選定者との接触
アウゼン
「…ソル兄! どうしたの!?」
魔導人形の動きが、急に鈍くなると金属が擦れあう不快な音が室内に響いた。
そして音が響く中、青く光る結界が現れ魔導人形を覆う。
アウゼン
「結界!? そんな…魔法陣が無いのに一体どうやって……」
博士は急いで駆け寄り、結界の解除を試みる。
アウゼン
「アンチスペル(解除魔法)ね…使ったのは魔導院以来だけど、そんな事言ってられないし」
解除魔法を唱え始めると、博士の身体の周りに無数の文字が回り始めた。
次第に文字が博士の左手に集まり、高速回転する文字の塊は小さな球体となる。
集まった球体を結界に向けて放つ……が、結界に触れた途端に球体は弾け飛んでしまった。
アウゼン
「詠唱と魔力は完璧だった。解除魔法が通用しないって事は… やっぱり普通の結界じゃないみたいだね」
魔導人形を見上げる博士。
アウゼン
「見たところ魔導人形に損傷は無いようだけど…動けなくなったって事は、ソル兄に何かあったに違いないよね。でも…どうしたら」
博士が考え込んでいると、魔導人形の結界が
突然消え去った。
結界が無くなり、魔導人形は力なく崩れ落ちて、仰向けに倒れてしまった。
博士は倒れた魔導人形に向かい、外側から搭乗口の扉を開いた。
中には気を失っているソルが操縦席に座っていた。
アウゼン
「ソル兄! しっかりしてよ! ねえったら!」
博士は操縦席に降りてソルの両肩を揺らす。
気がついたソルは静かに目を開けた。
ソル
「……アーシャ…か?」
アウゼン
「よかったぁ! 気がついたんだね! 大丈夫? 怪我は無い?」
ソル
「…大丈夫だ。問題ない…さあ、続きを始めるぞ」
計器を操作し魔導人形を起動させようとするソル…博士はソルの手を掴み起動を阻止した。
アウゼン
「なに言ってるのさ! こんな事になって続けられるわけないじゃない! ソル兄は救護室に行かなきゃ駄目だよ。もし身体に異常でもあったら…」
ソル
「俺は大丈夫だ。 こんな事…? 何を言ってるんだ?」
アウゼン
「まさか……覚えてないの?」
何を言ってるのか理解出来ていないソルを、操縦席から強引に連れ出そうとする博士。
アウゼン
「やっぱりソル兄は救護室に行って看てもらわなきゃ駄目! 思いっきり記憶障害を起こしてるよ!」
博士によって無理やり搭乗口から降りさせられたソルだったが、歩き始めようとしたその時、頭を抱えてうずくまってしまった。
ソル
「な…なんだ!? 頭が割れる様に痛い。吐き気もする…く…意識が…」
倒れたソルはそのまま意識を失ってしまった。
アウゼン
「ソル兄! しっかりして! 今、人を呼んでくるから!」
博士は全力で走り開発室の扉から出ていった。
開発室に1人残されたソル…突然、開発室の空間が歪むと黒い甲冑を着た女が現れ、意識を失っているソルの顔を覗き込んだ。
「…期待通りね。君のお兄さんも候補だったけど…やっぱり君を選んで良かったと思うわ
。色男さん」
甲冑を着た女がソルの額に手をのせると、黒い霧がソルの体を包み込んだ。
「余計な記憶は取り除かせてもらうわね。貴方の魂が、今後磨かれていかなければ意味がないもの。あのハーフエルフの子にも強く言っておかなきゃ…まったく余計な事を教えるんだから」
「でも…あの力を少しの間とはいえ、普通の人間である貴方が使いこなしたとは驚きだったわ。竜族の末裔でもないのに…人間は僅かながらも進化しているのかしら?」
甲冑の女は穏やかな顔をしてソルの頭を撫でている。眠っているソルの顔を見ながら立ち上がり、目の前の空間を歪ませた。
「霊子体だと地上に影響が出ちゃうから、そろそろ行かなきゃね。ごきげんよう♪色男さん…運命に抗いなさい。最後までね…フフフ」
甲冑の女は自分が作り出した歪みの中に消えていった。
女が歪んだ空間に消え、暫くしてからソルは気がついた…頭の痛みや吐き気も無くなっていたが、顔や名前も知らない1人の青年が頭に焼きついていた。
ソル
「……竜族の末裔」
誰に聞かせる事も無くソルは呟いた。




