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特機

ちょっと長めです

団長と博士が密談した翌日

ソル魔導騎士隊はアウゼン博士から開発室の扉の前で待機するように命じられた。


ニック

「カークさん…まだ痛みますか?」


首を押さえて苦悶の表情をするカークに、ニックは心配そうに話しかけた。


カーク

「まだ絞められた首や身体中が痛いッス…」


ニック

「あの時、アリーシャさんが吐かなかったのは良かったですけど…いきなり笑いだしたと思ったら急に暴れ始めましたからね。自分も取り押さえようとしたら、逆に投げられちゃって…1着しかない大事な制服に穴が…」


恥ずかしそうに見せた制服の左肘の部分には、慣れない手付きで縫ったと思われる跡があった。

色の違う生地を使用した為、遠目からでも縫ったものと分かる。


カーク

「こんなことなら最初から衛兵に頼めば良かったッス…暴徒・泥酔者対策の為に投擲用の眠り薬を持っていたとは思わなかったですけど」


ニック

「自分らが薙ぎ倒されたのを見て、すぐに駆けつけてくれてくれましたからね。取り押さえるのも鮮やかだったなぁ。でも、酔って暴れていたのが魔導騎士だと分かった時の彼らの視線が痛かったです…」


カーク

「…魔導騎士はエルフ捜索のために全員出撃している事になっていましたからね。自分らだけ出撃しないで泥酔するほど酒を飲んでいたと知ったら…あーいう反応になりますよ」


2人が落ち込んでいる所にアリーシャがやってきた。

アリーシャは2人と目が合うと視線をそらし、恥ずかしそうに下を向く。

カークとニックはアリーシャに気付くと直立し、敬礼をする…アリーシャも敬礼で返し2人に向かって話した。


アリーシャ

「だ…大体の内容は聞いた。私自身に記憶が無いが…本当に申し訳ないと思っている。その…泥酔した私をおぶってくれたにもかかわらず……あんな事を…」


カーク

「ま…まぁまぁ…済んだ事だし、いいじゃないッスか。ねぇ?ニックさん」


ニック

「え?…ええ。そうですよ。気にしてませんから 」


カーク

「は…はは…そ…そういえば、隊長遅いッスねぇ…何してるんだろ」


カークがソルの事を問いかけると、開発室の扉が開きアウゼン博士が姿を見せた。


アウゼン

「皆さ~ん♪ アタシの極秘開発室へようこそ! 早速、中に入ってちょ~だい」


一同、博士に向かって敬礼し開発室の中に入る。

そこには見たことの無い形の魔導人形が3体並んで立っていた。


カーク

「す…凄い! コレって…新型機ですか!? 」


アウゼン

「ん~…残念だけど…コレは新型機じゃないのよ。いわゆる、特別機って奴かなぁ」


ニック

「特別機?」


博士は眼鏡を外し魔導人形を見ながら話す。


アウゼン

「量産型の魔導人形が完成した後、アタシが作った試作機なんだけどね。近接戦闘特化型・中距離砲撃支援型・長距離索敵支援型の3つ。得意とする距離がそれぞれ違うから、3体揃っての連携で初めて真価が出るんだけどね」



アウゼン

「まず…近接戦闘特化型「スラッシャー」、こいつの最大の特徴は腰に差した2本の魔道刀だね。まぁ…刀と言っても刀身は無いんだけど…戦闘時に柄から魔導砲と同じ光が出て刀身になるのよ。この魔道刀を使用する代償として、魔導砲や魔光球は使えなくなっちゃったけど…魔道刀の火力と機動力で桁違いに戦闘力は上がってるんだ」


アリーシャ

「随分、片寄った設計ですね…これでは少し離れたら全く手出しが出来なくなってしまうのでは?」


その反応を待っていた、とばかりに次の魔導人形を指差す博士。


アウゼン

「その距離を支援砲撃型「ガンナー」がサポートするってワケ。この右肩についている魔道砲による精密砲撃でスラッシャーの射程外の敵を狙い撃つって感じかな。そしてガンナーには、ある最新技術が使われてるんだよね~」


カーク

「最新技術って…何ですか?」


カークの顔をニヤニヤしながら見ながら博士は話した。


アウゼン

「簡単に言うと魔力の結晶化ってやつ。ガンナーの右肩の砲身の中には魔力を封じ込めた結晶が5つ入ってるのよ。これによって魔道砲の出力調整をせずに連続使用が可能になったってわけね。つ・ま・り出力調整に失敗して動けなくなるリスクが無いってこと」


カーク

「へぇ…魔硝石だけじゃなく魔力の結晶化にも成功したんですか。技術は進歩していますね……って!出力調整失敗って自分の事じゃないッスか!」


博士はカークを見てクスクス笑っていた。


アウゼン

「君は魔力の出力調整が下手なんだけど、射撃センスが高いから丁度いい機体じゃないかなぁ? この魔道砲を上手く使いこなせると思うよ。でも、結晶化による利点と不利な点を、ちゃ~んと理解しなきゃダメだよ?」


カーク

「不利な点っすか?」


アウゼン

「まず利点から言うと、結晶化による魔道砲の連続砲撃が可能な事。火薬を使っていないから反動も無いし、搭乗員のセンスがあれば高い精密砲撃が出来るだろうね。そして不利な点だけど…」


博士は頭をかきながら魔導人形を見上げた。


アウゼン

「右肩の砲身には5つしか結晶を装填していないんだ。つまり五回しか使用出来ない…撃ち尽くしたら再装填しなくてはならないのよ。装填中は当然、無防備になるし、近接戦闘の装備は右腕のブレードしか無いんだなー」


カーク

「こりゃ…装填中は援護が無いとキツイっすね」


アウゼン

「理想としてはスラッシャーによる援護かなぁ…あとは、長距離索敵支援型「スイーパー」の魔光で撹乱するのもいいかもね♪ コイツは索敵能力に特化した機体で様々な支援装備を持ってるから」


ニック

「なんか…肩とか腰に色んなものがついていますね…動きにくそう」


呟くニックに博士は複雑な表情をしながら答えた。


アウゼン

「そんな事言わないで欲しいなぁ…スイーパーの役割は重要なんだよ? 一言で言うと小隊の目なんだ からさ」


ニック

「目…ですか?」


アウゼン

「そ…スイーパーは探知した敵の情報を近くにいる魔道人形に伝える事ができるのよ。魔光球の効果範囲は量産型に比べて2倍以上はあるから、ガンナーと連携して敵を砲撃するやり方がいいと思うよ? なんにせよ、敵の情報をいち早く掴むのは戦術的に重要だとアタシは思うし」


ニック

「そ…そうですね」


熱弁する博士に言葉で押されるニック。

アリーシャは、たじろぐニックを横目に博士に問いかけた。


アリーシャ

「博士…この機体を運用しようにも隊長がいなければ小隊として機能しません。ソル隊長があの日以来、連絡がつかないのですが…博士は知っていますか?」


アウゼン

「ソル隊長? あー…まだ言ってなかったね。ちょっと厄介な病気になっちゃったんだ。今は安静にしてなきゃいけないのよ…だから、代わりの人に来てもらったんだけどさ」


博士が手を上げると開発室の扉が開き、屈強な男が入ってきた。鍛え上げられた上半身の筋肉が着ている服を盛り上げ、腕や顔には無数の切り傷が刻まれていた。騎士と言うより盗賊や賞金稼ぎといった出で立ちの男は、ゆっくりとアリーシャ達に近づいてきた。


カーク

「ま……まさか! そんな!ソル隊長の代わりって!」


アウゼン

「サイフォン隊長だよ」


カーク

「え~~~~っ!」


取り乱しながら叫ぶカークにサイフォンは無言で拳を降り下ろした。頭を殴られ地面にうつ伏せになるカーク…サイフォンは構わず自己紹介をした。


サイフォン

「ソル隊長の代わりに、今日からお前らの隊長になったサイフォンだ。まぁ…今更、紹介するのもなんだと思うがな。こいつみてぇに知り合いもいるしよ」


うつ伏せになったカークの頭を掴むと強引に立ち上がらせた。しきりに痛がっているカークをよそにサイフォンは話を続ける。


サイフォン

「長ったらしい話は嫌いだ。とりあえず、この機体をモノにするために訓練を行うぜ。理解より慣れろ…だ。アリーシャはスラッシャー・カークはガンナー・…そこの青っちろいガキはスイーパーに乗れ! 起動までは5分やる! 遅れたものは腕立て40回だ! さあ行け!」


サイフォンの話が終わると3人は敬礼をして魔道人形に走って行った。


3人を厳しい目で見ていたサイフォンに博士が近づき話かけてきた。


アウゼン

「相変わらず厳しいねぇ~。そういえば…専用機の調子はどう? 」


サイフォン

「問題なく動いてますよ。あいつらのシゴキにはもったいないくらいに。それより博士…ソルの事、あいつらに言ったんですかい? 」


アウゼン

「いや…言ってないよ。病気…って事にしてる」


サイフォン

「そうですか…あいつ。まだ目が覚めないんで?」


アウゼン

「うん…時折うなされてるけど…駄目だね。あんな姿は見せられないよ」


サイフォン

「では、実戦テストを含めドラゴンストーンの回収は予定通りに、こいつらで行わせます。 まあ、機体の基本性能を引き出せるようになるまでは、私が鍛えてやりますがね」


アウゼン

「ありがとう…頼んだよ。サイフォン隊長」


再び白衣に手を突っ込み自室へ戻る博士…その後ろ姿をサイフォンは見送り、若き3人の魔道騎士達の指導に戻った。


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