第12話 「"成金"の村」
黒くなった山で大山津見神(長 おさ)を復活させたひかりたちは、麓の村の様子を確かめるべく山を下った。
村に着くと、そこは想像の斜め上をいっていた。
「なんか、賑わってるね」
ひかりが目を丸くした。
「もっとゲンナリしてるかと思った。みんな元気で良かった」
蓬生がほっとした顔をする。
「なんなら普段よりハイになってる」
森樹も困惑気味に村を見渡した。
道行く人々は皆、活気に満ちていた。表情も明るい。だが——力也と長は、どこか浮かない顔をしていた。
「どうしたの?力也」
「……いや、村人が元気なことはいいんだが」
力也が眉をひそめた。
「なんか様子がおかしくねぇかと思ったまでだ」
「あぁ、おれもそう思う」
長が静かに言った。
「少し前までは周りの人や動物にはもちろん、そこら辺に生えてる草までも大事にする村人だったんだが……」
ひかりがふと、近くの村人に目をやった。
「おい邪魔だ!どけ!」
「おらおらおらおら!どけどけ!」
「なんだこの雑草、邪魔や!」
威勢はいい。だが——なんというか、"文句"が多い気がした。
「ん? あの家……」
長が一軒の家を見つめた。
「どうしたんですか?大山津見さま」
「あんなに豪勢な昼飯だったか?」
長は首をかしげた。
「美味しいものを食べることは実に良いことではあるが、なぜ急にあんな豪華になったんだ?」
この時代に宝くじというものは存在しない。
もしこの時代に一気に稼ぐとすれば、金を掘り当てるか、地主と仲良くなるか、あるいは——
裏稼業に手を染める、か。それくらいだ。
「……?」
力也が裏路地を覗き込んだ。その瞬間、怪しい人影と目が合った。人影は何かを感じ取ったのか、その場から駆け出した。
「おい、待て」
「どうしたの?ねぇ力也!?ちょっと」
ひかりが呼び止めるのも構わず、力也は追いかけて行ってしまった。
「んもう!勝手にどっか行かないでよ」
ひかりはキレた。が、もう力也の姿はなかった。ただ、"胸騒ぎ"だけが残った。
「うずめさん、力也っていつもあんな感じなの?」
「そうだよ!」
まだキレてた。
森樹は近くの商店へ顔を出した。ここの主人の様子も、以前とは違っていた。
「あーれ森樹さん、久しぶりだねぇー。ちょっと見てくれよこれ、純金の招き猫」
「あ、あーそうね。す、すごいね。どこで手に入れたの?」
「そりゃあ秘密だよ。ひ・み・つ」
「へぇー、純金の招き猫なんて初めて見ました!綺麗だなぁ」
ひかりが横から割って入った。
「おーそうだろそうだろ!なぁべっぴんさん、これ、もうひと回り小さいのあるからやるよ」
「え!いいんですか!?」
「あぁいいとも。そ・の・か・わ・り……」
「?」
「"夜"、一緒に過ごしてくれないか?」
下心丸見えだった。
「あー!!そうだ急用を思い出した!!主人、もう行くわ!」
森樹が慌てて割って入った。
「なんだよ、もう行くのか。しょうがねぇな。べっぴんさん、またな♡」
「は、はい……」
森樹はひかりの腕を引いて、その場から離れた。純粋すぎるひかりは、放っておけばほいほいついていきそうだった。
「なんかおかしすぎる」
森樹は焦っていた。
「あんな下心丸出しのじじいじゃなかったのに」
「おーい、久能智ー」
長の声が聞こえた。
「長ー!どうしましたか?」
長は少し離れた井戸端で、話し込んでいる主婦たちから情報を集めていたようだった。蓬生は同行がてら、そこら辺に生えている"踏まれた"雑草を調査していた。山や森を復活させるのに何か役立つかもしれないと思ったからだ。
「久能智、なぜ村人の様子がおかしいのか、大体分かったぞ。どうも"成金"になったらしい」
「成金に?」
「そうだ。なんでも一週間ほど前に"かがせお"と名乗る男がやって来て、こんなことを言ったそうだ」
長は聞いてきた話を、そのまま語った。
「『村の者共、金を分け与える!存分に使え!森?知ったこっちゃねぇ!金さえあれば何でもできるぞ!さぁ使え!"欲望のままに"!……ニヤリ』」
「!?」
「それってつまり……」
ひかりの顔色が変わった。
「欲望に飲み込まれて"貪り(むさぼり)"化しちゃってるじゃん!」
「むさぼりって?」
蓬生が首をかしげた。
「貪りとは、周りとの調和が薄れ、私利私欲のためだけに生きる人を言う」
長が静かに説明した。
「神も、"例外ではない"」
「怖いですね……」
蓬生の声が低くなった。
「どうしたらむさぼりから解放されるんでしょうか?」
「"マツリ"を行うことだ」
「?」
――― 一方その頃。
「お前誰だっ、何をするっ」
力也の声が、路地裏に響いた。
「誰って」
薄笑いを浮かべた人影が背後から力也の首元を掴んでいた。
「俺は、富を分け与える"カミ"だ」
ニヤリ。
「俺の名は―――」
「…!」
―――第13話へ続く。




