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兄弟

ーーー魔導騎士団隊長室ーーー


魔導騎士団の団員には個室が与えられていた。中でも隊長の階級である第1等魔導騎士の個室には魔硝石を利用した生活器具も完備され、街にある高級宿にも見劣りしないものであった。


自室に戻ったソルは綺麗に整頓された机に向かい深く考えこんでいた。


(…夢の中で出てきた青年と俺が、世界を変える役割を持っているとエミリアは言った…はたして俺にそんな力があるのだろうか)


半ば放心状態であったソルは自室の扉をノックする音で我に返る。

扉が開くと上級騎士の衣を着た兄ハート・スティングが部屋に入ってきた。


ハート

「よう!さっきは済まなかったな…お前に嫌な思いをさせてしまって」


ソル

「いや…そんなことは。兄さんの方こそ…大丈夫なのか? 今回の事…議会が黙っていないと思うが」


ハート

「ん? ああ…心配するな。議会も今はそんな事に構ってられんさ…なにせ国を左右する出来事が起きているからな」


兄は部屋の隅にあった椅子に座ると真剣な眼差しでソルを見つめてきた。


ソル

「…?」


ハート

「3日前の事だ…俺も最初に聞いた時は耳を疑ったが…ハイエルフを捕らえたと報告が入った。見た目は若い人間の娘と変わらないそうだが…魔導照合で調べた結果、間違いなく本物だと分かった。捕まえたのは賞金稼ぎの……ええと…なんて名前だったかな?」


ソル

「…賞金稼ぎがハイエルフを?本当なのか!?」


自分達が魔導人形に乗り、互角に戦ったエルフの上級種であるハイエルフを、ただの賞金稼ぎが捕らえた事にソルは驚愕した。

兄はその様子を見ながら諭すように話す。


ハート

「賞金稼ぎと言っても1人じゃない…中隊規模の傭兵団だ。それでも、かなりの損害をだして捕らえたと聞いている。団員はダークエルフだけで構成されていて…隊長と呼ばれる男は(その筋)では有名な奴らしい…俺は知らなかったがな」


ダークエルフ…その言葉を聞いたソルはエミリアに話した凄惨な夢の内容を思い出した。


ソル

「…ダークエルフ…か。それで?……議会はハイエルフを今後どうするつもりなんだ?兄さん」


ハート

「逆に聞こう…お前ならどうする?」


ソル

「……エルフとの交渉材料…だな。捕らえたものを含めれば、世界にハイエルフは3人しかいない。他の2人は大魔大戦に参戦したと言われる程の高齢…エルフにとっても若いハイエルフは自分達を率いる長になって欲しいはずだからな」


ハート

「俺も同じ考えだ…上手く交渉すれば戦争を回避する事も出来るかもしれん。人間との交渉を拒み続けてきたエルフ達も話し合いの席に着かざるをえないだろう…だが…」


兄は憂鬱そうに頭をかきながら話しを続ける。


ハート

「議会はハイエルフの娘を交渉材料としてではなく戦果として大々的に公表するそうだ。エルフや同盟国に向けてな…」


ソル

「何故そんな事を……」


ハート

「エルフに対しては警告…同盟国に対しては自国の優位性を示したいのだろう。こんな下らん議案が議会を通るのも、ラディッシュ議員を中心とする魔導院出身の保守派議員が議会では決定権を握っているからだ」


ハート

「それでも我が父やアウゼン博士の祖父シュタイナー議員は最後まで反対をしていたがな…だが、いくら正しい事を叫ぼうとも議会そのものが腐敗していれば駄目だ。我々、騎士団も戦の事であれば発言することが出来るが…政には口出し出来ん。最終的に決断をする陛下も議会の言いなり…どうにもならんとはこの事だ」


落胆している兄を見てソルも俯いた。


ソル

「魔導騎士が絶対的に足りない。魔導騎士の大半は訓練期間を短縮させた者ばかり…正直、エルフとの戦いについていけるとは思えない。戦争を早めるような今回の議案…本当に議会は自国の状態を理解しているのだろうか…?」


ハーツ

「無論…理解してはいない。議会の連中の大半は机上でしか物事を考えていないからな。魔導人形の事も魔導騎士の数が揃っていれば使い物になるとしか考えていないだろう。そんなものだ…」


ソル

「……」


ハート

「まっ…それでも俺達は無い知恵絞って国を守るしかないわけだ。苦労するな…お互いに…な?」


諦め半分の顔で笑顔を作る兄に、少し笑いながらソルは答えた。


ソル

「…そうだな。兄さん」


ハート

「辛気くさい話しになってすまなかったな。議会が公表するまで、ハイエルフを捕らえた事は他言してはならなかったが…お前には伝えておこうと思ってな。…エルフ達も今回の事を知ったら何らかの行動を起こしてくるだろうからな」


ソル

「……」


ハート

「では…俺は騎士団に戻る。合同の定例会議を抜け出してきたからな…そろそろ戻らんと団長にどやされそうだ…ハハハ」


そういうと兄は椅子から立ち上がり扉に向かった。ソルは椅子に座りながら兄を見送る。


ハート

「そういえば、アウゼン博士がお前の事を心配していたな。会って安心させてやれ…それと…たまには家に帰って父や母に顔を見せてやれ。俺がお前の近況を報告しているんだぞ?」


ソル

「わかった。今度の公休日に帰るよ…色々ありがとう…兄さん」


兄は笑顔で答え部屋から出ていった。


ソル

「戦争か……このままでは」


椅子の背もたれに寄りかかり、ソルは呟いた。


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