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春を告げる。  作者: 高安那知
第一部
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三十四

〈和泉目線〉



(すごい……千鶴さん、人型相手に全然負けてない)


 千鶴と人型は、お互い相手に自分の手を当てようとするが、どちらも当たらず、両者譲らない。千鶴は、手の平であやかしの体に触れると、あやかしの体を燃やし消す火を着火させることができる。その火が全身に広がり、あやかしの体が全部その炎に包まれてしまえば、あやかしを祓うことができる。


(頑張れー……!)


 和泉は、心の中で念じながら千鶴の攻撃の様子を見守る。自分にできることがあればいいのだが、何もないので、その場で応援を続ける。しかし、その途中で、千鶴の心臓あたりにあやかしの爪が食い込みかける。


「危ないっ……!!」


 和泉が半歩前へ出たところで、あやかしがこちらへ向かってくる。


「いずみん!!」


 ものすごい速さで自分の目の前まで来て、やられると思って、思わず体を構えるが、あやかしは苦しそうに悶え始めた。


「あ、れ……」


「おりょう!ありがとう」


 千鶴の声に千鶴の方を向くと、涼が首を横に振っていた。その動作は、おそらく「ううん」という言葉を表すものだ。


「この子、奈々世さんを連れていった子だよね」


 どう見ても成人男性のような見た目をしているあやかしだが、涼は"この子"と言う。


「奈々世さんは無事だってこのあやかしは言ってたけど、千鶴さんを襲おうとしたから応戦してるんだ。それより、涼さん、ありがとう」


 涼は、頭を横にふるふると振る。


「……今、ちゃんとあやかしに力使ってるんだな」


 和泉は、涼と目の前で悶えるあやかしを交互に見やった。


「……うん。和泉くん、すー、やり方見つけたから、話聞いてほしい。そうしたら、和泉くんの家族にきっと……もう少しいい暮らしさせられると思う」


 見習いとはいえ、ヨウキョウビトにまわってくる任務の一部をこなしているので、自分たちにも給金は支払われる。加えて、祓う任務の方が支払われる金額は大きい。涼は、和泉の家族の話を聞いて、それを憂慮してはいたので、そのことについても言う。


(祓えるようになったのか……!!)


「……!うん。でも、先にこのあやかしを」


 和泉は言葉を途中で止める。


(でも、このまま涼さんの力で精神の衰弱を待って僕が祓えば早いけど、千鶴さんには手を出すなって言われてる)


 千鶴と約束したことだ。簡単に反故(ほご)にしていいものか悩むと、千鶴が口を開く。


「いずみんにはさっき言ったけど、わたしはこのあやかしを一人で殺りたい。でも、わたし一人じゃまたいずみんを危険に晒すかもしれないから、おりょう、やばそうな時はサポートしてくれる?」


「……このあやかしが幻覚をみて、反省しなかったら……協力する」


 涼は、あやかしに幻覚を見せるのをやめた。


「わたしたちを殺そうとしたこと、反省した?」


「反省するものか。人を殺して何が悪い。あやかしを殺すお前たちに、そんなことを言う道理はないだろう」


 涼は、千鶴と目を合わせて、ゆっくり瞬きをする。千鶴はそれを確認して、またあやかしに攻撃をしかけていく。


「大丈夫か?」


「大丈夫。すーは、ちゃんとできるようになったよ」


「偉いぞ!」


 思わず嬉しくなって笑みがこぼれると、涼は、驚いて目をぱちくりとした。


「……どうしてすーと相方の解消しなかったの?千鶴ちゃんとかえることだってできた」


 ヨウキョウビトの相方は、一応変更することが可能だ。今更ながら、涼はそんなことを聞く。千鶴と二人でいるところを見たからだろうか。


「確かに、涼さんに思うところはたくさんあったよ。でも、涼さんを僕にとって替えが利く存在にしたくなかったし、相方がそういうものだって慣れたくなかったんだ。それに、涼さんが祓えるようになるって信じてたから」


(諦めたら、見張ることも叱ることもしなかったし、相方を辞めてた。でも、涼さんがこのままだと、涼さんはこの先ヨウキョウビトとして生きていくのが大変だって分かってて、そんなことをしたくなかった。稼げるようになりたかったけど、それ以上に涼さんのことが心配だった。それに、相方を替えることはヨウキョウビトの中だとまあまああるけど、相方をいつでも替えが利くと思っちゃったら、この先僕は相方を大事にできなくなるかもしれない。死んでも上手くいかなくても替えればいいと思う人になりたくないし、誠実さのないことをできればしたくない)


「……和泉くんって、勝手な人」


 涼はぽつりとそう言いながら前を向く。いつも、何か言いたそうに不満げな瞳をしていた涼は、和泉の前で初めて穏和な眼差しを浮かべた。


(勝手って何だよ。……でも、今日はいいか)

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