覚醒
「…よくもっている…下界の者とはいえ、さすがは前大戦の英雄の生まれ変わりと言ったところか」
エイト
「……生きてるか?」
片膝をつき地面に刺した剣に寄りかかりながらアレスに話しかける。最初の人間の力を使用し、潜在能力を引き出したが悪魔には全く通用しなかった。
身体の限界を超えて酷使した為、体力は無くなりかけていた。
アレス
「人間の身体は……ひ弱で…いやだ」
四つん這いになりながら、アレスは半分に折れてしまった大剣の柄を握る。
幾度も剣撃を打ち込むが通用せず、攻撃の度に反撃を喰らいアレスの身体も限界に達していた。
(……お前はローズを連れて逃げろ)
(な……お前は何を言って…)
(どのみちこのままじゃ全滅だ……時間稼ぎは俺がやる)
(無理だ…殺されるだけだぞ)
(心配してくれてるのか?)
(………)
(俺は生き返る事が出来るのは知っているだろ?この役を俺がやるのは当然だ)
アレス
「アイツに死者にされても…生き返れるのか?」
エイト
「……多分な…早く行け」
中々行こうとしないアレスから大剣を奪い取ると、背中を突き飛ばした。
ようやくローズの方へ向かう様子を横目で確認しつつ、2刀で女の正面から飛び込み渾身の力で斬りつける。両手で剣を受け止めると、女は呆れた顔をして話してきた。
「何を話しているかと思えば…逃げる算段をしていたとはな。…ガッカリさせないで欲しいものだ。…お前1人で足止め出来ると本気で思っているのか?」
女は溜め息をつきながら受け止めた剣を放した。
エイト
「……やってみなきゃ分からないだろ」
2刀で挟み込むように剣撃を繰り出すが、全て防御される。能力を使用した反動で、剣を持つ両腕が痙攣していた…だが2刀で攻めなければ意味がない。
両手を封じなければアレスに向かって力を使い、逃げるのを阻止するだろう。
コイツは手から力を使用する。
手の感覚がほとんど無い左手で大剣を振ろうとするが、痙攣した腕が無意識に剣を放してしまった。
剣を落とした事に気づかず、何もない左手を空振りした瞬間…女の手が俺の胸を貫いた。
エイト
「…くそったれ…め…」
胸を貫いた腕を掴むが手に力が入らない…体の四肢が糸が切れた人形ようになり、女の体にもたれかかった。
女は貫いた胸から無造作に手を抜き取ると、アレスに向かって俺を投げ飛ばした。アレスの目の前に無惨に転がると、背負ったローズを地面に降ろして、アレスは俺を抱きかかえた。
エイト
「…俺に…構うな…早く…にげろ……」
アレス
「………………」
……頬に雫が落ちてきた。
エイト
「……泣いている…のか…」
アレス
「……違う…」
エイト
「……悪いな…時間稼ぎも…出来なくてよ…」
アレス
「そうだよ…何やってんだ…だから…早く起きろよ…」
エイト
「……………」
声に答えようとしたが、冷たい感覚が体を包む…意識が遠くなり始め、必死に呼びかけてくるアレスの声は徐々に聞こえなくなった。
女はすでにアレスの目の前に立って見下ろしていた。
「これは必然だ…1人で私を抑え込むなどと考えた時点でな。…馬鹿な奴だ。結果が分かっていながら無謀な事をする愚か者だったとは…とんだ英雄だな」
アレス
「……くそーーーっ!!!」
素手で女に殴りかかるが、逆に首を掴まれて持ち上げられる。
「…面白い物を見せてやる。お前の目の前でダークエルフの娘を引き裂いてやろう。フフ……仲間が死んでいく様を続けて見られるのだ。お前は運がいい」
女は残った左手で力を使いローズを空中で持ち上げた。
アレス
「く……やめ…ろ」
「このまま首をへし折り…臓物をかき出してやろう。さぞ眺めがいいぞ…フフフ」
……ゴキッ!!!
女はアレスを突然放し飛び退いた。
先程の骨が折れた音はローズの首ではなく、
女の手首がへし折れた音だった。
「その燃えるような赤い目…お前が融合したのは地竜か。あの腕力からして予想はついてはいたが…覚醒したか」
アレス
「お前は……俺が殺す」
そこには少年の姿ではなく、青年の姿になったアレスが立っていた。
褐色の肌と白髪は変わってはいないが、瞳は生前のドラゴンと同じく燃えるような真紅の目をしている。
女に向かって息を吸い込み始めると、口の周りには赤い光が集まり火球を作りだした。
轟音と共に凄まじい速度で火球を吐き出す。
火球は女に直撃し後方に吹き飛ばしたが、空間が歪むと追撃の為に走りだしていたアレスの目の前に女は突然現れた。
「…図に乗るな」
アレスの腹部を蹴り上げると、頭を掴み地面に叩きつける…足でうつ伏せになった頭部を押さえつけると、背中に向けて貫手を放った。
「それくらいにしておきなさいな」
背中を貫こうとした貫手を掴む手があった。
「邪魔をするな…選定者」




