黒騎士
「…後は…起動実験だけか」
以前にソルが起動させて意識を失った新型機を見上げて博士は呟く。
カーク達が持ち帰ったドラゴンストーンを装甲材質に組み込み、新型機は更に強化されていた。
ドラゴンストーンは硬度に優れているわけでも、魔力を秘めているわけでもない…これだけでは使い物にならない代物だが、オリジナルの魔硝石の魔力を反応させることによって、組み込んだ鉱石の硬度を変化させる性質がある事を博士は発見していたのである。
「オスカー・ヴァインズ2級魔導騎士…入ります」
魔導人形格納庫の扉が開き、18歳そこそこの若者が博士のもとに歩いてきた。
博士が魔導騎士団のハル団長に頼み、新型機の実験のために連れてこられた若者である。
彼は短期間で魔導人形の基本操作を習得させる為、薬の投薬や魔法によって重度の人体強化を施されていた。
通常、魔導人形の基本操作訓練を終えるには3ヶ月程かかるが…強化された彼は僅か7日で基本操作を完璧に習得した。
魔導人形の操作は操縦席の前に置いてある2個の球体にそれぞれ手を置き、魔導人形の体を自分の体のようにイメージさせて動かす。
操縦者が魔導人形を自在に動かすには、このイメージか重要である。
これは物質を霊的に知覚する事であり、魔導師が魔法を使用する際に行う精霊への呼びかけに似たものであった。
例えるなら…そこらに落ちている木の棒を拾い、それを自分の肉体の一部と認識する事である。
霊的な感覚が鈍い人間族には、急にそのような事を言われても思えるわけがない。
だからこそ、3ヶ月と言う長い訓練期間をかけて、動かす「感覚」を徐々に理解させていくのだが……投薬と魔法によって脳を覚醒させられた彼は、常人の数倍の知覚を得た事により、さほど苦労せず「感覚」を理解し、魔導人形を操る事が出来た。
だが…何の代償も払わずに、そのような能力を得る事など出来ない。
人間の能力を無理やり引き出された彼の体は、
高い代償を払っていた。
アウゼン
「…おはよう。体の方は大丈夫?」
「少し…頭痛がしますが……問題はないと思います」
彼は返答すると新型機に迷い無く乗り込んでいった。
ソルが意識を失った約1ヶ月…基本操作を習得した彼は、毎日のように博士の実験に付き合わされていた。
自分が選ばれた魔導騎士と言う話を信じて…
アウゼン
「…無垢な信頼を利用してまで実験を優先させる人間…か……アタシはロクな死に方しないだろうね…」
「博士?…何か言われましたか?」
アウゼン
「ん?…あぁ…気にしないで。それより起動させてもらっていいかな?」
「…了解です」
魔導人形に火をいれる…魔硝石の魔力が魔導人形に伝わっていく…魔力に反応し機体が白く輝いていた。これは改修した際に塗装が間に合わず、ドラゴンストーンの反応色が強く出た為である。
アウゼン
「どう?……何か変わった事はないかな?」
「…前回乗った時と反応が違います。以前より反応が鋭くなったような………え?これは…」
アウゼン
「……? どうしたの?」
動きを止めた魔導人形にアウゼン博士は問いかけたが返答は無い。
魔導人形は立ち尽くしたまま動かなくなってしまった。
「な……なんだ?……頭が……割れそうだ……これは!?…親父…お袋!?…なんで泣いているんだ?………あれは!…俺の墓…」
「俺は…死んだ事になって…どうして?………え!?……実験の為に…嘘だろ……まさか!」
アウゼン
「共振会話で聞いているでしょ? 一体何があったの? ねぇってば!」
魔導人形同士は魔硝石を共振させて会話をする。博士は複製された魔硝石を持ち、新型機に問いかけていた。
「……黙れっ!!…よくも騙したな!…俺は…使い捨て…ソル・スティングの…ちくしょう!」
オスカーは新型機を操り、憂さ晴らしをするように格納庫に置いてあった量産機を殴りつけていった。
その様子を見た博士は、慌てて魔導人形を緊急停止する魔法を詠唱したが、暴走は止まらなかった。
「…ハァ…ハァ…クソっ! また…頭に映像が流れこんできやがった!…っ!? …これは!?…は…ハハ…嘘だろ…俺が…死ぬ?」
暴れていた新型機は急に止まった。
「そうかよ…散々…利用して…俺を殺すんだな!…ふざけんなよ…お前らが俺を殺そうとするなら…俺がお前らを殺してやる!……そうだ!俺は悪くない!…オレガ…オマえら…ヲ…殺すンダ」
アウゼン
「…どうなって…わっ!」
新型機は胸から魔導砲を次々に放ち、格納庫の壁を吹き飛ばしていく。
純白であった機体色は…白から灰色に変化し…やがて漆黒となった。
「ハハハハハ……そヴだ…もっト破壊すレば…奴がクル…出てコイよ…ソル・スティング! お前ヲ倒して…俺が…コイツの…本当の搭乗員にナルんだ!」
「この…シュヴァルツ・リッター(黒騎士)になぁ!」
格納庫中に大音量の警報が鳴り響く…異常事態が発生した際に鳴動する警報は魔導騎士達の寮にも届く音量であった。
ソル
「第3格納庫…まさか!」
自室にいたソルは部屋から飛び出し格納庫へ向かった。




