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二十九

〈涼目線〉



「ああ"?人間じゃねぇか。けっけっけっ、なんでこんなところに人間がいるんだぁ?」


 嗤ったあやかしが、うさぎの姿をしたあやかしを喰べながら、いやしく嗤う。

 思わず、嗤ったあやかしに幻を見せる。うさぎの姿をしたあやかしが、嗤ったあやかしの手から解放されて、ぽたりと落ちてきたところを涼は受け止める。


(あ、この子……)


「死にたくな……」


 言葉は最後まで口にされず、あやかしは涼の手から消えてしまった。

 あやかしは、あやかしに喰べられると死んでしまう。そこまで喰べられていなければ、休めば元に戻る。しかし、このあやかしは、やめてと叫んだ後、体の半分を平らげられてしまった。強いあやかしならそれでも持ち堪えるが、このあやかしは弱かったのだろう。簡単に消えてしまった。受け止めた時、涼はなんとなくそれを察したが、頭でわかっていることと、心が追いつくことは別だ。涼の目からは、大きな粒がぶわっと溢れ出る。

 同時に、意識が嗤ったあやかしから逸れてしまい、あやかしにかけていた幻が解ける。小野寺家の幻を見せる能力は、見せることから集中を切らすか、見せるのをやめようと思った時に切れる。どんな幻を見せるかを抽象的でもいいのでイメージする必要もあるし、能力を使い始めた最初のうちはどの相手に使うかにも集中しないと、人間あやかしに関係なく周りにいる者全員にかかってしまう。祓うことを嫌っている涼は、自ずと能力を使う経験も浅くなり、まだ十分に使いこなせていない部分がある。目の前で死んだあやかしのショックと、嗤うあやかしへ能力を使うこと、二つに意識を割くのは難しかった。とはいっても、目の前で起きたことに対する辛酸が大きすぎたのも、原因としては大きい。


「なんだよ、せっかくいいところだったのに邪魔しやがってよぉ。まあ、そいつはそんなウマくなかったからいいけどな、けっけっけっ」


 涼は、あやかしをキッと睨みつける。このあやかしは、先ほどのイノシシのような見た目をしたあやかしとそっくりだ。違うところがあるとすれば、目の色くらいだ。おそらく兄弟か何かなのだろう。


「なんで睨んでくるんだ?お前らが殺してまわってるあやかしを喰ってやってるんだから、感謝されるべきだろぉ?」


 涼は、ゆるせない気持ちになって、更に強く睨みつける。


「けっけっけっ、そんな睨むなよ。取って喰いはしねぇ。人間を喰う趣味はねぇからな。それがあんのは、おれの兄弟と上様だがァ、そのために狩る気力もねぇ。なんせまだこんなにウマそうなのがいるんだからなァ。愉しみが優先だろぉ」


 イノシシに似た見た目のあやかしがそう言って指差した方向を見ると、たくさんのあやかしが手を木に釘で打ちつけられ、拘束されている。


(いやだ)


「うれしいだろぉ、ヨウキョウビト」


(いやだいやだいやだ、うれしくない……!!!うれしい人なんているの?)



『はぁぁ〜……ほんとっに、何なの?何もしないで突っ立ってるだけ。それで祓えるとでも思ってるわけ?小野寺ってだけで、そんなでもヨウキョウビトになれちゃうんだから、本当にムカつく。祓う気ないなら邪魔だから、そこで見てて。あんたがあたしのおかげでいい成績もらえるのが、いっちばんムカつくけどね!』


『やる気がないなら、大人しくしてろ。邪魔だ』



 嫌いなクラスメイトのことを思い出して、あの二人なら有り得るかもと思ってしまい、頭を振る。今は、嫌いな人のことなんて考えたくないし、今じゃなくても考えたくない。


(やめさせなきゃ、助けなきゃ)


 そう思って能力を使おうとした瞬間、涼はハッとして思いとどまる。


(……でも、すーは、この子の家族を見殺しにした)


 先ほど祓われる様子を見ていて、とめなかった自分は、この子を攻撃するより、この子から攻撃されるべき対象のような気がした。


(傷つけられるのはきらいだけど、すーはこの子からしたらゆるせない人。すーも、家族を傷つけられたら、いやな気持ちになる)


 そして、また新たな考えが浮かんでくる。


(この子を、さっき、手の中で消えていったあの子みたいにできるようにするの?すーがこの子にそれをするの?)


「さあて、どれから喰おうかなァ、けっけっけっ」


 イノシシのような見た目のあやかしは、またすぐ別のあやかしを喰べ始めるだろう。それまで時間はない。


「ナニシテル!ハヤクタスケロ!!」


 小さな声で、涼の肩に乗っている岡先生が使役しているあやかしがそう言うが、考えることに必死な涼の耳には届かない。


(すーは……)


 涼は、頭と心で揺れ動くものに向き合いながら、ぎゅっと目を瞑った。

読んでくださり、ありがとうございます。

作品の方向性を変えたつもりはありませんが、最近はグロい描写が急に増えて、驚かせてしまっていたら申し訳ございません。

話題は変わりまして、『』の台詞ですが、現時点でまだ登場していないクラスメイトたちの言葉となります。任務でずっと不在のクラスメイトたちの内の二人です(遠くないうちに登場します)。涼は、彼ら二人が嫌いですが、彼らも涼に良い印象はないと思います。表面上上手くやっている人たちが多いですが、このクラスは、仲良くない組み合わせばかりなんですよね。ちなみに、彼らなら喜ぶかもと涼は思っていましたが、喜ぶことはないですね。読者様にバイアスがかかってほしくないので、弁明しておきます。彼らの場合は、先に人型を祓ってから、戻ってきてこのあやかしを祓うかと思います。しなくてはいけないことを弁えているタイプなので、あやかしのためにも動いてはくれますが、任務遂行(人型を倒すこと)を第一優先で動くと思います。あと、前者のクラスメイトは、小野寺ってだけでと言っていましたが、小野寺は弱いあやかしと喋れる点で重宝されるので、涼はこのままでも一応ヨウキョウビトにはなれるとは思います(なってから苦労が絶えないでしょうが)。

それから、補足し忘れていたのですが、涼は、傷つけたり傷つけられたりするのが嫌いという価値観があるにも関わらず、この前の任務では、トラウマの幻覚を見せる場面がありましたよね。涼にとって、トラウマはぎょっとさせる・肝を冷やすみたいなイメージで、傷つけるではなかったのだと思います。

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