酒場にて
魔導人形の格納庫で合流したソル達は、アウゼン博士の待つ店に向かうため、夜の街を歩いていた。
騎士団がエルフを見失った事を街の住人は知らされていない。普段通りに過ごす人々を眺めながらカークは話す。
カーク
「街の人達は、いつも通りに暮らしてますね。エルフを領地内で見失ったなんて知ったら、平穏に暮らしてなんかいられないでしょうけど」
ソル
「…公には魔導騎士団が侵入したエルフを殲滅した事になっているからな。騎士団や魔導人形の出撃理由も、警戒のためと街の住人には説明している…真実を知ったら混乱が起きる事は確実だからな」
後ろにいたニックがソルに話しかける。
ニック
「だからこそ、我々は一刻も早く出撃しなければならないのに…よりによって、オーガハウスで話を聞きたいなんて…アウゼン博士はどういう方なんですか?」
ソル
「…少し変わってはいるが、優秀な人である事は間違いない。飛び級で魔導学院を首席で卒業し、その後は魔導院に入り、研究主任を務めて数々の魔導兵器を開発した人だ」
アリーシャ
「だが博士は突然、魔導院と決別し自分の研究に没頭する。そして博士の手によって魔導人形が開発された。魔導院から離れた理由は「やり方が気に食わない」からだそうだ…魔導院が魔導人形を嫌う理由の1つはそこにある」
カーク
「でも、自分で研究して魔導人形を開発しちゃったんだからスゲーっすよ。…天才ってやつですか? あっと…オーガハウスが見えてきましたね」
カークが指を差した方向には2階建ての大きな店があった。店の外まで机を出すほど客が入っている。店員の亜人間が忙しそうに店内を駆け回り、客の注文を受けていた。
カーク
「ひゃーー! さっすがオーガスカッシュで有名な店っすね。俺も飲みたいなぁ~」
アリーシャ
「…我々は遊びにきたわけではない」
アリーシャは冷たい目でカークを睨みつける。カークは冷や汗をかきながら返答した。
カーク
「はは…冗談っすよ。あ…自分、店員にアウゼン博士の事を聞いてきます」
逃げるようにカークは店内に走って行った。
アリーシャ
「まったく…」
ソル
「まあ、そう怒るなアリーシャ。カークも冗談で言っただけだ」
ニック
「そうかなぁ? …本当に飲みたがっていたみたいですけど。 あ…カークさんが戻ってきました」
戻ってきたカークは、アウゼン博士は2階の個室にいる事をソル達に伝えた。店員の案内を受けてソル達はオーガハウスの2階の個室に入る。そこにはオーガスカッシュの酒樽と食べ物に囲まれたアウゼン博士がいた。
アウゼン
「……ン~! うまい! やっぱ仕事終わりはオーガスカッシュだわー! 堪んないねぇ~! …お? やっと来てくれたねソル隊長! じゃあ酒で乾杯といきますか」
カーク
「えっ!? 頂いていいんですか?」
アウゼン
「いーよーいーよー! じゃんじゃん飲んでチョーダイな! …ほら~いつまでも立ってないで座んなよ」
博士に言われた通りに椅子に座るカーク。
店の注文書を手に取ると、呆気にとられているソル達に向かって話した。
カーク
「あれ? 座らないんですか?」
アリーシャはカークの頭を平手で叩いた。
カーク
「…ってぇ~! 痛いっすよ!アリーシャさん」
アリーシャ
「……馬鹿野郎」
ソルは、オーガスカッシュを飲んでいるアウゼン博士に話す。
ソル
「申し訳ありませんが…博士。我々は博士に報告した後に、魔導人形で出撃しなくてはなりません。酒は遠慮させていただきます」
真面目な顔をして話すソルに、アウゼン博士はオーガスカッシュを一気に飲み終えると、ニヤニヤしながら笑って答えた。
アウゼン
「ンフフフ~…そーくるだろうと思ってさ。上に頼んで君達の出撃は無しにしてもらったんだよね~ つーことで乾杯といこうか? 小隊の皆さん♪」
人数分のオーガスカッシュを、机に並べて勝ち誇った顔をするアウゼン博士。
アリーシャは椅子に座りながら溜め息をもらした。
ソル
「仕方ありません…ですが博士。酒を飲む前に本題に入りましょう。我々が倒したエルフの何が知りたいのですか?」
アウゼン
「うむむ…流石は真面目なソル隊長。 しょーがないから先に聞いとこっか… アタシが知りたいのは、エルフが戦闘中に出した例の右手の事を聞きたいんだよね」
ソル
「それは魔導人形を切り裂いた手の事ですか?」
チビチビとオーガスカッシュを飲みながら、アウゼン博士は頷いた。
アウゼン
「そう♪ 報告書を読んだアタシの想像だけど…アレは聖剣スルトと同じ能力を使ってんじゃないかなーって思ってるワケ。まーこんな事言っても馬鹿にされちゃうだろーけどさー」
少し興奮気味にニックは博士の問いに反応した。
ニック
「せ…聖剣スルトって言ったら大魔大戦で聖騎士マルクが使っていた伝説の剣ですよね?」
アウゼン
「その通り♪ 魔導学院時代にアタシは、古代文献を専攻して研究してた時があったんだけどさ。君達の報告したエルフの右手の現象に似たものがあったなぁ~って思い出したんだよ」
ソル
「それが聖剣スルトだったと?」
アウゼン
「そ♪ 文献によるとさ… 聖剣を使用すると持ち主は神々の加護を受けてエルフ以上の存在になれるんだって。使用した聖騎士マルクは青紫に全身が輝いていたらしいよ」
博士はオーガスカッシュを片手に、横に座って話しを聞いていたソルの肩に手をまわす。
それを見たアリーシャは咳払いをする。
ソル
「たしかに似た現象ではありますが…それだけで聖剣スルトだと決めつけるのは……っ!!」
アウゼン博士は肩に手を回したソルを引き寄せて、強引に唇を重ねた。
驚きの表情をしながら、なすがままにされているソル…小隊の皆も、その光景に呆然としている。
アリーシャ
「な……なにをしているのです!博士!」
無理やり2人を引き離すアリーシャ。
博士はケラケラ笑うと笑顔で答えた。
アウゼン
「まーーいいじゃない。これから夫になる人にキスしただけなんだから」
カーク
「は…? ……なんですか夫って?」
アリーシャ
「な!?…どういう事なんですか! 隊長!」
頭に手をやりながらソルは答えた。
ソル
「我がスティング家と博士のハーツ家は深い親交がある。…これだけ言えば分かるだろう」
カーク
「親同士で決めた縁談…ソル隊長とアウゼン博士が結婚………は!?」
手に持ったオーガスカッシュを一気飲みするアリーシャ…飲み終わると机に勢いよく空の器を叩きつけ呟いた。
アリーシャ
「……もう一杯だ」
その様子を見て博士は笑顔で拍手をしている。
アウゼン
「おぉー!! いいねぇー! そうこなくっちゃねぇ~」
呑気な博士とは違い、カークは青ざめながら震えていた。
カーク
「ヤバい! アリーシャさんは酒を飲ませるとヤバいんだよ! あぁ~まずいよ」
震えるカークを尻目にニックは呟いた。
ニック
「聖剣の話は、どこにいったのやら…」




