狙撃
ニックが投げた魔光弾は、空中を旋回するドラゴンの近くで弾け飛ぶ。先程と同様の強烈な閃光と音を放つが…ドラゴンは何事も無かったように飛んでいた。
サイフォン
「もう耐性しやがったか………チッ!やっぱ…この手しかねぇか」
零の型を解き、魔導障壁から出てクレイモアを正面に構える。
アリーシャ
「隊長!いったい何を!? 障壁の中に戻ってください!そこにいては…」
サイフォン
「これでいいんだよ…魔光が効かねぇ魔導砲が使えねぇとなると、奴を叩き落とすのは不可能だからな。奴も障壁にはブレスが効かねぇのは分かっている。互いに手詰まりってやつだ。地上に誘い込むには、誰かがオトリにならないとな」
ニック
「では自分が…」
サイフォン
「バカヤロウ…特機を失ったら、俺がアウゼン博士に殺されちまうだろうが。お前らは奴に攻撃する事だけを考えろ」
言葉の直後にドラゴンは急降下をしてきた。後ろ足でサイフォンの魔導人形を攻撃しようとしたのか、翼を広げながら降下するドラゴンに対して、クレイモアの刀身を盾のように構えて防御する。
降下したドラゴンの体重を全て受け止めた魔導人形の両足は、地面にめり込み関節の金属が悲鳴を上げていた…また、クレイモアを支えた両腕には亀裂が入り、刀身ごとドラゴンに押し潰されそうになっていた。
サイフォン
「ぐっ……まだまだぁっ!」
亀裂の入った両腕でクレイモアを押し返すが、メキメキと嫌な音を立てる両腕に押し返す程の力は残されていない。
両腕が折れるのも時間の問題だったが…動きが止まったドラゴンの左目に突如、小刀が刺さる。
刀身が眩く光る小刀はアリーシャによって投げられた物だった。
ドラゴンは悲鳴と共にサイフォンから離れ、地上に降りると首を激しく振りながら暴れ始めた。
ニック
「皆さん!傷の位置の詳細です」
魔導人形の操縦席から見える映像にドラゴンの首の傷の位置が映し出される。
アリーシャは情報を見つつ魔導刀を抜いてドラゴンの懐に飛び込んだ。
暴れるドラゴンの左目の死角から素早く接近し、龍麟が欠けた傷の位置に魔導刀を正確に突く。
龍麟は更に欠けたが致命傷にはならなかった。
アリーシャ
「カーク!後はお前に任せたぞ」
痛みで暴れるドラゴンから離脱するアリーシャ…カークが構える魔導砲からは光が溢れだしていた。
カーク
「…………とらえた! いけぇー!」
叫び声と共に魔導砲から細い光の線が放たれる。光の線はドラゴンの首の傷に当たり、龍麟を砕き肉まで貫いた。
魔導砲から絶え間なく放たれる光の線は、ドラゴンの傷口に深く入り込み傷口の周りの龍麟まで剥がしていく。
カーク
「まずい…ッスね…魔導砲の魔力が…暴走して…まさか……こんなに早く臨界点に…ちくしょう」
砲身の中の魔力は限界に達しようとしていた…高温になった砲身からは煙が出始め、暴走寸前の魔力は魔導砲から魔導人形に逆流し、魔導人形の出力に影響を与えていた。
カーク
「…これ以上は……クソっ!…」
魔導砲を外そうと強制排除しようとしたが、逆流した魔力により魔導人形の操作が上手くいかない…光の線を放ち続ける魔導砲は限界に達した。
カーク
「……っ!! うあぁーー! 」
爆発した魔導砲はカークの魔導人形の右肩と頭を吹き飛ばした。
カークの魔導人形は倒れたまま動かず、死人のように横たわる。
サイフォン
「カーーーク!!! くそったれがぁ!」
サイフォンはドラゴンに振り向きクレイモアを力一杯に叩きつけた。
ドラゴンの首は魔導砲によって傷口の周りの龍麟が剥がれ落ち、皮膚が剥き出しになっていた。剥き出しの皮膚にクレイモアを打ち込み、ドラゴンを地面に薙ぎ倒す…
薙ぎ倒されたドラゴンの首にはクレイモアが食い込んでおり、その絵は断頭台で処刑される罪人のようであった。
サイフォンは首に食い込んだクレイモアを足で踏みつける。
サイフォン
「…くたばれ」
一気に踏み抜くとドラゴンの首はクレイモアによって両断され地面に転がる。
激しい返り血を浴びながらサイフォンの魔導人形は、その場で立ち尽くしていた。
サイフォン
「……あのバカ野郎が…なんで暴発する事を黙ってやがった…クソっ!」
死体となったドラゴンの体を蹴り飛ばしてクレイモアを拾うサイフォンを見ながら、ニックはカークの魔導人形に近づく。
右腕と頭は無く、胴体も爆発の衝撃で黒く焦げていた…ニックは自分の魔導人形の操縦席を開けてカークの魔導人形に飛び乗り、外側から魔導人形の操縦席を強制開放した。
ニック
「あ……カー…むぐっ!!」
カーク
「しーっ! 黙ってください! 今、生きてるのが分かったら隊長に殺されちゃいますよ…ニックさんの魔導人形に乗せてください…ほとぼりが冷めるまで」
ニックの口を塞いで懇願するカーク、その体は傷1つ無かった。
操縦席にも損傷は無く、爆発の被害は装甲表面だけであった。
ニック
「な…何を言ってるんですか!皆、心配していたんですよ。生きているなら何で早く起きてこなかったんですか!」
カーク
「いや…ホラ…暴発の事で嘘をついた手前…どうしよっかって思って…死んだフリをしてようかと」
手で目を覆い溜め息をつくニック…呆れを通り越して目眩を起こしているようだった。
その様子を見ながら照れ笑いをするカークだったが…視界にサイフォンの魔導人形が見えた時、彼の背筋は凍った。
サイフォン
「…テメェ……随分、元気そうだな?」
カーク
「あ…いえ……あの…ハハハ…た…倒せて良かったッスね♪ いやーさすが隊長!おみそれしましたぁ……なーんて…」
サイフォン
「ぶっ殺す!」
静けさを取り戻した山脈にカークの悲鳴と金属を叩く音が鳴り響いた。
ーー魔導院第1研究所・魔硝石精製錬ーー
ソル
「すまない兄さん…無理を言って」
ハート
「これくらい何ともないさ…おっと、この部屋だったな…ハーフエルフの娘がいるのは」
魔力で厳重に封印されている部屋の入口にスティング兄弟は立ち止まった。
兄のハートは封印に向かい、服から複雑な紋章が描かれた板を取り出した。
ソル
「俺の手助けをしたとバレたら…」
ハート
「心配するな…ここの衛兵は俺の息がかかっている奴らばかりだ。この事は秘密にしてもらっている…それより大事な用なんだろ?早く会ってやれ…俺は外にいるからな」
ソル
「ありがとう…兄さん」
一礼し部屋の扉を開けて中に入る。部屋の中は机と椅子…簡素なベッドがあり、待ちかねたようにハーフエルフの娘は椅子に座っていた。
ソル
「…エミリア」




