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二十二

 翌朝、薺と共に家を出た。学校は、体調を崩したので休むということにするらしい。所謂(いわゆる)仮病による欠席だ。薺は、嘘は好きではないらしいが、奈々世を学校に入れる時点で隠し事はしているため、仕方ないと割り切ったようなことを話していた。

 薺と一緒に商店街の方へ続く道を歩いていくが、商店街へは入らず、ただまっすぐ歩く。しばらく歩くと、海が見えてきた。砂浜と道の境界線のところに、小さな屋根のついた座る場所がある。そこへ座って少しすると、電車がやってきて、「乗るぞ」と言われたので、言われるがままそれに従う。千鶴に出る前に言われたのだが、この世界の交通手段は歩きか路面電車しかないらしい。しかも、路面電車はかなりとろいため、電車と言ってもほぼバスのようなもので、移動速度も車並みらしい。千鶴の言った通りゆっくり進む電車に、薺と共に揺られているうちに、奈々世は疲れで眠ってしまった。

 目的地に着く頃、薺に起こされ、奈々世は目を覚ました。目的地で運転手に二人分の料金を払って電車を降りた薺に続いて、奈々世も電車を降りる。


「奈々世、見てみろ。これが水鳥宮神社だ」


 薺がくいっと顎を動かして示した方向を見ると、長い舗装された灰色の一本の道の手前と奥の方に、鳥居に似た門が見えた。その門は澄んだ翠緑色をしていて、豪勢な飾りで装飾されている。その門の存在感と美しさから、この道がとても神聖な場所に続くような道に見えた。


「この神社の中に、毎年稽古を行っている場所がある。少々歩くが、問題ないか?」


「うん、大丈夫。電車で少し寝れたし」


「では、行くぞ。ここに足を踏み入れた瞬間から、私は、貴方を奈々世ではなく、さくら様として扱う。いいな」


 奈々世が気を引き締めて頷くと、薺は奈々世の後方へ回った。「私は、さくら様の前は歩かない。奈々世が先に行け」と言われたので、奈々世は足を踏み入れて、手前の門をくぐった。こういう場所で、さくらは真ん中を堂々と歩くような人ではなく、慎ましやかに端の方を歩くらしいので、言われた姿勢や所作を意識ながら端を歩く。後ろにいる薺の反応が気になったが、特に何も言ってこないということは問題ないのだろうと思い、そのまま歩き続ける。たまに、「左へお曲りください」などと後ろから歩くべき道の指示が小声で出された。しかし、普段の薺とは声色や喋り方が違うので、奈々世は落ち着かない気持ちになったし、たまに笑いそうにさえなった。

 そしてなんとか無事に舞の稽古を行う建物に着いた。


「さくら様、お入り下さい」


 薺が建物の戸を開けてくれたので、「ありがとうございます」とつくった高い声で礼を言い、中へ入った。中へ入って、玄関の端に靴を揃えていると、とたとたと足音が聞こえる。靴を揃え終えて、玄関の方から中の方へ向き直ると、可愛らしい笑顔の女の子が近づいてきた。


「さくらさん、久しぶりやなぁ。体調はどや?」


(薺さんから聞いた見た目の情報とも合うし、多分、加藤(かとう)佐々芽(ささめ)さん……ツカサビトの中ではさくらさんとは一番仲がいい子。……可憐な子だな……佐々芽ちゃんって呼びたい)


「まだ具合良うないの……?」


 奈々世が思わずほうけてしまったので、佐々芽は心配そうに奈々世の顔を覗き込んだ。


(やばい、ぼーっとしてしまった)


「はい、まだ万全ではないんですが、毎年出させていただいている水鳥宮神社さんの申し出を断るわけにはいけませんから」


 奈々世は、普段あまり動かさない口角をずっと上向きにしながら喋った。自分の笑顔が引きつったり、ぎこちなくなったりしていないか心配だったし、さくらとしておかしくない振る舞いが今できているのかも心配だった。所作や動き方については、あまり問題ないという自負があったが、喋りにはそこまで自信はなかった。


「そうなんやなぁ……無理せんといてな」


 佐々芽はさくらの身を案じるように眉を寄せたので、今のところバレてしまうような気配はなさそうだ。


「はい、ありがとうございます」


「薺さんもお久しぶりです」


 頭を下げた佐々芽に、「加藤様、お久しぶりです」と薺も頭を下げた。

 そして、三人で稽古を受ける部屋へ向かい、部屋で舞の稽古を受ける。

 薺ともう一人おじいさんが後方に控えた状態で、中年の女性が奈々世と佐々芽に今回踊る舞の振りについて指導をしてくれた。休憩も挟みつつ、長らく稽古をつけてもらった。中年の女性が帰宅した後、佐々芽と少し練習をしていこうという話になったので、一緒に自主練習をする。いると落ち着かないので、薺とおじいさんには離席してもらい、佐々芽と二人きりの練習となった。


「こうして、こうして……ええと、ここは……?」


「そこは、こうです」


 練習を始めて早々、佐々芽が振りの細部がどうだったか思い出せず、困っていたようなので、その振りを踊ってみせた。奈々世が振り入れを終えるのには、今日の稽古だけで十分だった。つまり、振りはもう全て奈々世の頭の中に入っていた。


「……!おおきに」


 佐々芽は、ゆっくり笑みをつくりながらお礼を言って、その動きを真似した。

 その後も、二人で振りを確認したり、一緒にやる動きを合わせたりして、自主練習をした。

加藤佐々芽は、奈良弁で喋るという設定があったので、標準語から奈良弁に言葉を変換できるウェブサイトを使用して台詞を書いています。おかしな点がありましたら、ご指摘いただけますと幸いです。そして補足で、奈良弁の文面だとはきはき喋るように思われる方もいると存じますが、佐々芽は、はきはき喋るというよりは、おっとりしていて柔らかい話し方をします。

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