神剣と魔硝石
アウゼン
「……あーーもうっ!! やんなっちゃうなぁー!」
不機嫌そうに言い放った博士は山のように積まれた魔導書に囲まれながら、仰向けになっていた。
魔導人形特別研究室…アウゼン博士の個人研究室である。ここには魔導院顔負けの膨大な数の資料が保存されている…ほとんどが魔導関係のものであるが、中には魔導とは関係の無い、博士の趣味である神学や歴史の本も保存されていた。
アウゼン
「あれから1ヶ月…魔硝石の原石を積んだ魔導人形の起動実験を何度やった事か……何であの現象が起きないんだろ……」
博士は独り言を呟きながら天井の片隅をボンヤリと見て溜め息をつく。
ソルが意識を失ってから1ヶ月…ほぼ毎日徹夜で研究していた博士に強烈な眠気が襲った。
アウゼン
「はぁ…疲れたなぁ…ちょっと…寝ようか…な」
目を閉じると体がフワフワと宙に浮かんでいるような奇妙な感覚に襲われた。
慌てて目を開けて周りを見回すと、何もない真っ白な空間が広がっていた。
アウゼン
「な…なにこれ…変な夢…」
真っ白な空間で呆けている博士の背後に、甲冑を着た女が突然現れる。
女は博士の肩を優しく叩いた。
「ようこそ…私の空間へ。可愛い博士さん」
アウゼン
「わわっ! 何だよもう…ビックリするじゃない…えーと…貴女はどちら様で?」
「私が誰なのかは貴女の想像にお任せするわ。私はコレを届けに来ただけよ」
女は手に持った魔硝石を博士に見せた。
アウゼン
「えっ!? コレって…魔硝石? でも…何か違うような。ちょ…ちょっと見せてもらってもいい?」
博士は女から魔硝石を手渡されると、難しい顔をして調べ始めた。
アウゼン
「す…凄い! 凄いよコレ!…複数の魔硝石を合成させるなんて…これはまた…互いに反発する核を一体化させて……なるほどねぇ…ここがこうなって………ねぇ?これをどうやって手に入れ…アレ?」
顔を上げた博士の目の前には誰もいなかった。
アウゼン
「消えちゃった……うーん…でもコレが夢なんて惜しいなぁ。せめて…この…合成ほうほ…う…を」
目が虚ろになった博士は魔硝石を握りしめながら膝をつき倒れる。
アウゼン
「あれ…?なん…で…夢の中…で…眠くな…」
倒れた博士の体を黒い霧が包んだ。
その様子を離れた場所で見ながら甲冑姿の女は呟く。
「ふぅ…これで下準備は済んだわね。もどかしいやり方だけど、少しずつ進めていかなきゃ……あら?」
一息ついた女の背後に、重装備の全身鎧を着た騎士が突然現れた。
「久しぶりだな…ベルサリア。いや…今はモニカと名乗っていたか…」
モニカ
「フェイルノート…相変わらず野暮な人ねぇ。貴方ぐらいよ?私の空間に勝手に入ってくるのは」
フェイルノートと呼ばれた騎士は、両手斧をモニカの背後から首筋に突きつけた。
「貴様…下界で何をやっている。我々が過度に下界に干渉してはならぬ掟は知っているはずだ。お前のような高位な存在が干渉するなど……下界のバランスを…む?」
モニカは両手斧の刃を掴み騎士に優しく答えた。
モニカ
「私は気に入った人間の運命を見たいだけよ。ホラ…私は運命の女神だし…ね」
騎士はモニカが掴んだ両手斧を動かそうとするが、微動だに動かない。
「…貴様が何をしたいのかは分からぬ。だが…我々に害をなすなら容赦はしない。それを忘れるな…」
騎士は両手斧を手離すと、モニカに背を向けて歩き出した。
モニカは両手斧を見つめながら溜め息をつく。
モニカ
「ふぅ…流石に天界も気付いてきたわね。これ以上の直接的な干渉は控えた方がいいかしら……でも最後に」
騎士から奪った両手斧を掲げると斧は形状を変えて剣になった。
「神剣フェイル…とでも名付けようかしらね。この一刀が世界にどんな影響を与えるのかしら?フフ…楽しみね」




