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二十

 佐々芽と解散して薺と帰る頃には、あたりはすっかり暗くなっていた。

 奈々世は、薺と電車に乗ると、やっと気が抜け、思わずため息が出た。


「奈々世、疲れたのか」


「まぁ、さくらさん演じてたからそれなりに。ていうか、自分、さくらさん上手くやれてた?」


「私が見る限りは特に問題はなかったと思いま、思うが」


(今「思います」って言いかけた)


「薺さんも疲れた?」


何故(なぜ)?」


「え、切り替えられてなさそうだったから」


「疲れてはいないが、その格好をしていると、奈々世はさくら様にしか見えないからな……つい口調がさくら様と接する時と同様になってしまう」


「なるほど」


 そんなに似ているのかと思いながら、奈々世はかつらの髪を撫でた。千鶴に、「さくらんにサプライズするために、前調達したんだよねー」と手渡されたかつらだ。装着しているが、自分の髪の毛よりも色も毛質も薄く、ふとした時見ると慣れなかった。


「あ、そういえば、薺さんと一緒に舞を見てたおじいさんって……」


「ああ、あの方は加藤様の補佐役だ」


「補佐役?」


「未成年のツカサビトには、業務を補佐する者がつくのだ。私がさくら様の補佐役なようにな」


「さくらさんは、今17歳だったよね」


「そうだ。奈々世のいたところではどうだったか知らないが、ここでは18歳未満が未成年だ。世の中では、15歳から成人ように扱われるがな」


「そうなんだ」


(ってことは、こっちの世界だと、もう自分は成人として扱われるような歳なんだ。知りたくなかったかも)


「それより、奈々世、舞の方は問題なさそうか?」


「振りは覚えられたけど、まだまだかな。自分がいつも踊ってるのとは違うから難しいところもあるし、指先の動きはもっと綺麗に見せたいし」


「踊りの話をしている時は、随分と良い顔をするんだな」


「え、そう?」


「ああ。奈々世の舞が楽しみになる」


「薺さんも、優しいよね」


(千鶴は異世界から来て色々あったから、自分を気にかけてくれるっていうのは分かるけど、薺さんはよく分からない)


「今のどこにそう思う要素があったんだ」


 薺は、呆れたように眉を寄せた。


「えっと、自分が楽しそうだと楽しみになってくれるとか、異世界から来た自分の面倒見てくれるとか」


「人が張り切って準備しようとしていることに、関心を向けるのは当然の事だ。奈々世の面倒を見ているのは、昔の後悔を教訓としている部分もあるが、それが人として正しい行動だと思っているからだ。私は、優しいのではなく、正しくあろうとしているだけだ。優しいといった言葉は、贈られるのにふさわしい者が他にいる」


「そうなの?」


「そうだ」


「さくらさんとか?」


「いや、さくら様は優しいのではない」


「え、優しくないの?」


 異世界で困っていた千鶴に手を差し伸べたことや、昨日から寝ずに叩き込まれた性格から考えても、さくらは非常に優しくて清らかな人だと思っていたので、奈々世は驚いて思わず身を乗り出す。


「会えば分かるだろう。それか、演じているうちにな」


 薺は、千鶴のように何でもかんでも話すわけではなく、答えは自分で見つけろと言わんばかりに小さく笑った。

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