二
一体どれほど視界がまばゆい白の光で包まれていたのだろうか。一日くらいだったような気もするし、ほんの一瞬の出来事だった気も、はたまたもっと長い月日を過ぎたような気も、奈々世にはしていた。ただ奈々世に今明確に分かることは、
「ここ、どこ……」
自分が見知らぬ場所に今いるということである。後ろを見ると長い石の階段、前を見ると奥手に古く威厳のありそうな建物がある。奈々世がそんなふうに周りの様子をぼんやり観察しながら、座り込んでいると、建物の方からホウキを持った女の子がこちらの方に歩いてくる。彼女は奈々世を視界に入れると、じーっと目を合わせてきた。
「あー……」
と彼女は呟きながらも、目を逸らすことはない。そのため、奈々世も目を逸らすタイミングが分からなくなり、そのまま二人でお互いをぼーっと見つめ合う。
そうしているうちにほんの少し時が経つと、後ろから別の人物が走ってきた。彼は、奈々世を視界に入れるなり、ものすごい勢いで近づいて、
「さくら様……!?ご無事でいらっしゃったんですね……!」
まるで何年も探していていた大事な宝物を見つけたように、顔を綻ばせ、うっすらとした潤みと柔い愛情を含んだ瞳で、奈々世を見つめた。
「よく見ろー、さくらんじゃないって」
「貴様、さくら様をそのような珍妙なあだ名で呼ぶなと何度言えば……!」
「あなた、名前は?」
「河上奈々世……」
「ほら、さくらんはこんな嘘つかないでしょ」
「じゃあ、この方は一体……」
「わたしみたいなもんじゃない?」
「貴様みたいな事例がそう何度もあってたまるか!!」
「ま、そうだよね。あなた出身は?どこから来たの?」
「あ、愛知」
「はい、ビンゴ」
「まさか……同郷だったのか……?」
「いえーす」
「はぁぁぁあ"あ"あ"……」
「でっかいため息だね」
「うるさい。とりあえず中に入れ。千鶴と、そこの貴方も__」
「さくらんに見た目似てるからって態度が丁寧なのおもしろーい」
「しばくぞ」
と、後から来た男の人に鋭い眼光を向けられ、怒られた女の子はあっけらかんとした様子で「わは~」と軽く笑う。その後、彼女は、奈々世の方に向き直り、
「奈々世、ついてきて。あ、アイス懐かし」
と、物珍しそうに、溶けて奈々世の手に液体として残ったアイスの残骸と、手の中に収まっている木の棒を見る。
「ハズレですなー」
「ハズレもなにも、そういうのないやつだから」
と言葉を返しながら、奈々世は、やっと立ち上がる。ここがどこかも分からないし、携帯も持っていない。こんな状況なら、とりあえず彼女たちについて行こうと考えたからである。
「あれ?そうなんだー。そういえば、年いくつなの?」
「あー、15?高ー」
「じゃあ、同い年かも。多分今16で、高一なはず……」
「多分?」
「ここ、日本とか地球とかじゃないんだよね。異世界、みたいな?日にちとか、時間とか、ちょっと違うところあるから"多分"」
「ふーん?」
「あれ?意外と驚かないんだね。わたしが変なこと言ってるとか思わないの?」
「もう散々変なもの見たし体験したし、こうなったら受け入れるしかないかなって」
奈々世は、自分が非現実的な事態に陥ってしまっていることはなんとなく理解していたが、先ほどの彼女の言葉で、"別の世界に飛ばされた"ということが判明した。本当は夢であってほしいが、現実で自分の身に起こってしまっているので、一連の不思議な出来事たち、そして現在を、奈々世は受け入れる他なかった。
「おぉ、肝が据わってる。人間は適応する生き物であることを体現しているようだ」
「どーも。名前、」
「早見千鶴だよ。千鶴でいいよー」
「千鶴も変わってるね」
「おぉ、ありがたきお言葉です」
奈々世は、褒めたつもりはなかったのだが、千鶴にとっては褒め言葉だったらしい。変と言われたことに対して、自分にとって最上級の言葉をもらったかのように嬉々としていた。
建物の方へ歩く道中、千鶴は奈々世に途切れることなく質問を続けた。そして、建物の手前に来ると、その横にあった脇道を進んだ。そこでも、千鶴の質問がやむことはなかった。




