接触
ソル
「…ではもう一度確認しておくぞ。魔導院からの報告によると魔力による空間の歪みが、王国の領地内で2カ所確認された。また歪みと同時に微弱ながらハーフエルフの反応も確認されている。我々の小隊は反応があった北へ向かう」
「了解です。…もう1カ所はサイフォン隊長の小隊が向かっているんですよね。俺…正直あの人苦手なんで…ソル隊長の小隊で良かったですよ」
ソル
「カーク…また何か言われたのか?サイフォンは口調は荒いが部下思いだ。お前に厳しいのは、それだけ期待していると思え」
カーク
「はい…でも怖いッス」
「隊長…ハーフエルフに抵抗された場合は?」
ソル
「捕獲が最優先だが…抵抗された場合は訓練通りに行動しても構わん。アリーシャ…」
アリーシャ
「了解」
…カーク・フロイド
魔導騎士団の団員の中で最も若い18才の青年。両親は農民でごく普通の平民の子である。暮らしは決して貧しくは無かったが、カークはこのまま暮らしていても農民で一生を終えてしまう将来が嫌だった。そんな時、魔導人形の適性検査が魔導騎士団の設立とともに始まったのである。
適性検査は貴族・平民、問わず無料で受けられた為、カークは家族に秘密で検査を受けた。
そしてカークは見事、適性検査に合格し魔導騎士となったのである。
ソルの次に魔導人形の操縦技術が高いが、騎士団の中で一番若い自分に自信が持てず能力を発揮できていない。
もう1つの魔導小隊の隊長サイフォンに毎日叱咤されている。
…アリーシャ・ブレード
(本名アイリス・フォン・ラディッシュ)
両親は王国魔導院の学者で優秀な家系に生まれたアリーシャだったが…魔硝石に耐性が無いのが分かると、両親は育児を放棄し彼女を孤児院に預けた。親の愛を知らずに育った彼女の性格は次第に歪み、孤児院を抜けだし荒んだ生活を送る。
いつしかアリーシャは王国の裏社会では知らない者はいない存在になってしまった。
…そんなある日、1人の騎士が彼女を捕らえに隠れ家にやってきた。
部下と共に襲いかかったが、騎士には全く歯が立たず捕らえられてしまう。
王国の牢屋でその騎士と相対すると、不思議な事に気がついた。王国の騎士は魔導人間である事が条件なはずだが、その騎士の瞳は魔導人間の証である緑色ではなかった。
その事を騎士に問いただすと、騎士は自分の身の上をアリーシャに話す…彼女にとってその話は衝撃的なものだった。
自分と同じ魔硝石に耐性が無い者なのに、彼は周りを憎まず努力し続け騎士になった…それに比べ自分は周りを憎み、世間を呪う事しかしなかった。
アリーシャはその騎士に問いかけた…私でもやり直す事は出来るのかと。
アリーシャは公には処刑された事となっている。彼女は顔と名前を変え、犯した罪は王国に忠を尽くす事で償う事となり、適性検査を受け魔導騎士となった。
カーク
「報告された場所だと歩兵部隊では1日以上かかりますが、魔導人形だと昼頃には着きますね。なんせ疲れを知らない人形ですから」
ソル
「そうだな…順調にいけば夕方には王国に戻れる。魔導人形は技師の調整が必要だが、この距離ならば問題無いだろう。魔導人形の初の実戦だ。いい結果を報告出来れば魔導院も、我々を認めざるを得ないだろう」
アリーシャ
「魔導院は魔導人形の性能に疑問を持っているのですか?」
ソル
「ああ…魔導人形が自分達より優秀なのが我慢ならないらしい。いくら魔導人間でもエルフを相手に1人で戦えないからな。まして操縦しているのが魔力に耐性がない我々だ」
カーク
「エルフを倒したから魔導人形の生産が決定したのに…何考えてるんですかね?魔導院の奴らは」
ソル
「エルフを倒したか…内容は酷いものだったが」
アリーシャ
「隊長…やはりアナタが」
カーク
「…え?隊長がエルフを倒したんですか?」
ソル
「そうだ…魔導人形の試作機で捕虜のエルフを倒した。正直、倒せたのが不思議なくらいだったがな」
カーク
「隊長でさえ…そんな奴らを俺達が倒せるんでしょうか?」
アリーシャ
「その戦闘結果を元に改良されたのが、私達が今乗ってる魔導人形だ。…心配する必要はない」
ソル
「アリーシャの言う通りだ。当時、俺が乗っていた魔導人形は試作機だったからな。魔導砲は1回で壊れる代物で…なにより反応速度が今の魔導人形より、かなり鈍かった」
カーク
「でもそんな試作機でエルフを倒したなんて…さすが隊長で……あ!隊長…ニックさんが遅れてます」
ソル
「少し速度を落とすぞ。ニックに合わせなくてはな」
アリーシャ
「やっぱり、彼にはまだ早かったのではないでしょうか?魔導人形の訓練期間も私達より短いと聞いてますが…」
ソル
「魔導人形に乗れる人間があまりに少ない…訓練期間を短くするのは俺も反対したのだが、エルフとの戦争は近いとの事で却下された。魔導人形に乗れても未熟では意味がないのだがな…」
カーク
「…エルフとの戦争…始まるんですよね」
ソル
「…そうだ。怖いのか?」
カーク
「いえ…俺なんかが本当に戦争で役に立てるかどうか不安になっていただけです。いざとなったら尻込みしそうで…」
ソル
「お前達には魔導人形の才能がある…心配するな。そしてお前達は絶対に死なさん…それが隊長としての俺の役目だ」
アリーシャ
「…隊長」
ニック
「遅れて申し訳ありません!隊長!」
ソル
「すまなかったな…ニック。魔導人形の操縦はどうだ?」
ニック
「まだ操縦の独特な感覚が掴めていません。どうしても手足が遅れてしまいます…」
カーク
「慣れっスよ。ニックさん。そのうち自分の手足みたいに動かせるようになりますから」
ニック
「…ご迷惑をかけます」
ソル
「戦闘になった場合はニックは後方で援護してくれ。魔導砲を撃つ事は出来るな?」
ニック
「は…はい!えと…出力調整して…撃たないと魔導人形が暫く動かなくなってしまうんですよね…うーんと…」
アリーシャ
「本当に大丈夫か?」
ニック
「大丈夫…だと思います」
ソル
「今回の任務ではエルフと戦う事にはならん。魔導人形であればハーフエルフが何人いても問題ない…そう心配するなアリーシャ」
アリーシャ
「ええ…ですが何か嫌な予感が……っ!!!…隊長!これは!?」
ソル
「結界…だな。報告された場所はまだ先のはずだが…全員戦闘態勢をとれ!」
カーク
「た…隊長!…ハーフエルフだけでなくエルフの反応もあります。数は…エルフが2…ハーフエルフが1」
ソル
「この反応…エルフの片方は相当厄介だが…このまま見過ごすわけにはいかん。王国の領地内でエルフがいるなどと、あってはならん事だ。速やかに排除する」
「了解!」
魔導人形達は隊列を組みながらエルフの反応がある場所に進んで行く。
魔導人形とエルフとの戦いが始まろうとしていた。




