六
次の日、奈々世は早朝に目が覚めた。昨日、リビングだと千鶴に教えられた部屋に行ってみるが、誰もいなかった。多分まだ薺も千鶴も寝ているのだろう。起きてしまったから二度寝をする気分にはならないし、かといって特にやることもない。
奈々世は、それならばと、家の外へ出て、ウォームアップをした後、家の前で適当に踊り始めた。
奈々世は、基本的に色んなことに無頓着で、どちらでもいい、好きでも嫌いでもないというようなスタンスを取ることが多く、主体性や希望が薄い。しかし、そんな奈々世にも、とても好きで自分とは切っても切り離せないものがあった。それがダンスだ。
奈々世は、幼少期からヒップホップダンスとジャズダンスを習っている。今はヒップホップを踊りたい気分だったので、静寂の中、フリーに踊る。
ずっと踊って少し汗をかいてきたところで、
「おはよう。こんなところにいたんだ」
という声が聞こえて振り返ると、そこには千鶴が寝巻き姿で立っていた。
「早く目が覚めたから。やることもないし」
「今やってたじゃん。ダンス?」
「まぁ」
「へぇー。そういうの久々に見た気がする。舞みたいなのはあるけど、そういう踊りはこの世界にないんだよね」
「そうなの?」
「いえす。それより、続けてよ、踊り。見たいから」
「いいけど」
上機嫌に見ている千鶴の前で踊っていると、しばらくして今度は薺が家から出てきた。
「うわっ!朝早いな……」
外に二人がいることに気がついていなかったようで、肩をビクッとふるわせて驚く。
「おはよう、なずなん。見てー、奈々世の踊り」
奈々世は止めずに踊り続けるが、それを見て、薺はなんとも形容し難そうな渋い顔をしていた。
「これは……斬新だな……」
「ダンスまで否定されると、さすがに傷つくんですけど」
ファッションセンスを珍妙と言われ、ダンスを渋い顔で斬新と言われ、世界が違うとは言え、割と自信のあることを否定されたので、奈々世は若干傷つきそうになった。と言っても、数時間もすれば忘れるような軽いショックである。
「すまない。否定したつもりはなかったのだが、いささか珍妙だったため……」
「なずなん、それフォローになってないよー」
この日は、結局、千鶴は学校へ行き、薺はツカサビトやさくら関係でやることがあり、家を留守にしていた。奈々世は、家でほとんどの時間を踊って一人過ごした。学校も、前の世界のような娯楽もないのだ。思った通りやることもなく、というか、ダンスと散歩くらいしかやることが本当になかったため、ダンスをして過ごした。昨日、商店街のような場所へ出向いたとはいえ、ここはまだ見知らぬ土地だ。迂闊に出歩くのは危険かもしれないため、家にいた方がいいと思ったのである。
そうして一日、また一日と過ごして、この世界は、元いた世界よりも一日が長いように感じられた。もちろん、娯楽がなく、ただ踊っているだけというのもあるかもしれないが、確実に長いような感覚がしたのだ。ここで一年を過ごしたら、向こうの二、三年くらいあるのではないかと感じるくらいだった。奈々世は、初めに、千鶴が、日にちや時間が少し違うところがあると言っていたのが、なんとなく分かった気がした。
そうして、数日よりも長い期間を過ごした気がするが、数日が経ったある夜、
「奈々世、明日から学校へ行け」
と薺から告げられた。
「え、その話本当だったんだ」
奈々世は、あっけらかんと返事をする。数日経って少し慣れたこともあり、奈々世の薺に対しての敬語は消えた様である。また、薺も、奈々世を呼び捨てにするようになったようだ。おそらく、奈々世が薺よりも歳下だからだろう。
「当たり前だろう。家に何もせずいるより、勉学をしていた方が建設的だ。それに、家に一人にしておくより、学校にいた方が安全だろう。千鶴もいた方が何かと安心だろうから、千鶴と同じ学校にした。先方に話は通してある」
「やったね」
「これが制服だ」
そう言って薺が手渡した制服を、奈々世は受け取る。それは、袴の上下の丈を半分にしたようなデザインの服だった。
「……なんかダサくない?」
「そうか?」
「着慣れちゃえば気にならないよー。明日から一緒に行こうね」
「……うん」
奈々世は、制服のデザインに納得いかず、生返事を返した。




