第11話 「大山津見神」
大山津見神が復活してから、数日が経った。
しかし、ひかりたちはまだ山と森を復活させる手立てを見出だせていなかった。
五柱の頭はほぼパンク状態だった。大山津見神が復活すれば、それに影響されて山も自然と戻るだろうと、内心そう思っていた。が、そんなことはなかった。山は山で、神は神だった。
「どこか別の所から木を移植することはできねぇのか」
力也が言った。
「できないことも無いが」
森樹が答えた。
「木々の精霊が宿った樹木は、引っこ抜いた瞬間に精霊が力を失う。それと同時に木自体も枯れてしまう」
「じゃあ蓬生のいた里はダメだね」
「でも、あそこ以外だと他にあるのは三里離れた村くらいだよ」
ひかりはしばらく考えてから、大山津見神の方を向いた。
「大山津見さま」
「なんだね?」
「木を生成できませんか?」
「できるわけねーだろ!!」
力也がツッこむ。
「ふぁ、ふぁ、ふぁ。さすがにできたらもうしておるわい。面白いことを言うの〜」
「いやいや……」
大山津見神ののほほんとした笑いに、力也は少し呆れた顔をした。
「……そういえば」
森樹がふと言った。
「麓の村は大丈夫なんだろうか」
「確かに」
「これだけここが黒かったら、村ももう壊滅してるのでは?」
「急いで見に行った方がいいんじゃねぇのか?」
「じゃあ大山津見さまは森樹に任せて——」
「いや、わしも行こう」
大山津見神が静かに言った。
「いやいや長、ご無理なさらず……」
「ふぁ、ふぁ、ふぁ。何を言うておる久能智」
「?」
「わしはこれでも山を統べる神の一柱。村へ行くことも容易くできるわい」
そう言ってゆっくりと立ち上がる大山津見神を見て、森樹の何かが切れた。
「いやだから今まで炭だっただろ!無理して倒れてくれても困るんじゃ!」
珍しく、怒鳴った。
「まあまあ、落ち着いて……」
ひかりがなだめる。
「落ち着けるか!」
べしっ。
力也が森樹の後頭部を軽く叩いた。森樹がその場に崩れ落ちる。
「あーすまね。うるさかった」
ひかりと蓬生はあんぐりと口を開けていた。大山津見神は変わらず笑っていた。
ひかりと蓬生は思った。少しは心配したらどう、と。
「長、村に行くってことは人の気を纏うんだろ?」
力也が言った。
「復活してまだ三日くらいだが、もうできるのか?」
蓬生はこっそり思った。
(力也も呼び捨てだし、なんならため口やん)
「聞こえてるぞ」
ひかりが小声で言った。蓬生はびくりとした。なんとか顔の動きは抑えたが、冷や汗がだらだら流れる。心で思っていたことが、囁き声になっていたらしい。
「人の気はもちろん、ちと横に大きくなってしまった図体まで細くできるぞい!」
「へぇー! それは見てみてぇな」
「よし、やってみよう」
次の瞬間、地響きが鳴った。地震が来たかと思うほどの揺れだ。
「前よりも図体がでかくなってしもうた。細くするのにもう少し揺れるが、耐えてくれ」
大山津見神が穏やかに言った。
―――どれくらい経っただろうか。今の刻で十分ほどか。普通に揺れた。既に崩れかけていたお社はほぼ全壊していた。
「さぁ、行こうか」
大山津見神が言った。
「……あら」
どすん。
「屋根が落ちてきたわ!!死ぬわ!!」
力也が思いっきり両手を突き上げ、崩れてきた屋根を支えた。
※一応、神に"死"という概念はない。消えるという概念はある。
「うずめ!蓬生!大丈夫か!?」
「平気平気。蓬生が机の下に押し込んでくれた」
「僕が小さくて良かった」
ひかりと蓬生は机の下で無事だった。その机、強すぎるだろと力也は思った。
力也がふと、大山津見神がいた方を見た。
「……おい、あんた誰だ」
「もしかして、森樹のお父さん?」
「いやー、森樹がお父さんと同居してるなんて話……えーーーっ!!」
目の前に、見知らぬ"神物"が立っていた。
森樹に似た美青年というか——イケオジ、という言葉が一番近い。凛々しく整った顔立ちに、どっしりとした落ち着きがある。山を統べる神の風格が、たった今ようやくその姿に追いついたような、そんな佇まいだった。
しかも、気絶していた森樹もちょうど目を覚ましていた。二柱は、めちゃくちゃ似ていた。
「おれだよ」
大山津見神の一言で、三柱は——
ズッキューーーーーン♡
「どうしたんだ? 君たち」
森樹はもう何度も見ているので別にどうとも思わない。しかし、初めて見る者はこうなる。あの力也でさえ、目の形がハートになるくらいだった。
「さぁ、目の形を戻して。行こうか、村へ」
大山津見神は相変わらず穏やかに笑っていた。
―――麓の村、 その端。
…
……
"?"「……ニヤリ」
―――第12話へ続く。




