目覚め
…先程とは正反対の闇の空間にソルは立っていた。周りを見渡しても光はなく深淵の闇が広がっている。
闇の中で立ち尽くすソルの目の前に、少女がフッと現れる。彼女は後ろ向きで座りながら泣いていた。
「……お母さん……起きて…私を1人にしないでよ…」
横たわり動かない体を必死に揺さぶる少女にソルは歩み寄る。
少女が揺さぶる体は下半身が無く、開いた目は一点を見つめていた。
ソル
「……残念だが、君のお母さんは亡くなっている。もう休ませてあげた方がいい…」
遺体の両目を閉じて少女の肩に手を置くソル。
涙を堪えながら下を向き頷く少女…その時に初めて気付いたが、親子共にダークエルフであった。
ソル
「…非道い事をする。一体誰がこんな事を…」
呟いたソルの言葉に少女は下に向きながら笑う。そして、少女はソルに向かって振り向いた…顔の右半分は焼けただれ、瞼が無い眼球はこぼれ落ちそうであった。
「なぜ貴方ガ…ソんナ事を言ヱるの?アナタガやったんジャナイ! お母さんモ…私も…何もシテナイノニ…」
ソル
「…っ!…これは…君は何を言って…」
「自分デやった事も覚えてないノ? …覚えてないノネ。あんなニ嬉しそうにしていたノに…忘れちゃったンダ」
ソル
「何かの間違いだ…俺がそんな事をするはずが…」
少女は焼けただれた右目に憎悪を込めソルを見つめてくる…その視線に耐えきれずに後退りをした。
「返しテよ…オ母さんを…返して!」
顔だけではなく右半身も焼けただれていた少女がソルに襲いかかってきた。
襲いかかる少女を無意識に薙ぎ倒すソル……少女は苦悶の表情をしながら話してきた。
「貴方にハ…闇があるワ…どんなニ隠してモ…無くならない。漆黒の狂気が…。貴方はその闇で皆ヲ殺してシマウの…」
ソル
「…俺の……俺の中に狂気が?」
少女は、ソルを見つめながら闇の中に溶けていく…ソルは闇に溶けていく少女を呆然と見ている事しか出来なかった。
ソル
「この親子を…殺したのは…俺…何故そんな事を」
黒い甲冑姿の女が空間から突然現れると、両膝をついて項垂れるソルに優しく話かけてきた。
「光が強ければ闇も色濃く浮き上がるもの…人間は誰しも心に闇をかかえて生きているわ。受け入れなさい…貴方の光と闇…高潔な精神と漆黒の狂気をね」
ソル
「受け入れる…? 狂気を?…お前は一体」
「私が何者であるかはエミリアちゃんに聞きなさいな…あれだけ注意したのに…まーた、貴方に余計な事を教えるんだから。困った子ねぇ」
ソル
「余計な事? お前は…いったいなにを知っているんだ?」
「私は貴方の運命を知っている…と言えばいいかしらね。そして、この世界で「ある事」を成す為に君達、人間に関わってるのよ。貴方と…もう1人の子にね」
ソル
「ある事…だと? それは一体…」
「それはまだ言えないのよ…ごめんなさいね。さあ…話はこれまでにしましょう。またすぐに会えると思うわ…色男さん」
甲冑姿の女は背を向けて歩いて行き、闇の中に消えていく。
ソ ル
「ま…まて! 話はまだ………っ!…こ…ここは」
上半身を勢いよく起き上がらせて目覚めたソル。身体中に嫌な汗をかき、着ていた服は肌に張り付いていた。
額の汗を拭い周りを見渡すと、驚いた顔の救護兵と実の兄…ハート・スティング の姿があった。
ソル
「に…兄さん? ここは…救護室」
そこは魔導騎士団の救護室のベッドの上だった。




