表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
春を告げる。  作者: 高安那知
第一部
PR
33/39

三十三

〈渉目線〉



「杏花ちゃん、俺の目見て」


「?はい」


(……そろそろいいかなー)


「頭の中落ち着いた?」


「はい」


(うん、落ち着いた。良かった)


「杏花ちゃん、リラックスリラックスー。大丈夫だよー」


「ですが……」


「大丈夫」


(テンパってない今なら、気づいてくれるはず)


「そうですね。おかげで、落ち着きました。大丈夫です」


(……思った通り。よかった)


(罰則科されるくらい気にしないし、杏花ちゃんがいなくて一人だったら、人命優先でそっち選んでるだろうけど、今は杏花ちゃんと一緒だから、杏花ちゃんの嫌がる判断はしない。でも、しなきゃいけないことも見つめないとねー)


 渉は、その場の空気を平穏に保ったり、相手の要望を汲んだりする。それは、渉が自分というものを蔑ろにされ続けた過去と、あるものに合わせ続けなくてはいけない過去がそうさせた。所謂(いわゆる)、渉の癖だ。また、過去とは言っても、現在進行形の話でもある。


(これで釣れたらラッキーだなー)


「俺、キミらの主、祓っちゃった」


 渉がそう言うと、白いあやかしたちの空気がガラッと変わった。殺気立っているのが分かる。そして、白いあやかしたちのうち何匹かが飛び上がり、渉の腕に噛みついてきた。腕からダラダラと血が垂れて、あやかしたちの体に赤が付着する。


(うん、これで杏花ちゃんが納得してくれる、攻撃していい理由ができる。攻撃しないで切り抜けるのは面倒そうだから、助かったなー)


「渉君……!」


 心配そうに目を見張る杏花に、渉は笑いかける。


「大丈夫。大儲けだよ」


(足じゃなくて)


 攻撃すれば、あやかしたちに手の内が分かるとは言え、足と明言するのを聞かれない方が、あやかしたちが、渉の力が足でのみ使えると気づきにくくなるだろうと思い、あえて「足じゃなくて」と口にしなかった。

 渉は、足で、二人の周辺のあやかしたちを踏んづけていく。すると、みるみるあやかしたちは消えていく。古賀家の能力は、足で触れたまたは踏んだ体の部位を消滅させられる力だ。触れたり踏んだりするのは、素足ではなくても問題ない。渉が全ての体の部位を踏めば、杏花の力がなくとも、あやかしを祓うところまでできる優れた力である。このあやかしたちは、手足がないので踏むだけで祓えるようだ。

 あやかしたちは、仲間を祓われたことで更に殺気を強める。


「……渉君」


 渉は、相手の要望や空気を読むことが異常に上手い。杏花がどういう判断を好み、どういう判断をするのか、渉には大体把握できている。今、杏花がしようと考えていること、それを自分が噛まれて血が出ているせいで迷っていることも、察することができた。 


「大丈夫大丈夫ー。俺は、"古賀"渉だよー」


「……!そうですね。私は、応援を呼んできます」


(クソみたいな家の名前も、こういう時は役に立つなー)


「ありがとう。よろしくねー」


 杏花がこの場から逃げ切ることができるよう、あやかしたちを踏んづけて、道を開く。このまま杏花と逃げる手もあるが、追いかけられる可能性も、人型とこれが共闘する布陣と当たらなくてはならなくなる可能性もある。ここで排除する方が得策だ。おそらく、杏花も同じ考えだったから、応援を呼ぶという判断をしてくれたのだろう。


(杏花ちゃんを守りながらじゃない方が動きやすいってすぐ理解して、他のできることに回ってくれる。有難いなー)


 杏花をこの場から逃げ切らせると、渉は気合を入れる。


「奈々世さんのことがあるし、さっさと済ませないとねー」


 渉は、襲いくるあやかしたちを両足を上手く使いこなして、足で触れたり踏んだりしていく。そうしていると、時折頭の中に稽古で聞いた声が響く。



『そうじゃない、右だ。もっと素早く!』


『何度言ったら分かる!背後にいる奴に対する足の使い方が間違ってる』


『お前は、古賀家の跡取りという自覚を持って、古賀家の者として、誰より強く優れた者にならなくてはいけない。そんな足の使い方はなってない!』



(あーーうるさいうるさい。こんな時でも出てくるんだねー、お祖父サマは)


「はいはい、ちゃんとやりますよー」


(古賀家の人間以外にやりたいことを見つけるまでは、大人しく人形やっててあげますよ)

読んでくださり、ありがとうございます。

渉についてですが、渉は自己開示を自分からするタイプではなく、また、奈々世や他のクラスメイトたちに、以下の内容を話すことはないと思うので、ここで解説させていただきます。本当は本編で回収したいのですが、渉の性格上難しいと思うのと、今後の展開で渉について深掘りできる機会がおそらくないと思うんですよね。とても悔しいですが、一旦ここに書いておいて、本編で回収できそうであれば、またここは削除しようと思います。渉に興味があります・湧きましたという方は、お付き合いして下さると嬉しいです。読まなくても、本編を読む際に困るといったことはないので、特に興味がない方は、ぜひ他のことに時間を使ってください。

それでは、本題に入ります。渉は、実のところ、ヨウキョウビトになりたくありません。現状自分のやりたいことが見つかっていないので、今は反抗せず、ヨウキョウビトの学校へ通って、見習いをしています。渉がなぜなりたくないのかというと、理由は大きく二つあります。一つ目は、この回で軽く触れましたが、自分を蔑ろにされ、渉自身ではなく、古賀家の跡取り、駒、操り人形として扱われることが我慢ならないからです。渉は、特に祖父からそうされてきていますが、両親にもそういうような教育を受けてきたきらいはあります。そのせいで、他人から理想の"古賀渉"を押し付けられることが大嫌いになりました。二つ目は、家の言いなりになったり、他人にレールを敷かれたりして決められた道を歩くのが嫌だからです。これは渉の元からの気質・性格ですね。束縛が嫌いですし、自由に動けることを好みます。自分のやりたいことが見つかったら、一応ちゃんと家に自分の考えや気持ちを伝えて、反対されたら身をくらませて夢を追うと思います。古賀家がそういう教育なのは、家柄的な問題があります。「〜家の人間として」という教育を受けるのは、家系に誇りがある、つまり強い能力の家の子が多い印象です。杏花もそういう家ではあるので。渉と杏花はヨウキョウビトに対する考え方は全く違いますが、それでも上手くやれてるのは、渉が過去自分を蔑ろにされ続けて、傷つき、その経験を通して他人を想う優しさを身につけたことが大きいです(場の雰囲気を良くしたり他人のニーズをくんだりします)。渉は、千鶴と同じで好奇心旺盛で知識欲も多いです。杏花は千鶴が苦手ですし、渉がのびのび育った姿を想像すると、杏花とは合わなかっただろうと思います。ちなみに、千鶴は考えて出した自分の意見を通す、渉は矛盾や痛いところをつくという点で、周りへのアプローチが違います。渉はそれでも本当に人が嫌がることは言わないし、気も回しますが、千鶴は自分の考えに夢中になって人を無下にするところがあるので、そういう部分にも違いがありますね。杏花や千鶴など関係のないところまで及んで、長々と語ってしまい、申し訳ありません。最後まで読んでくださってありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ