一
今日は、からりとした晴天。室内でもうざったいほど強い紫外線を感じる。クーラーの温度をかなり下げないと、やっていられない暑さだ。とは言っても、奈々世はクーラーのキンキンと冷える感覚が苦手なので、実際には設定温度を下げない。
そんなわずかな暑さと人工的な冷気の漂う部屋の中でゴロゴロしていた奈々世だが、ゆっくりと立ち上がる。わずかな湿り気はあったもののほとんど乾いていた口が、清涼感をもの欲したからだ。そうして奈々世は冷蔵庫の前まで行くと、一番下のくぼみに手をつけて冷凍室を開ける。
(バニラ、チョコ、抹茶……ないじゃん、ソーダ)
うだるような暑さの外になど毛頭出たくなかったが、仕方ないと、奈々世は重い腰をあげてコンビニへ向かった。
いつものように住宅街を進み、ちょっとした大通りに出て、途中で脇道に入り、路地裏を歩く。そうやってコンビニへの近道を進む。
コンビニに着いて店内に入ると、やはりクーラーのせいでキンキンと冷えていた。早くこの気持ち悪い空間を後にしたかったので、他のコーナーに寄り道はせずにアイスのコーナーへ真っ先に向かい、目当てのアイスを購入する。無事買えたソーダ味のアイスを齧りながら、外へ出る。路地裏を通りすぎ、今度は脇道を歩くが、異常な暑さだ。アイスも既にドロドロと溶け出していた。
「あつ……」
奈々世は小さな文句を気だるげにこぼして、もう一ロアイスを頬張る。すると、頬に冷たい感覚がした。ぽたりぽたりとそれは少しずつ垂れ、すぐザアアッと降り出す__天気雨だ。
(うわ、最悪)
奈々世が顔を歪めた瞬間、信じられない光景が目に飛び込む。
白無垢をまとう者と羽織袴をまとう者が両隣で並び、その後ろにも多くの者が並んで、列を成して歩いている。だがしかし、列を作る彼らは人間ではなく、狐だ。所謂、狐の嫁入りという現象だ。多分暑さに脳がやられて、そんな幻覚でも見たのだろう、奈々世はそう思った。
しかし、瞬きをした次の瞬間、先ほどまで遠くで眺めていた白無垢が目の前に見える。奈々世の手は赤い番傘を持っていて、前にいる白無垢をまとう者に傘を差しており、その手を動かすことはできない。足も勝手に、一定のテンポで前へ歩みを進めていく。自分の体なのに、自分でコントロールすることができなくなってしまっている。
奈々世が何が何だかよく分からず混乱していると、隣の人物がその目に留まる。薄い金色の髪や自身の着物が濡れることに不快感も見せず、ただ前の羽織袴をまとう者に番傘を差している。他の者は狐なのに、彼と自分だけは人間なようだ。彼は奈々世の視線に気が付いたのか、こちらを向いて、にこりと微笑んだ。
「サプラーイズ。こういうのは形から入る方がいいかなと思って、ちょっとやってみたんだ。こんな感じであってるのかな?"狐の嫁入り"って……」
と話しかけられる。その言葉に、奈々世は話そうと口を開くが、音にはならない。どうやら、喋ることもできないようだ。
「あぁ……ごめんね。こんな真似したくなかったんだけど、まだ時間が必要なんだ。キミを代わりにすることを赦さなくていいから、どうか__」
地面に侵食していく雨のように、じわじわと、彼は最初の笑顔を切なげに歪めていく。その笑顔を最後に、奈々世の視界は真っ白な光に包まれた。




