と森樹がそっぽを向いた。これでは明日の予定が"お支払い大作戦"になってしまう。


 その時だった。


「あれぇ?何をしてるんだい?"あなた"」


「!」


「……あ、かやひめ。なぜここに?」


「!!」


 ひかりたちは驚いた。


 彼女の名は「草祖草野姫神くさのおやかやのひめのかみ」。長の妻であり、草の女神である。


「なぜって」

草野姫は少し呆れた顔で続けた。

「あたしが三里離れた里へ出張に行ってる間に、あなた炭になっちゃったじゃない。それを治す方法を探しにここへ来てたのよ」


「そうか、おれを治すために来てくれたか。ありがとう。ちょうどいい。かやひめに良い知らせと悪い知らせがある。どちらから聞きたい?」


「じゃあ、良い知らせから」


「おれが復活した」


「そんなん見りゃあ分かるわ」


「そこの三柱と、あともう一柱いるが、その神々に助けてもらった」


「そうなのかい?」

草野姫が柔らかい目をひかりたちに向けた。

「あら、森樹くんじゃない!ありがとうね。それと……」


「あっ、天鈿女命と、こちらは少名毘古那神です」


「あら!あの有名な天鈿女命さんと少名毘古那神さん!うちの夫が世話になったねぇ!本当にありがとう!」


 草野姫が深々と頭を下げた。ひかりはそんなそんなと頭を上げるよう促した。


「……で、悪い知らせは?」


 この場が凍りついた。


「……えぇー、こちらのお宿に、えぇー、金四両支払いました。えぇー、明日も別払いの接待金を支払います……」


「四両ーーーーーーーーっ!!!!?


......分かった」


 ひかりたちはびっくりした。草野姫があっさりしていたからだ。叫んだかと思えば、もうその目は静かに据わっていた。


 草野姫は不敵な笑みを浮かべてひと言。


「ちょいと"痛い目"に合ってもらおうかねぇ。この宿には」


 ひかりたちは思った。この女神様は、怒らせてはいけない、と。


「そう言えば、あと一柱は?」


 ひかりはハッとした。そうだ。力也がまだ来ていない。


「あと一柱、天手力男神がいます」


「力の神かぁ。あー!」


 草野姫が何かを思い出した。


「どうしたんですか?」


「この宿から少し離れた所で、髪を結んだ男性が傷だらけで歩いてたからこの宿の離れに連れて行ったのよ。何か人とは違う気を感じたから、もしかしたら……」


 草野姫が言い終わる前に、ひかりは駆け出していた。蓬生と森樹も続く。




 ―――宿の離れ。


 少し広めの客間に、力也はいた。


 周りには医者と看護師が数名、慌ただしく動いていた。


「力也!!」


「あー、彼女ですか」


「友達です!」


 ……ひかりたちは言葉を失った。


 そこには、顔と上半身に大量の"切り傷"を負った力也が横たわっていた。




―――第14話へ続く。

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